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第二十二話 欠点だらけの




『みなさんは、コースケくんの能力に影響を受けたくさんの犠牲を払ってきたッ! 全てはコースケくんが物語の主人公になるためだけにッ! 君たちは知らない間に利用されてたのですッ!』


「なん……だって……」



 仲間たちの視線が、俺に集まるのを感じた。



「コースケのための犠牲……」


『狭間くんも、喪武山くんも、鍵盤くんだって……みんな彼の物語のためだけの犠牲だった……かわいそうに』


「ち、違う……みんな、俺……」



 仲間たちの視線は俺に向いていたはずなのに、俺が見返すと逸らされ、目線が合うことはない。



『君たちが私の計画を知ってしまった以上、協力してもらうか消えるかの2択しかない。コースケくんの犠牲となり消えることが果たして君たちの望んだ未来なのかな……君たちの敵は本当に私か? それとも……』



 足音が聞こえ、振り返ると後ろからも擬人化された文房具たちがこちらへと歩いてきているのが見えた。前にいる文房具たちも退く気はないようだ。完全に挟み撃ちされる形となった。



『さぁ……選ぶんだ。協力するか……ここで消えるか』


「お、俺は……」



 それぞれが俯いている中、ダッシュがぽつりとつぶやいた。



「俺は……協力するよ」


「ダ、ダッシュ……」


『正しい判断だッ! やはり走屋くん! 君は賢い! さぁ、他の子たちはどうするかな?』


「なんか勘違いしているようだが、」



 ダッシュが顔を上げ、俺と目があった。



「俺が協力すんのは、『主人公サイド』だぜ」



 ニカリと笑う彼の笑顔に涙が零れ落ちた。



「俺はもう、仲間を裏切らないッ! とことん最後までついてくぞコラァッ!」



 ダッシュが目の前の文房具たちに対して声を上げた。すると、背中に誰かの身体がぶつかるのを感じた。



「狭間のためにもわや学の『平和』を守らなきゃな……コースケ、俺たちは悪いが犠牲にならないぜ。しぶといからな」


「パラダイス……」



 背中にぶつかったのはパラダイスのでかい背中だった。傷だらけでよろけているが、魂は死んでいない。しっかりと後ろに迫りつつある文房具たちを見つめ拳を握っている。



「ここで校長に協力するのは賢いだろうな。でも、そんなことしたら芯太郎に合わせる顔がない……それが1番困るな」


「委員長……」



 メガネをクイっと上げた委員長は、学ランを脱ぎ捨てワイシャツの腕をまくった。



「勘違いするなよ、芯太郎との約束のためだ」



 そう言って委員長も拳を構えた。



『……残念だよ』


ピンポンパンポーン……



 校長の声と共に放送が切れると、それを合図に文房具たちが襲いかかってきた。仲間の言葉を胸に俺も拳を構えた。












「はぁ、はぁ……キリがねぇ……」



 しばらく戦い、息が切れ始めた頃パラダイスの言葉に全員が頷いた。倒しても倒しても、次々とやってくる文房具の数が多すぎてらちがあかない。



「やはり校長本体を叩かないと……だがどうやって校長の元まで……」


「校長は多分放送室だ……だが……」



 そう。文房具が多すぎて道を開くことができないでいるのだ。

 完全に動きが取れないでいたその時だった……。



「こおおすけぇぇええッ!」



 外からやけにでかい声が聞こえる。



「乗り慣れた軽自動車ride on 遅れそうだ走り出せready go」



 爆音のミュージックと共にラップが響き渡り、窓ガラスがパリンッと音を立て割れる。そして、その割れた窓ガラスからシートベルトが飛んできて、俺の身体に巻きついて引っ張り出された。



「『仲間』連れてきたぜッ!」



 外に引っ張り出された俺の目の前には、ナミダ、メイクを筆頭に、えも校のラップ、キャンディ、ベルトがいた。



「行き先は、校長室か」


「いや、放送室だ」



 ベルトに行き先を尋ねられ、答える。そういえばきちんとこいつと会話したのはこれが初めてかもしれない。



「俺のラップで窓ガラス一通り割ってやったからどこが放送室か丸わかりだyo、へへ」


「みんな……なんで……」


「ボスがやられて黙ってるヤンキーいねぇだろ」



 ニヤリと笑うラップと、棒付きの飴をガジガジと奥歯で噛むキャンディに圧倒され俺は呆気に取られていた。



「コースケ、さっきの校内放送は聞こえていたわ……それに対する仲間たち(あいつら)の返事もね」



 メイクの声は、いつもに増して優しく感じた。



「あんたが主人公だってなら、ラストバトルはあんたの手で終わらせて」


「メイク、」


「この物語のヒロインは確実にあたしね」



 メイクに背中をドンッと叩かれ前に出る。

そして、腰に巻きついたシートベルトを確認して振り返る。



「みんな、ありがとう。終わらせてくるッ!」



 俺の言葉を合図にシートベルトが伸び、放送室へと飛ばされた。






――






「……主人公の能力を(あなど)っていた……まさかこんなにも仲間を作っていたなんてね。でもその友情も結局は偽り……能力によるものだということに気づいていない彼らは可哀想だ」


