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第二話 弱虫のハーモニー



 入学してから2週間ほど経過したが、わや学は至って平和だ。

 俺はというと、特進クラスに近づきたくても近づけない。そんな状況が1ヶ月も続いている。


 それもこれも……



「ああもうダッシュッ! いい加減俺に付き纏うのはやめろッ!」


「なんだよいいじゃあねぇかよ! 俺に隠し事か? つれないことすんなよなァ、俺らの仲じゃあねぇのよ」



 そう、全てはこの男。ダッシュこと、走屋迅のせいである。



「だいたい、俺じゃなくてもダッシュは友だちたくさんいるだろうがッ! 俺ばっかに構ってないで、違うやつのとこにも行けよッ!」


「あ〜ん、なんでそんな冷てぇこと言うのよ〜! 俺は自分の第六感をこの世の何より信じてるッ! 俺の第六感のお告げがいってんだよなァ、お前とは楽しい高校生活が送れるってよォ」


「うるっせぇなァ! ひっつくなよ暑苦しいッ!」



 特進クラスに近づくのを邪魔するどころか、この男はどこに行くにも付いてくるのだ。一人で事件を調べたい俺にとってはとても厄介な存在と仲良くなってしまった。


 しかし、入学早々に わや学の噂にたどり着けたのもこの男のおかげであり、運命とはなんとも非常に複雑な物である。






――――






「なァコースケ、次の授業なんだっけ」


「体育だぜ。早く着替えないとな」



 この学校は能力者(フールズ)が集ったところで何か特別な授業があるわけではない。ごく普通の高校と同じだ。


 俺は体操着を取り出し着替えようとする。



「あれ……なんだ? これ」



――体操着の袋に何か入っている。いや、開け口に挟まっている……



「紙、ヒコーキ?」


「どうしたんだ? コースケ……ん?なんだそれ」


「いやわからん なんか挟まってたんだけど」


「ああッ! お前ッそれ!」



 ダッシュは目を見開いて紙飛行機を指さす。

取られそうな勢いだったので思わず後退りをする。



「ラブレターなんじゃあねぇの!」


「……は? ここ男子校だぞ」


「開けてみろってッ!」



 俺は心底呆れた表情をしていたことだろう。

ダッシュに促されるまま、ゆっくりと中を開いてみる。


――『シ ラ ベ ル ナ』



「こ、これはッ!」


「あ? なんだなんだ? どーゆーこと?」



 犯人からのメッセージなのか……

事件について探っているのがバレて、これ以上探ることを嫌がっているとでも言うのだろうか。


 それにしても何故こちらの存在がバレたのかがわからない。


 俺は、紙飛行機をゴミ箱へと投げた。綺麗に弧を描いてゴミ箱の中に入ったそれは、紙飛行機とは思えない「ガコッ」と重たい音がした。








――――






 着替えを終え、授業が行われる運動場へと向かうため長い階段を降りる。ここの階段は日が当たらず、学校指定の半袖ではまだ肌寒い。


 先程の紙飛行機が頭の中について回るが、気に留めている暇などない。


……そんな風に考え事をしていたからだろうか。


ドンッ



「うわッと」



 前から来ていた生徒に気づかず階段の踊り場でぶつかってしまった。転がり落ちそうな相手の腕を掴みこちらへと引き寄せる。



「ごめん、俺、前見てなくて……」



 自分に非があるため、すぐにぶつかった相手に謝罪をする。


 相手は黒い長髪に細身で大人しそうな男子生徒だった。

 謎に鍵盤ハーモニカを小脇に抱える彼は、シューズの色からして同じ一年生だということがわかる。



「チッ……あぶねぇな……いいからどけよクソ野郎」



 前言撤回だ。

大人しそうに見えるだけで中身はそうでもないようだ。



「あァ? うちのコースケが謝っとんだろーが! テメーどこ中だァ?」


「どこ中か聞くしか脳のないやつって、いるよなァ……お前はこいつの母親かなんかか? 赤ん坊からは目を話すんじゃあねェ」



 一触即発とはこのことか。

俺がぶつかった男子生徒とダッシュが睨み合いを始めてしまい、戸惑う。



