029「謝罪」
「⋯⋯ブキャナン宰相。救世主を辞退することで、一つお願いがあります」
「願い? なんだ、言うてみよ?」
「前にも話しましたが、今後この世界で生活していくために学園で学びたいので、学生として通うことを許可してもらえないでしょうか?」
「ぬ? 学園の生徒に⋯⋯だと?」
俺はエルクレーン王国の教育機関である『エルクレーン王国総合学園』へ生徒として通いたいと申し出た。
「はい。この世界のことを知る時間が欲しいのです」
「良いだろう、許可しよう」
「え⋯⋯?」
俺はブキャナンがあっさりと認めたことにちょっと驚いた。しかし、
「ただし、そうなると、お前は『救世主の地位』は剥奪され、以降『平民』という扱いになる。そうなれば、お前の学園での地位は『平民の生徒』という扱いになるが、それでもいいんだな?」
「?」
俺は一瞬、ブキャナンが言っていることが理解できなかった。いや、理解はできるが、何と言うか「何を当たり前のことをわざわざ言うんだ?」と思ったのだ。
しかし、そこでシャルロットがブキャナンに進言する内容を聞いて「なるほど」と理解する。
「そ、そんな! ブキャナン宰相! それでは、あまりにもエイジ様の『扱い』が酷すぎではありませんか!? エルクレーン王国総合学園内は表向きは『身分差による偏見は無い』となっていますが、実際は『貴族中心』です。そんな中に⋯⋯しかも『元救世主が平民』となって通うとなれば、それはあまりにもエイジ様の学園での立場が⋯⋯」
つまり、シャルロットが言いたいのは「貴族中心の学園では平民は肩身が狭い」ということと、さらに「元救世主が平民」という⋯⋯いわゆる『身分降級』となれば「さらに肩身が狭くなる学園生活を余儀なくされる」と言いたいのだろう。
まー、そうだろうな。『異世界もの』での学校なんてそんなもんだ。むしろ、テンプレ過ぎて『古典芸能』に近いわ。
「シャルロット様、ありがとうございます。でも、俺は大丈夫です」
「エイジ様⋯⋯」
「よく言った、クサカベ! お前のその心意気に免じて『学費は無償』にしてやる! さらに学園寮も無償で使うことも許そう!」
「ありがとうございます! でへへ⋯⋯」
俺は満面の媚びた笑みでブキャナンにお礼を言う。ブキャナンがそんな俺の媚びた笑顔を見て嬉しそうだ。おそらく、俺が『自分に屈服した』とでも思って愉悦に浸っているのだろう。
「この条件ならクサカベも生活に困らず、学園でしっかりと学べる環境だと思いますが⋯⋯いかがですか、シャルロット様」
「エイジ様は、本当に⋯⋯本当に⋯⋯『貴族中心のエルクレーン王国総合学園』に通うことでいいのですか?」
「もちろん! 学費も寮も無償で使わせてもらえるのなら十分です」
「そうですか⋯⋯⋯⋯わかりました。エイジ様がそう仰るのなら、その申し出を許可します」
「ありがとうございます!」
こうして、俺は救世主を辞退し『平民』として、エルクレーン王国総合学園へ通うこととなった。
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「どうだった、エイジ?」
俺は今、城の自分の部屋にいた。そして、そこにはハクロもいた。
ハクロには事前に俺の部屋に侵入して隠れてもらっていた。
「んー、まあ何とか学園へ通えるようになったよ」
「おお! ということは、図書館に入ることもできるんじゃな!」
「ああ。ま、とりあえず予定通り学園の生徒になることができたから、俺は普通に生徒として活動するよ。ハクロは図書館で調べ物とかしていてくれ。⋯⋯ていうか、自由行動だ」
「よっしゃー! 楽しみじゃのー!」
ハクロはかなり嬉しかったようで、ベッドの上でピョンピョン飛び跳ねている。
まあ、千二百年もの間、あのダンジョンの最下層から出たことがないんだ。そりゃ、外の世界はテンション上がるだろうな。
「さて、ハクロ、お前が図書館で調べ物となると学生のフリをしなきゃいけないのだが、そうなると変装する必要がある。⋯⋯わかるな?」
「おお」
「しかし、その変装のためには学生服が必要なんだが、その入手をどうしようかという問題がある」
「ふむふむ」
「⋯⋯どうしよう」
そう。ハクロの変装には学生服が必要だ。しかし、俺は男性なので女性用の学生服は持っていない。
うーむ、これはマジでどうしよう。⋯⋯そんな、ハクロの変装問題を考えている時だった。
コンコン。
ドアをノックする音。開くとそこには、
「ちょっといいかな、日下部君」
「っ?! ふ、古河っ!」
「⋯⋯瑛二」
「吾妻っ?!」
クラス委員長兼1年マドンナ『古河美咲』と、いじめっ子の赤髪リーゼント『吾妻翔太』の姿があった。
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突然、部屋に訪ねてきた二人を俺は中に入れる。
ちなみに、ハクロは今のところ誰にも知られたくなかったので隠れてもらった。
「⋯⋯何のようだ?」
俺は警戒をしながら二人に声をかける。
それにしても、この二人の組み合わせって珍しいな⋯⋯何事だ?
