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005「称号『ハズレモノ』」



「さて、最後は⋯⋯」


 シャルロットがそういうと、ここにいるすべての視線が俺に向けられた。


 い、嫌だ、見せたくない!


 俺のこんな⋯⋯⋯⋯『ハズレ(・・・)』なステータスなんて!


 なんで? どうして? 俺が何をしたよっ!?


 どうして俺だけ、いつもいつも『ハズレ』ばかり引くんだよっ!?


 異世界に来てもこんなって⋯⋯⋯⋯どれだけ俺、神に見放されてんだよ。


「では、クサカベ様見せてください⋯⋯」


 そう言って、シャルロットが俺に近づきステータスを見にきた。


 俺は自分のステータスを見られるのが嫌だったので「閉じれ!」と念じる。すると、ステータスが目の前から消えた。


「え? あ、あの⋯⋯すみません。ステータスを⋯⋯見せていただけませんか?」

「あ、いや、その〜⋯⋯自分のステータスは⋯⋯た、大したものでは、ないので⋯⋯」

「そういうわけにはいきません。今後のことを考えても救世主様すべてのステータスは把握する必要があります。ですからステータスを開いてくださいませ」

「そ、それは⋯⋯」

「おい、何わがまま言っているんだ、日下部!」

「っ!? ひ、柊木!⋯⋯君」

「シャルロット王女を困らせるんじゃない!」


 こいつ⋯⋯自分は『勇者』だからって、もう『主人公きどり』かよ!


 ていうか、どうして、柊木は異世界に来ても『勇者(特別)』なんだよ⋯⋯。


 結局、どんな世界でも特別な奴ってのは初めから決まっているのかよ! マジ、ふざ⋯⋯け⋯⋯んなよ。


 俺は今にも泣き出しそうな気持ちを必死で抑える。


「クサカベ様。⋯⋯ステータスをお願いします」

「早く見せろ、日下部っ!」

「早くしろよ、瑛二っ!」


 俺のステータスを見れば誰だって思うはずだ。⋯⋯⋯⋯「ああ、これハズレのやつ(・・・・・・)だな」って。なんせ、俺のステータスに記されている『称号』は、


「おい、瑛二! さっさとステータス開けろっ!」

「ひぃっ!? わ、わかったよ⋯⋯柊木君」


 もう⋯⋯⋯⋯逃げられない。


 そうして俺は、ステータスを⋯⋯開い⋯⋯た。



********************



「あ、ありがとうございます。では失礼します。えーと⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」

「(ビクッ!)」


 シャルロットが俺のステータスを見るや否や⋯⋯⋯⋯固まった。


「な、何ですか、これ⋯⋯は⋯⋯?」

「どうしました、シャルロット様? どういう『称号』なのですか?」

「お? なんだ、なんだ? どうした〜?」


 シャルロットの反応に、じーさんたちや柊木らが俺のステータスを見に集まってきた。


「しょ、称号⋯⋯⋯⋯『ハズレモノ』?」


 シャルロットが俺の『称号』を呟いて、首を(かし)げた。すると、周りのじーさんたちも、


「ハ、ハズレモノ? 何ですか、その称号は? 聞いたことありませんぞ?」

「し、しかし、レベル1とはいえ、何という⋯⋯⋯⋯低いステータス値(・・・・・・・・)。これなら、まだ我が国の平民のほうが上ですぞ? あ、いや⋯⋯失敬⋯⋯」


 じーさんらの評価が軒並み予想通りで胸が痛い。


「この能力値を見るに『ハズレモノ』という称号は⋯⋯⋯⋯『ハズレ者』ということでは?」

「こ、これは、何とも⋯⋯残念な(・・・)⋯⋯」


 そんな、じーさんたちの態度も、最初はまだ言動や態度に遠慮が見られたが、数分も経たないうちに見下す(・・・)態度へと変わっていた。


 しかし、俺はじーさんたちのそんな態度(・・・・・)に怒る気力がなかった。


 そりゃ、ハズレもハズレなステータスじゃ⋯⋯な。


——————————————————


【ステータス】


名前:エイジ・クサカベ(異世界人)

年齢:16歳


称号:ハズレモノ

レベル:1/??


HP:19/??

MP:11/??

身体能力:12/??

身体硬度:5/??


魔法:なし/??

固有魔法:なし/??

固有スキル:なし/??

体術:なし/??