「おい、ダッシュ。もういいから行こうぜ授業に遅れる」


「ハッ普通クラスかお前ら……バカの集まりは知能が低くて会話にならねぇからなァ」


「おいてめー喧嘩売ってんのか?」



 睨み合う二人からは、今にも喧嘩が始まりそうなピリピリとした空気感が漂う。


 事件のことで頭がいっぱいになり、忘れがちになってしまうがこの学校は能力者(フールズ)が集うヤンキー校なのである。今ここで喧嘩が始まってもおかしくない。



「おいダッシュもういいってば、俺先に行くからな」


「あぁ、行ってろよコースケ……俺はこのイケ好かねぇ根暗野郎と話をつけなくちゃあ、気がすまねぇ」


「オイオイオイオイ、オリオリオリオ……なに勝手にやる気になってんの? 俺だって馬鹿に付き合う暇はねぇ、特進クラスは馬鹿と違って忙しいんでな」



――特進クラス。

 たしかに彼はそう言った。



「おい待て」



 立ち去ろうとする彼の腕を掴み、それを阻止する。



「特進クラス……お前今たしかにそう言ったよな」


「どうしたんだよコースケ、急に」


「あ? 特進クラスがどうした? 羨ましいか?」



 もしかしたら、こいつから犯人への手掛かりを掴めるかもしれない。だが、犯人と関わりがあるかもしれない。下手に動くわけにはいかない。


 どうする……



「なんだよこの手、さっさと離せよ」


「お前、」


「あ?」


MINE(マイン)やってる?」



 俺は携帯を取り出し、自身の連絡先であるQRコードを画面に映し出す。


 そうだ。話を聞きたいなら、仲良くなっちまえばいい。



「交換しようぜ」


「おいコースケお前喧嘩売られてたことわかってんのかァ〜⁉︎ 散々馬鹿にされてたんだぞッ! 今ッ」


「いや……俺まだ、わや学での友だちがダッシュしかいないからよォ」



 戸惑うダッシュをよそに、携帯を差し出す。



「出しなよ、お前のQRコードをよォ」


「いいや、出さない。俺は友だちなんかいらねぇ」



――キーンコーンカーンコーン


 その瞬間、授業開始を知らせるチャイムが鳴り響く。



「やべッ行くぞコースケ!」


「くそッ! てめーらみたいな奴らになんか構っていたせいでッ! 成績落ちたら絶対に許さないぞッ!」



 捨て台詞と共に階段を駆け上っていく彼を目で追いながらも、ダッシュに手を引かれ運動場へと急ぐ。


 彼が小脇に抱えていた鍵盤ハーモニカが何故か瞼の裏に焼き付いて、頭から離れない。






――――






「なァ、コースケ。本当に行くのかよ」


「あいつのMINEを手に入れるまで俺は帰らなねぇからな」


「なにをそんな執着してんだよォ……俺ァ、ぶちのめしに行くんじゃあなくて、MINEを聞きに行くってのが気に入らねぇ! 俺の第六感が言ってるッ! あいつには関わらない方がいいぜッ!」


「ダチになるには、ちょっと変わった奴がいいんだよ俺は……そのくらいがちょうどいい。いいんだぜ、無理についてこなくたってよ」



 むしろ、ついてこない方が俺には都合がいいが……



「わかったよォ〜! 行くぜ、俺も行く! ついて行かせてくれよォ〜」


(なんでそこまでして俺に付き纏うんかねぇコイツは)



 こうして、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、俺たちは特進クラスへと向かった。






――――






「オイッ! 髪の長い陰気なヤローはどこの席だァ! 面貸せやァ! コラァ!」



 ダッシュが勢いよく1組の扉を開く。それに続いて俺も顔を覗かせると、先程ぶつかったあの男子生徒が荷物をまとめ席から立ち上がるところであった。



「てめーはさっきのッ!」


「おお、いたいたお前だよお前!」



 ダッシュの喧嘩腰な挨拶のおかげか、こちらを睨みつける眼光は鋭い。



「どけッ! 俺は今からもう帰るんだよッ!」


「なんだよそんな急ぐことないだろ! 待てよッ!」



 俺を突き飛ばし、教室から出ていく彼を慌てて追いかける。追いかければ追いかけるほど彼の逃げる速度も速くなる。気がつけば髪の毛を振り乱しながらの追いかけっこと化していた。



