016「邪悪な者たちはこうして嘘をつく」
——3階層/柊木たち
「ヒイラギ様っ!?」
「せ、先生⋯⋯」
魔法担任が柊木に声をかけると、柊木は⋯⋯⋯⋯泣いていた。
「ど、どうしたのですか、ヒイラギ様?」
「先生ぇ⋯⋯瑛二が、瑛二が⋯⋯」
「オ、オヤマダ様! しっかり! クサカベ様がどうしたんですか?!」
小山田が泣き崩れながら魔法担任にしがみつく。魔法担任は小山田に冷静になるよう促しつつ、瑛二の話を聞こうとした。すると、
「先生⋯⋯」
「っ!? ヨシムラ様! クサカベ様は! クサカベ様は無事なんですか!?」
「先生⋯⋯せんせぇ⋯⋯せん⋯⋯せ⋯⋯うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!」
吉村はその場で膝を崩すと、激しく泣き叫んだ。
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——十分後
開けた場所でみんなで休憩を取っていた。
特に戦いの疲労があったわけではないが、泣き崩れていた柊木、小山田、吉村の三人を落ち着かせるためという目的で休憩をとっていたのだ。
そんな中、吉村は立ち上がると全員のほうへ体を向けて事の経緯を説明した。
「瑛二君は⋯⋯⋯⋯魔法攻撃で倒れたハイオークに押される形で崖から落ちたようでした」
「⋯⋯そうですか」
魔法担任は吉村の言葉に、ただ相槌だけを打つ。
「あの時、俺がパニックになって、魔法を打ったから⋯⋯。先生の言葉が耳に入らないぐらいにテンパって⋯⋯だから、俺のせいで瑛二が死んだんです。悪いのは⋯⋯俺⋯⋯です。お⋯⋯俺が⋯⋯瑛二を⋯⋯殺し⋯⋯たんです⋯⋯」
吉村は、そう言って再び泣き崩れた。
「違います! それは違いますよ、ヨシムラ様! あなたは助けようとしただけです! そんな優しさを持つヨシムラ様がクサカベ様を殺しただなんて⋯⋯! そんなことは絶対にありませんっ!!!!」
魔法担任は泣き崩れる吉村に必死に言葉をかける。
「いえ、そんなことない! 俺が⋯⋯俺が⋯⋯瑛二を殺したんですっ!!!! うわぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!!」
その後、魔法担任だけでなく全員で泣き叫ぶ吉村を何度も慰めた後——ダンジョンを後にした。
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——『王宮の間』
「え? クサカベ様⋯⋯が⋯⋯?」
「⋯⋯はい」
ダンジョンから帰ってきた後、すぐにその足で担任も一緒に王宮の間へ足を運ぶが、その前にブキャナン宰相の部屋へと出向き、事の経緯を説明。その後、ブキャナン宰相と共に王宮の間に入り、ブキャナン宰相の口からシャルロット女王へ『瑛二の死』を告げた。
「そ、そんな⋯⋯クサカベ様が⋯⋯」
そのまま、倒れそうになるシャルロットをブキャナンがすぐに支える。
「シャルロット様! お気をたしかに!」
「あ⋯⋯は、はい。すみま⋯⋯せん⋯⋯でした⋯⋯」
そう言うと、シャルロットは歯を食いしばり、己に気合いを入れると、ブキャナンの手から離れ、自分の足でしっかりと立ち直した。
「お見苦しいところを⋯⋯お見せしました」
そう言って、シャルロットが深く頭を下げ、そして、再び口を開く。
「クサカベ様の命が失われたことは、とても⋯⋯とても⋯⋯残念です。クサカベ様の死は救世主様たちをこの世界へ召喚した私の責任でもあります。本当に申し訳ありませんでした⋯⋯」
シャルロットはそう言って、柊木たちに再度、深々と頭を下げた。
