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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第一話 反り橋を渡る
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八.紡と桃子、九字護身法にて反り橋を渡ること

 その晩桃子が庭で飼い犬の大五郎(だいごろう)と遊んでいると、


「おい」

「はい?」


声の方を見ると一羽の鶏がいた。


「に、鶏? どうしてこんな所に……」


桃子がゆっくり近付くと、


「そろそろ身支度しな」

「なんと!?」


鶏から紡の声が! 桃子が大声で腰を抜かしたので大五郎が吠える。


「ちょっと桃子〜。何かあったの〜?」


リビングから母親が歩いてくる気配を感じた鶏は


「じゃあね。早く来てね桃子ちゃん」


と言い残し、意外な跳躍力で塀の向こうへ消えた。


「な、な、何あれ……」

「もう、どうしたのよ桃子。返事くらい……って、そんなところで尻餅ついてどうしたの。お化けでも見た?」

「多分下手なお化けよりバケモンなのなら……」



「貴方鶏に変身出来るんですか!?」


桃子が待ち合わせ場所に着くと紡はスペアリブと戯れて待っていた。しかし格好が昼間と違い承和(そが)色の中華道士服のような格好をしている。


「違うよ。ちょっとお使いに出しただけ」

「あれがお使い……。しかし、よく私の家が分かりましたね」

「鶏は庭渡(にわたり)とも言ってね、庭さえあれば何処へでも通じる」

「それと家を知ってるのは別問題では……」

「それより始めようか、時間もちょうどいい」


紡は腕時計を確認するとスペアリブを帰した。そして、


「珠姫ちゃんの歩くペースはこのくらい……、メモした秒数は?」

「えっ?」

「防犯カメラの」

「あ! すいません、メモ持ってきてないです……」

「二十二秒! 行くよ!」

「自分で覚えてたんですか! なんのためにメモを!」

「君がポンコツオーラを漂わせてなければ任せたんだけどね」


カメラで見たペースでテクテク進み、あっという間に例の反り橋へ。この時間には警察も警察犬もいない。

紡はもう一度腕時計を見る。


「よしっ。二十時もうすぐ一分!」

「それがどうかしたんですか?」

「私達は十九時と二十時の違いこそあれど、珠姫ちゃんと同じ五十八分二十二秒にあの家を経って、彼女と同じペースで歩いて来た。すると時刻がちょうど変わる辺りでこの反り橋に至った。つまり……」


紡は反り橋の真ん中まで進み出る。


「桃子ちゃんも来て。靴かハンカチは貰って来たかな?」

「あ、はい。今履いてる靴に穴が開いた時用の古靴を」

「上出来」


紡は桃子に微笑み掛けると正面を向き直った。そして……、


(りん)(びょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)

「あ、それって」



「九字切りってやつ、です、よ……ね……?」



桃子が周りを見るとそこは夜の街中の反り橋ではなく、真昼の花畑の小川に掛かる反り橋だった。


「ぎょええぇぇ〜っ!?」

「うるさいなぁ」

「うるさって、えぇ〜っ!?」

「いいから靴出して」

「は、はい!」


頭が追い付かない桃子だが、紡が説明してくれる様子は無いので大人しく靴を渡す。紡はそれを顔の高さに捧げ持つと、


「ウカノミタマ、トヨウケビメ、(しか)るべき物は然るべき場所へ、然るべく失せ物は主の元へ」


ふっ、と靴に息を吹き掛けて地面に下ろすと、


「なんと!」


誰も履いていない二足の靴が、勝手にパタパタと歩き始めた。


「『なんと!』とはまた、個性的なリアクションだね」

「く、く、く、靴が! 怪奇現象!」

「本来は失せ物探しの『呪』で探し物の方から出て来てもらう為に使うんだけどね。でもこういう時は逆に物を追って持ち主を探せるって寸法」

「さっきの呪文みたいなのがですか?」

「そう。ウカノミタマは所謂(いわゆる)お稲荷様。トヨウケビメはそのウカノミタマが習合されてる神様。昼間のシヴァとインドラみたいな。それらの『呪』を借りたというわけ。お稲荷様には失せ物探しの神徳があるからね。後で調べてご覧? 日本全国あちこちで失せ物稲荷が見つかるよ」

「はえぇぇぇ……。持ってくる物を靴にしたのは?」

「最初から歩く『呪』が掛かってる物だから一番移動がスムーズ。ハンカチならチョウチョにでもして飛ばしたかな」


そんな雑談をしながら靴を追っていると、


「えぇ〜ん……、ママ、ママぁ……」

「女の子の声がしますよ!?」

「うん。見つかったみたいだね」

「ママぁ……」


するとそこには、桃の木の下で膝を抱える女の子が。


「お嬢ちゃん、もう大丈夫だよ」

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