023【幕間】「柊木拓海はかく語りき」
——柊木拓海の場合
俺の名は、柊木拓海。
今から約二週間前、この地球とは異なる世界⋯⋯『異世界』に召喚魔法で俺たちは召喚された。
召喚された場所は『エルクレーン王国』という国。そこの国王であるシャルロット女王からこの世界の危機を救うため、『異世界の救世主』として俺たちを召喚したと説明される。
最初は「勝手に何してんだ!」という怒りもあった。しかし、シャルロットの話を聞いていくと、俺たちは一度、死んだらしく、その『魂』となった俺たちをここに召喚させたと言った。それは見方を変えれば『命を救われた』とも言える。
それを聞いて、俺は「地球に戻るという選択肢はないな」と瞬時に判断。すぐに頭を切り替え、今度は自分の置かれている状況把握に努めることを最優先とし、シャルロットにいろいろと質問をした。
結果、俺たちは「これから世界で『救世主』として生きていくしかない」ということがわかった。
正直、ものすごい不安に駆られたが、しかし、次にシャルロットから出た「異世界転生者には特別な力がある」という言葉に俺は一気にテンションが上がった。
俺は、シャルロットの言葉を聞いて「漫画とか、最近オタクの奴らに人気のある『ラノベ』というやつの『異世界ものの主人公』みたいな話ではないか!」と予測。そして⋯⋯⋯⋯その予測は正しかった。
その後、指示通りに『ステータス』を開いて、シャルロットや周りのお偉いさん方に見せると、そこにいた皆が俺のステータスを見るや否や、どよめきと共に大きな歓声を上げたのだ。
俺の称号は『勇者』だが、これは昔、邪神に止めを刺した者の称号が『勇者』だったことから、その『勇者』という称号を持った俺は救世主の中でも『特別な存在』ということで皆から賞賛された。
フフ⋯⋯どうやら、ここでも俺は『特別な存在』らしい。
ここに来る前⋯⋯地球にいた頃、高校生だった俺は学校でもスポーツ万能、成績優秀、おまけに、ほとんどの女子から好意を持たれるような人間⋯⋯⋯⋯要するに、俺はここに来る前から、すでに『特別な存在』だったのだ。
この瞬間——俺の中にあった不安はすべて消し飛んだ。
俺はこの世界での『第二の人生』を、地球にいた時よりももっと素晴らしいものにしようと決意する。
この世界には『魔法』といった漫画や映画に出てくるような力がある。そして、俺にはその力もあるし、今後、もっと成長して強くなる才能もある。その力を持ってすれば、この世界で俺は『人々から賞賛される偉大な人間』として崇められる存在となるだろう。
だって⋯⋯⋯⋯『すべてを持った特別な存在』だから!
きっと、俺の未来はお金・地位・名誉・権力⋯⋯すべてを手に入れた『偉大なる人物』になっているだろう。
最高だ! 最高の人生だ!
この世界は俺のためにある!
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最近から、俺たち救世主の力をつけるための『特訓カリキュラム』が始まった。
その特訓終了後には、必ずシャルロットへ報告をする必要があるため『王宮の間』へと行くのだが、そこで俺がみんなを代表して報告をすると、その報告終了後、シャルロットは必ず日下部だけに声をかけた。
別に一言、二言ではあるが⋯⋯⋯⋯実に面白くない。
俺という救世主の中でも『特別な存在』がいるにも関わらず、無能な日下部だけに話しかけるのだ。そして、声をかけられている日下部本人は鼻の下を伸ばしてデレデレとニヤついている。
日下部は『ハズレモノ』というよくわからない『低スペックなステータス』で、城の奴らだけでなく、俺らの中でも『無能』扱いだった。
そんな、無能なくせにシャルロットが親しく日下部と話しているのを見ると、「この身の程知らずの無能め!」と、その苛立ちはどんどん俺の中で募っていった。
ただの『無能で役立たずのクズ』のくせに、なぜ、お前だけがシャルロットから贔屓される!
こいつ、殺してやろうか⋯⋯?
そんなときだった——吉村が「日下部がムカつくから殺したい!」と言ってきたのは。
正直、吉村の提案は俺からすれば願ってもないことだった。
「この世界は、本当に俺を中心に回っているのかもしれない」⋯⋯そう思えるくらいに。
しかし、ここで同じテンションで賛同するのはよろしくない。そこで、俺は吉村の日下部への憎悪を『同情』という形で応援する立場を取った。
すると、俺の作戦通りの立ち回りに気づいた小山田もすぐに俺に『アイコンタクト』を返し、俺に話を合わせた。ちなみに、この作戦はすべて小山田の作戦だった。中々、使える奴だ。
結果、俺たちは吉村に協力するものの『吉村が単独で日下部を殺す』という吉村を実行犯とすることに成功した。
その後、俺たちはダンジョンで作戦を実行し、吉村は日下部を崖へと突き落として殺した。
正直、人を殺すことに躊躇いがあるかと思ったが、意外にも、それ以上に日下部への『怒り』が勝っていたのか、特に大きなショックを受けることもなく、俺は日常へと戻った。
「まあ、日下部はどのみちこの世界では生きていけなかっただろう。まして、魔物に痛い思いをしながら殺されるよりも、崖から落とされてひと思いに死んだだけ痛い思いをしないで済んでよかったんじゃないだろうか。むしろ、俺たちは奴に感謝されるようなことをしたんじゃないか!」
そう思うと、俺は「むしろ良いことをしたな」と自分で自分を褒めた。
さて、これで目障りな奴もいなくなったことだし、あとは『日下部の死』を利用して、シャーロットの気持ちを俺に向けさせるか。
日下部、お前の死は決して無駄にはしないw