「ゼェハァゼェハァッ……しつけーんだよッ!」


「待てよ! MINE交換するだけだろーが!」


「なァなァ、この鬼ごっこいつまで続くんだ?」



 息を切らす俺と彼をよそに、余裕そうに笑いかけるダッシュ。どうやら足が速い能力は伊達じゃないらしい。体力も常人とは違うようだ。


 学校の校門をでてすぐ路地裏へと駆け込む彼を追いかける。彼が立ち止まって息を整えるのを見て、ついに観念したかと俺たちも足を止める。



「ハァ、ハァ……まじにしつけぇ! なんなんだよてめーらめんどくせぇなァ……」


「ゼェ、ゼェ……学校にチャリ置いてきちまったんだ、MINEの一つぐらい教えてもらうぜ」


「マジになんでそんなこいつに執着するんだよコースケぇ」



 お互い向かい合って睨み合う。その時だった。



――カチリ、



「あ? てめーなんだそりゃ、お子ちゃまの演奏会でも始まるんか?」


「鍵盤ハーモニカだよな、それ……」



 何を思ったか突然、小脇に抱えていた鍵盤ハーモニカの口の部分をセットし始めた彼に首を傾げる。


 よく見ると鍵盤ハーモニカには『けんばん かなで』とシールが貼ってある。彼の名前だろうか。それとも誰かのお下がりなのか。


 異様な空気を放つ彼は、ニヤリと笑って口をつけた。



〜ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ



「この曲は……保育園で俺も弾いたぞ なんだマジでお子ちゃまの演奏会じゃあねぇの。そんでもって、きもい指づかいだなァ」


「ダッシュッ! これは奴の能力だッ! 身体がッうごかねぇッ!」



 彼がきらきら星を演奏し始めたと同時に自分たちの身体の自由が効かないことに気づく。冷や汗だけがたらりと頬を伝った。



〜ファ、ファ、ミ、ミ、レ、レ、ド



 俺とダッシュの間を通って、俺たちの背後へと移動した彼の気配だけを感じる。

その間も演奏が止むことはない。



「ぐぬぬ……コースケ、お前の能力でなんとかならねぇのかよ」


「俺の能力は戦闘向きじゃあねぇんだよッ! くっ」



 ダッシュとの会話をしながら頭の中を整理する。


 気になることが一つある。

それは、身体の動きは封じられているが、稀に指先が動く時があることだ。


 なぜ全て封じない?それとも『解除される瞬間』があるのか……。



「ぐッ……」



 視界の端からダッシュが消えた。否、ダッシュが側頭部を蹴られ倒れ込んだのだ。



ゴンッ


「ダッシュ……!!」


「いッ……てェッ!!」



 倒れ込んだ拍子に受け身が取れずコンクリートに頭を打ちつけたのか、随分と鈍い音が聞こえた。


 相手は動きを止める能力者(フールズ)。きっとハーモニカが鍵だ。強力すぎる能力はこの世に存在しないはず……故に必ず、この能力()()欠点があるはずだ。



 わかることは、発動条件。これは、確実にハーモニカだ。なぜなら演奏が始まってから身体が動かなくなったから。



 そして、解除の条件。これがいまいちわからない。


 彼は何故わざわざ立ち止まり、息を整えてから演奏を始めた?

 ハーモニカを弾くことで相手の動きを封じることができるならば、もっと早くに演奏すべきだ。動けなくなっている間に逃げりゃあいい。


 俺らをボコさないと気が済まないってなら、この路地裏へと逃げるフリして誘い込んだのかもしれない。

なら何故路地裏へと誘い込んですぐに仕掛けなかったのか。



 なにより、何故稀に指先が動けるようになるのか。『解除される瞬間』が定期的に訪れる。その瞬間とはいつなのか。


もしかして……


 俺はたった一つの可能性にかけることにした。




「お前の鍵盤ハーモニカ、名前シールついたまんまだぜ」


「あ? ぶへァッ!」



 相手が声を発した瞬間、つまり鍵盤ハーモニカから口をはずした瞬間、身体の自由が効くようになる。

 俺はその瞬間を見逃さすことなく、すぐに振り返って相手の顔面を殴り抜けた。


――やはり、思っていた通りだ。



「やっぱりな」


「な、な、な、なんで」


「お前、演奏してる間しか動きは止めれないんだろ。だから路地裏へと逃げた後呼吸を一旦整えた……そりゃそうだよな呼吸が乱れてちゃあ演奏できねぇ」


「……!」


「それに解除されるタイミングがどんどん増えていってたんだよなァ。そりゃずっと演奏なんかできねぇよ、だって息継ぎが必要だからなァ!」


「は、はわわ……ほよよ……」


「お前が口を離す瞬間を狙ったんだッ! 演奏会は中止とさせていただくぜッ! 必要以上に殴るのは気がひけるがなァ!」


「うがぁッ!」


ドゴッ


「今ので唇切れちまったな、歯茎も腫れてる……こりゃ痛くてもう演奏できねぇよなァ、なら動きも止めれねェ」


「うぐぐ……」


「お友だちになる相手にひどいことしてくれたじゃあないのよ」



 うずくまる相手のカバンの中から携帯を奪いとり、M INEを開く。



「スタンプ送っといたぜ、よろしくなケンバンちゃん」


「うがぁ……」



 にっこりと笑いかけると切れた口を押さえているケンバンに、携帯の画面を見せる。

 そこには『大親友コースケ』とのトーク画面が映し出されていた。

「よろしくね♡」と描かれた可愛いスタンプ付きだ。



 こうして俺は特進クラスである、ケンバンの連絡先を手に入れたのだった。











フールズメイトを読んでくださりありがとうございます。

少しでも多くの方に楽しんで頂ければ幸いです。よろしくお願いします。

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