「クサカベ様が亡くなったという事実は、同時に救世主様方にも今後その可能性があるということでもあります。それは、救世主様たちにとって、とても目を塞ぎたくなる事実だと思います⋯⋯。ですが、我々もこれ以上、救世主様たちから犠牲者が決して出ないよう、万全を期してサポートさせていただきます! なので、どうか、これからもお力をお貸しくださいませ! お願いします!」
そう言って、シャルロットは深く頭を下げ、三度の謝罪を行った。しかし、三度目はこれまでと違い、頭をずっと下げたままだった。
「シャ、シャルロット様⋯⋯そこまで⋯⋯!?」
ブキャナンは異例中の異例とも言える『女王の三度の謝罪』、そして、頭をずっと下げたままの姿を見て、激しく動揺する。すると、
「頭を上げてくれ、シャルロット!」
声をかけたのは、柊木拓海。
「たしかに、シャルロットの言う通り、私たちはあなた方の勝手な理由でこの世界に召喚されました。そう言う意味では日下部の死に責任を感じるのはわかります。ですが、それは私たちも同じです!」
「ヒイラ⋯⋯ギ⋯⋯様?」
「ダンジョンで日下部が|自分のレベルを上げたいがため《・・・・・・・・・・・・・・》に、吉村に強引にパーティー登録をさせ、みんなから抜け出した。そして、レベルが上がった日下部は一人でも魔物が倒せると過信し、自分から吉村をパーティー解除して、一人で魔物討伐に行き、そして⋯⋯結果⋯⋯帰ら⋯⋯ぬ⋯⋯人と⋯⋯なっ⋯⋯た⋯⋯」
「っ!? ヒ、ヒイラギ様っ!!!!」
柊木は涙を流しながら、話を続ける。
「日下部の⋯⋯身勝手で無責任な行動ではありましたが、しかし、その日下部の行動を私たちは⋯⋯止めることが⋯⋯できなかった! 日下部の身勝手な行動を気づいて止められてさえいれば⋯⋯彼を⋯⋯失うことは⋯⋯なかった⋯⋯」
泣き崩れた柊木がその場で膝をつく。すると、
「「「「拓海君!」」」」
すると、吉村と小山田が柊木の元に行き、肩を貸して立ち上がらせる。
「私たちは日下部の死を無駄にはしない! 彼の分まで救世主としての使命を果たし、この世界に平和を取り戻します!」
「ああ、そんなことを言っていただけるなんて⋯⋯。私はてっきり「救世主をやめる」と言い出すのではないかと⋯⋯。もし、そうなら⋯⋯もう私には止めることはできないと⋯⋯」
シャルロットは今回の『瑛二の死』で、救世主たちがこの国から出ていくとまで思っていた、と告げた。
「そんなことはありません! 我々はこれからもシャルロットがいるこの国で力をつけ、邪神復活を阻止します!」
「ヒ、ヒイラギ⋯⋯様⋯⋯⋯⋯っ!?」
すると、柊木が突然、シャルロットの前まで歩いてきた。一瞬、兵士が止めようとするが、ブキャナンがそれを静止。柊木はブキャナンが「許可した」と察し、そのまま、シャルロットの目の前へ行くと、シャルロットの手を掴んだ。
「シャルロット⋯⋯。日下部の死は本当につらいことだ。だが、それは私たちも同じです。そして、シャルロットも私たちも彼の死をずっと悲しんでいるだけでは前へ進むことなどできない。それに、そんな足踏みは何よりもあいつが⋯⋯⋯⋯死んだ日下部が悲しむでしょう」
「ヒイラギ様⋯⋯っ!!!!!」
「前を向きましょう! 歩み出しましょう! 私たちは強くなって邪神復活を必ず阻止します! この世界を、この国を⋯⋯⋯⋯いや、シャルロット様を私が守りますっ!!!!」
「「「「「ワァァァァァァァァァァーーーーーーーっ!!!!!!!!」」」」」
「救世主様ぁぁぁーーーー!!!!!」
「救世主ヒイラギ様ぁぁぁーーーー!!!!!」
すると、その場にいた兵士や官僚、学園の先生、そしてクラスメートたちも柊木の言葉に一斉に喝采を浴びせた。
——二人を除いては。




