017「白い龍」
——???階層とある部屋(現在)/瑛二
「こ、ここは⋯⋯どこだ⋯⋯?」
目を覚ますと、そこは天井の高い石造りの部屋だった。
周囲には松明というより、むしろ『地球の街灯』に近い明るさを発する光が壁にいくつもかけられていた。どうやら、人工的に作られたものっぽい。
それだけならまだよかった。
いや、自分の状況がまったくわかっていない俺が「それだけならよかった」というのもおかしな話だが、でも、そんな言葉が出てしまうほど、その部屋には⋯⋯⋯⋯|一際大きな存在感を放つモノ《・・・・・・・・・・・・・》が目の前にいた。
「し、白い⋯⋯龍⋯⋯?」
目の前のソレは、この部屋の高い天井に頭がつきそうになるほど大きな、そして、神々しいほどに白く輝く一匹の⋯⋯⋯⋯『白い龍』だった。
<⋯⋯目覚めたようじゃな>
「っ?! しゃ、しゃべ⋯⋯」
<悠久の時を越え、遂に『ハズレモノ』がこの世界に顕現したか>
「え⋯⋯?」
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——???階層とある部屋(三日前)/白い龍
ワシは待つ。
今日も待ち、明日も待ち、その次の日も、その次の次の日も⋯⋯。
ワシは待った。
昨日も、一昨日も、その前の日も、その前の前の日も、十年前も、百年前も、千年前も⋯⋯。
千二百年前⋯⋯からこうしてワシはずっと待っておった。
そして、その日は来た。
遂に現れたのじゃ⋯⋯⋯⋯『ハズレモノ』が。
その者は上から降ってきた。
『まばゆい光』に包まれながら。
ゆっくりと、ゆっくりと。
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——3階層から???階層へ(三日前)/瑛二
俺は、吉村に崖から放り投げられ、その身を落とされた。
ああ⋯⋯死ぬんだな、俺。
あたりは真っ暗で何も見えない。どっちが上で下かすらわからないくらいに。
だから、なのだろう。
最初は下に落ちていく⋯⋯重力に引っ張られて下へ下へと吸い込まれるように落ちていく感覚だった。
でも、今はそんな落ちる感覚は無くなり、何なら体が浮いているような⋯⋯⋯⋯そんな感じがした。
それと、薄っすらだが俺の体の周囲がぼんやりと光っているように見える。
ああ⋯⋯遂に意識が朦朧として⋯⋯もしや、これが『走馬灯』というものか?
でも、それにしてはおかしい。普通、『走馬灯』ってこれまでの人生が頭の中に浮かぶとか、そんなだったと思う。でも、今は、そんなのはなく、ただただ『体がぼんやり光って浮いている感覚』⋯⋯⋯⋯それだけだった。
もしかして、俺はすでに死んでしまっているのだろうか?
ま、いっか。
何でもいいや。
どうせ、あんな崖から落ちたんだ。助かることはまずない。
俺は間違いなく死ぬ。
あ〜⋯⋯疲れたな〜。
あ〜⋯⋯瞼重いや〜。
そうして、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
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——???階層(三日前)/白い龍
三日前、ワシは実に百年ぶりかに『常世の聖域』から出た。
使命を受けて千二百年の間で五度目の外出じゃ。
部屋から出て、ワシはこのダンジョンの3階層とつながっている大きな縦穴⋯⋯⋯⋯ワシはこれを『口』と呼んでいるが、その『口』の真下へとやってきた。
この日は何やら胸騒ぎがした。⋯⋯いや、胸騒ぎというより『予感』に近いか。
そうして『口』に着き、上を見上げた。すると、
<むっ?! なんじゃ、あの光は?>
上から、ゆっくりと強烈な輝きを放つ『光』が降りてきた。
よく見ると、その光は人間⋯⋯いや『少年』を包み込むように輝いていた。まるで、この少年を『あらゆるものから守るかのように』⋯⋯そんな強い意志を感じさせる光じゃった。
その優しく力強い光に包まれた『少年』は、やがて私の目の前にゆっくりと降りてくると止まった。
その時じゃった——突如、ワシの頭の中で『使命』が何度も何度も響き渡った。
<<お前の使命は『ハズレモノ』を待つこと>>
<<お前の使命は『ハズレモノ』を待つこと>>
<<お前の使命は『ハズレモノ』を待つこと>>
⋯⋯
⋯⋯
それと同時に、確信に満ちた言葉もまた響き渡る。
<<『ハズレモノ』が顕現した>>
<<『ハズレモノ』が顕現した>>
<<『ハズレモノ』が顕現した>>
⋯⋯
⋯⋯
そして最後に、顕現した『ハズレモノ』に対するワシの『使命』が一際大きく響き渡った。
<<<『ハズレモノ』にきっかけを与え、共に歩め>>>
<<<『ハズレモノ』にきっかけを与え、共に歩め>>>
<<<『ハズレモノ』にきっかけを与え、共に歩め>>>
⋯⋯
⋯⋯
そうして、『ハズレモノ』を回収したワシは『常世の聖域』へと戻った。