——————————————————


「しかし⋯⋯何でしょう? この『??』というものは?」


 そんな中、シャルロットだけは俺のステータスの低さについて触れなかった。


 いや、触れなかったわけではないが、それ以上に俺の数字の横にある『??』に関心を示したのだ。俺も自分のステータスの表記が、他のクラスメートとは違うことに少なからず疑問を抱いていた。しかし、


「わかりませんが、少なくとも『低スペックステータス』であることには変わりありませんな」

「た、たしかにそうですが⋯⋯。しかし、この他の救世主様たちとは異なる表記は何か意味があるのかもしれません。もしかしたら、何か特別な称号(・・・・・・・)なのかも⋯⋯」

「そんなことよりも、シャルロット様っ!!」

「(ビクッ!)は、はい! な、何でしょう、ブキャナン宰相⋯⋯!」


 ここで、お偉いさんの中でも特別、図体も態度もデカい筋骨隆々の中年男性が、よく通る声でシャルロットの言葉に被せるように進言した。


「異世界から召喚された救世主様が、このような『低スペックステータス』では⋯⋯その⋯⋯かなり問題(・・)かと⋯⋯」

「え? 問題? 何が⋯⋯ですか?」

「⋯⋯異世界の救世主様というのは、本来『高スペックステータス』を持つ者です。そして、そのような『貴重な存在』であるが故、我々は国を挙げて手厚く保護するわけですが⋯⋯⋯⋯しかし、このエイジ・クサカベ様は『低スペックステータス』。しかも、この世界の一般人(・・・・・・・・)とさほど変わらないか、それ以下のレベルです。そのような無能者(・・・)では、いくら異世界から召喚された救世主様であっても、他の『高スペックステータスの救世主様』と同列に扱うというのは、正直、いかがなものかと⋯⋯」

「な、何が、言いたいのですか、ブキャナン・ジオガルド宰相⋯⋯」


 シャルロットは、ブキャナンというおっさんの言葉にキッと口を真一文字にして睨み返す。しかし、


「⋯⋯言っていいのですか? この場で?」

「⋯⋯」


 ブキャナンは、それ以上にシャルロットに睨み返す。


 だが、シャルロットは悔しい顔をするもそれ以上否定することはなかった。おそらく、ブキャナンの言葉は間違っていない(・・・・・・・)と思っているのだろう。


 そんな、二人のやり取りにへこんでいた俺に、クラスメートがさらに傷を抉ってきた(・・・・・)


「ギャハハハ! 何だよ、この能力値! 瑛二、お前、雑魚過ぎっ!」

「⋯⋯なるほど。だから、日下部はステータスを見せることを渋っていたのか。まあ、確かにその能力値は何と言うか⋯⋯その⋯⋯残念だな」


 他の生徒(やつら)が俺に色々と声をかけてきた。しかも、そのほとんどが嫌な言葉(嫌み)だった。


 まず最初に、大笑いしながら話しかけてきたのは小山田信二。次に声をかけたのが柊木拓海。


 柊木に至っては俺に同情のポーズを示しながら、周囲から見えない角度で、且つ俺だけには見える位置でニヤニヤと嘲笑っていた。


「おいおい、瑛二。お前は異世界に来ても『使えない奴』のようだな。⋯⋯情けねー」

「翔太⋯⋯君⋯⋯」


 吾妻翔太は「情けない」と言って、俺に残念そうな顔をしてきた。


 いや「情けねー」って、俺にどうしろってんだよ!


 オタクの吉村稔は、特に何も触れてこなかった。


 ていうか、俺のステータスにはすぐに興味を失ったのか、一瞬俺のステータスを見たらすぐに離れて、自分のステータスを見続けていた。まーその態度が『答え』だろう。


「瑛二君、その⋯⋯大丈夫だよ! みんなで助け合えば何とかなるから!」

「⋯⋯気にするな」


 最後に声をかけてきたのは、クラス担任の嶋由美ことユーミンと、一年マドンナの古河美咲。


 ユーミンは俺を励まそうと必死に明るく声を掛けてくれたが、クラス委員長の古河は「気にするな」とボソッと一言呟いただけだった。


 ただ、何となくだが、俺はユーミンの励ましの言葉より、古河の一言になぜかすごく⋯⋯⋯⋯励まされた。



********************



「さて、皆さん⋯⋯これで全員分のステータスを把握しました。やはり文献どおり、異世界の救世主様方は高い能力値と同時に『称号』も滅多に出ない特別な称号ばかりでした。また、固有魔法もレベル1の時点から1つ以上持っているという高スペックぶり。『固有スキル』は、全員が『女神の加護』が備わっており、さらに⋯⋯ヒイラギ様に至っては固有スキルが2つ⋯⋯⋯⋯。しかもその1つが『勇者の加護』と文献で邪神に止めを刺した『勇者』と同じ固有スキルを持つという、素晴らしい結果でした!」


 シャルロットが興奮気味に俺たちにステータスの鑑定結果を説明した。


「すみませ〜ん、シャルロット様。『女神の加護』は全員には備わっていませんよ〜。『一人(・・)を除いた全員』が正しいかと〜。ギャハハハ!!!!」

「⋯⋯くっ!」


 今、シャルロットにあからさまな訂正を告げたのは小山田。


「ちくしょう、あいつにも負けているなんて⋯⋯!」などと、最初は息巻いていた俺だったが、次第に「俺はこの中で一番能力が低い。いや、それどころか、この世界の一般人と同等かそれ以下って⋯⋯⋯⋯本当にただの無能じゃねーか」と、心はどんどん病んでいった。


「俺って、この世界にいる意味⋯⋯⋯⋯無いじゃん」


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