「ペラペラと人の悪口言ってんなよ……」



 放送室の席には校長が腰掛けており、その目の前にはノートパソコンが置いてある。その中に写っているのは、廊下で戦うダッシュたちと、校庭にまで放たれた文房具を相手にしているメイクたちが写っていた。監視カメラだ。



「あんたの目的はよくわかった。フールズ同士を戦わせて能力を強化する……そしてその強くなったフールズ集めて一般人に復讐すること……」


「君たちは知りすぎた……協力するという生きる道を与えてやったのに、自ら棒に振るとはとんだ馬鹿ばかりだったみたいだ」



 校長は、冷静な声のままその場から動くこともせずパソコンの画面を眺めている。



「君も見ただろう。文房具たちの擬人化を……これが私の能力。憎しみを持った文房具のみ擬人化する」


「今すぐ能力を解除しろッ!」


「なかなかに強いだろう、文房具たちは……彼らを強くしているのは『憎しみ』それだけだ……おっと、なんだか彼らは誰かに似ているなぁ……そうだ、フールズたちだ」



 わざとらしく思い出したように校長は笑う。



「フールズたちも過去に馬鹿にされ憎しみを持っている……それを解放してやりたい。ただそれだけなんだ」


「そんなの望んでないやつだって居るッ!」


「居ないね」


「いいや、居るッ! ここにッ!」



 俺は声を張り上げた。校長にむかって唾が飛ぼうが関係あるものか。



「俺は望んでいないッ!」


「君が望んでいなくとも、どうでもいいよ。ここで消えるんだから」



 冷たく言い放つ校長は、目線はパソコンに向けられたままだ。


 すると、俺のポケットに入っていた小さくなった鉛筆がポケットから飛び出した。ボフンと音を立ててまた目の前で擬人化される。その姿は先程とは違いえらく小さくなっている。



「なんだ、えらくコンパクトにされたんだな鉛筆伯爵」


「こ、校長……」


「さぁ、君のドリルでコースケくんを片付けてくれ」



 校長は自らが戦おうという気持ちはないらしい。鉛筆伯爵の姿こそ見たものの、またすぐにパソコンに目を戻した。



「校長……僕は」


「文房具ごときが私に歯向かう気か? カッターナイフで削るぞ」


「それ以上はやめろ」



 俺は居ても立っても居られず、思わず声を出した。



「文房具ごときだと……? フールズ差別を嫌うあんたがいうセリフかよ」



 それでも校長の目線はこちらへと向かない。



「文房具がなけりゃ俺らは学べない。俺にとって鉛筆伯爵(こいつ)は幼なじみと友の仇だが……侮辱するのは許さねぇ」


「主人公特有のそういう熱いセリフ、とっても嫌いだよ」



 校長がやっと俺へと目線をよこした。横目でチラリとこちらを見たかと思うと、すぐに目線を鉛筆伯爵の方へと向け、冷たく言葉を放った。



「やれ」



 その言葉を合図に伯爵が短くなった腕のドリルをこちらへと振りかぶる。その表情は苦痛に満ちていた。







「コースケ」



 攻撃を防ぐため腕を構えると、ドリルは俺を貫くことなくギリギリのところで止まった。そして、ドリルの回る音の中とても小さな声が聞こえる。



「戦いの後の言葉聞こえていたよ……嬉しかった……たとえこの気持ちが、君の能力による偽りだったとしても……ありがとう」



 鉛筆が泣くところなど見たことがあるだろうか。少なくとも、俺は鉛筆の涙を初めて見た。


 黒い、鉛筆の芯の削りカスの様な……まるでそんな涙だ。人間とは違い液体ではなく固体ではあるものの、紛れもなくそれは涙だった。

 その涙は、黒い粉となって俺の身体に降り注いだ。



「う、うわぁあああッ」



 鉛筆伯爵は急に身体を振り返らせ、校長へとドリルを向けた。



「鉛筆伯爵……貴様まで(ほだ)されたか」



 校長は鉛筆伯爵のドリルを受け流すと、その背後からカッターナイフを突き刺した。そしてそのまま縦一直線に斬り放った。


 鉛筆伯爵は中身の鉛筆芯もろとも真っ二つになり、倒れ込んだ。



「鉛筆芯はクズが出る……」


「てめェ仲間じゃねぇのかよッ」


「仲間? 道具の間違いだろう」



 校長は、まるで何もなかったかのようにカッターナイフを筆箱にしまいこむ。



「彼らは私の文房具であり、使い捨ての道具だ。自分のものが壊れたから捨てて何が悪い?」


「あいつらにも、感情があったんだぞ……」


「ああ、憎しみの感情があった。その感情が消えたらもうあれは、ただの使えない道具だ」


「いいや違うねッ」



 俺は、鉛筆伯爵の涙である黒い粉を校長へと放った。



「こしゃくなッ!」



 その粉は目眩しとなり、校長へと近づくチャンスが与えられ、俺はそれの瞬間を見逃さなかった。


 粉に気を取られている校長の顔面を右ストレートで殴り抜けた。


ゴキィッ



 えげつない音と共に校長が放送室の機材の元へと吹き飛んだ。



「ぐアッ」


「あいつは使えない道具じゃない。最後の最後であんたに近づくチャンスをくれたんだからな」



 俺は、仁王立ちで校長の目の前に立った。




 ついに追い詰めたぞ……校長ッ!










 

フールズメイトを読んでくださりありがとうございます。

少しでも多くの方に楽しんで頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

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