「瑛二⋯⋯⋯⋯すまなかったっ!!!!」
「えっ!?」
俺は吾妻の突然の謝罪にビックリする。そりゃ、そうだろ? だって、この間まで俺をいじめていた男だぞ?!
「な、なんだよ、突然⋯⋯っ?!」
「俺は⋯⋯これまでお前をいじめていたことを謝りたくて。⋯⋯だが、お前が死んだと聞いて⋯⋯それでショックで⋯⋯もう二度とお前に謝ることができないと思ったら⋯⋯すごく後悔して⋯⋯それで⋯⋯」
うむ。全然意味わからん。すると、
「えーとね、つまりね、吾妻は日下部君に⋯⋯」
そう言って、なぜか古河が吾妻の謝罪の理由を説明してくれた。
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【吾妻の謝罪内容】
本当は小2の最初の時のように友達になりたかったが、瑛二が俺から離れていったので、瑛二を無理矢理舎弟にして気づいたらいじめるようになっていた。それを謝りたい。
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「ああ、小2の頃⋯⋯。そういえば、そんなこともあったな⋯⋯⋯⋯忘れてたよ」
「本当は、俺はお前と小2の最初の時みたいにただ仲良くしたかっただけなんだ。でも、何だかお前が俺から離れていったから、それで無理矢理、お前を舎弟のように扱ってしまった⋯⋯」
「⋯⋯」
俺は一瞬、間を置いて再び喋り出す。
「⋯⋯おい吾妻。お前、自分の言っていることがどれだけ独りよがりなことを言っているのかわかっているのか? お前が俺を勝手に『舎弟』だと言って無理矢理仲間にして、でも、俺はその中でいじめられ続けて⋯⋯そんな状態が高校になるまでずっとだぞ! 今さら何言ってんだ! ふざけんな!」
俺は調子の良いことを言う吾妻に怒って、気づけば胸ぐらを掴んでいた。
「⋯⋯す、すまない。まったくお前の言う通りだ。で、でも、最初、何度か話をしたときお前は俺の仲間に入ることを断ったじゃないか!」
「当たり前だっ!! お前は小2のときに体格が大きくなって、それから周囲の奴らにケンカで負け知らずになって調子に乗っていたじゃねーか! 俺はそんな調子に乗ったお前が嫌だったんだよ!」」
俺は吾妻の勝手な言い分にカッとなって一気に捲し立てる。
「それにだ! お前は。ただムカついたからって俺を舎弟にして、それだけじゃなく高校一年生になってもずっといじめ続けたんだぞ! 俺がどれだけ惨めで辛かったかわかるかっ?! わかるなんて言うなよ! いじめる側の人間がわかるわけないんだからな!」
「⋯⋯す、すまない」
「たしかに小2の頃、お前とは仲良かったことは覚えているよ! だって、あの頃のお前は俺よりも体が小さくていじめられる側だったからな⋯⋯」
「⋯⋯ああ。そして、俺がいじめられたときに助けてくれたのが⋯⋯⋯⋯お前だ」
「そうだ! それが小2になって体格が大きくなってくると、ちょっかい出してくる奴らにもケンカで負けなくなったおかげでお前は調子に乗り始めた。その頃からだよ、お前との間に距離を感じたのは⋯⋯。だから俺はお前から離れたんだよ」
「え、瑛二⋯⋯」
「それをっ! それなのに⋯⋯今頃になって『仲良くなりたい』とか『いじめてすまん』だとか⋯⋯⋯⋯ふざけんなっ!!」
俺は吾妻に言いたかったこと、すべてをぶちまける。吾妻はそんな俺の言葉をずっと下を向きながら聞いていた。
俺と吾妻が同時に沈黙する。⋯⋯正直、気まずい。
なんせ、吾妻からそんな『謝罪』を受けるなんて思ってもみなかったからだ。
「俺は⋯⋯俺は⋯⋯これまで、お前へのいじめに『罪悪感』を感じることが無くなっていた。それくらい、クソみたいな奴になっていた。でも、お前が『死んだ』と聞かされて初めて⋯⋯『お前をいじめ続けていたクソな自分』に気づかされた。そして、同時に『もう二度とお前に面と向かって謝ることができない』と知った時、激しく後悔したんだ」
「⋯⋯」
俺は黙って吾妻の話を聞いた。
「瑛二⋯⋯本当に、本当にすまなかった。これまで俺はお前をずっといじめてきた。そんなお前からすれば俺の謝罪の言葉なんて何も響かないだろう。⋯⋯でも、それでもいい! お前が生きてさえいれば! お前が俺のことを許してくれる日なんて来なくてもいい! ただ、お前が生きてさえいれば、俺はお前に何度でも『罪滅ぼし』ができる! 俺はそれだけできれば十分だ!」
すると吾妻が突然土下座をした。
「お、おい⋯⋯吾妻っ!?」
「何か必要なことがあれば何でも言ってくれ! 俺にできることなら⋯⋯⋯⋯何でもするっ!!!!」
ん?
んん?
今⋯⋯何でもするって言ったよね?
俺は吾妻のその言葉にピコーンと閃いた。




