第一話 A県N市 まじわや学園
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天から導かれ集いし
個性ある若き我ら
晴れ間に覗く光の筋が
まじでわやなる3秒前
大地が如くたくましく
道が違えど ヤァ!友よ
輝き放つ 希望の光
嗚呼愛しき 我がまじわや学園
【まじわや学園 校歌】
♪〜
桜が咲き、一面が春色に染まっている。
入学祝いに買ってもらった新しいチャリに乗って爽やかな朝の風を受けながら、今日から通う まじわや学園へと向かう。
新しく袖を通した学ランは、この後の自分自身の成長を見込んで少し大きめだ。
幼なじみの喪武山 芯太郎も着ていた同じ制服……。
今日から彼が1年通った学校へこの俺も通うのだ。
芯くんは、命とも言えるシャープペンシルの芯を全て折られ、心も折れてしまった。
わや学から転校し、現在は通信制の高校へと通っている。
きっと彼は復讐なんて望んでいない。そんなことはわかっている。
しかし、どうしても諦めることができないのだ。
彼はこの学校でトップに立つという夢を叶えることができる実力者だった。
あの事件さえなければ……
彼の夢の続きは俺が受け継ぐ。芯くんが「戦えない」と言ったあの日、固く覚悟を決めたのだ。
――――
1年3組
俺のクラスは特進クラスである2組との間に階段を挟んだその隣に存在した。
扉を開けて教室に入ると、黒板にはクラスメイトの名前が書いてある。
座席表通りに自分の席に着くと、息つく暇もなく軽快な声と共に肩を強めに叩かれた。
「なァなァ! お前どこ中?」
声をかけられた方を見ると、陽気な表情を浮かべた男子生徒がそこいた。
隣の席の生徒だろうか。座っている椅子を引きずりこちらに近づいてきたその生徒は、俺の返事を待ち目を輝かせている。
「……ニコニコ中学、だけど」
「俺は、ぷん中! わかる? ぷんぷん中学!」
「ああ、確か駅の方の、」
「そうそう! 俺、走屋 迅って言うんだよろしくな!」
「……俺は、主人公輔」
食い気味に話す彼から、勢いよく差し出された手に一瞬驚いた。すぐに握手を求められていることに気づき自分の手を差し出す。
強く握られ、ブンブンと効果音が聞こえてきそうな勢いで手を振られる。
彼の中学校からこの学校までは一駅ほどだが、彼の地元の方にはわや学と同じくらい有名なヤンキー校が一つあったはずだ。
そこではなく、わざわざこちらの学校を選んだのには何か理由があるのだろうか。まぁ、それは俺も同じだが。
「コースケだな! 俺は『ダッシュ』って呼ばれてる」
「ダッシュ?」
名前からの由来ではなさそうなニックネームに思わず首をかしげる。
「あれ、コースケのところは違った? 能力だよ、ノーリョク! みんな能力で名前呼ばれてなかった?」
「いや、俺の中学は能力者少なかったからかな……普通に名前で呼び合ってた」
「俺の能力、足が速いことなんだ……だから、ダッシュ!」
ダッシュと名乗った少年は、かっこいいだろ、と笑った。
「お前の能力は?」
「俺は……大したことないから。また使う時が来たら話すわ」
「ふぅん……」
腑に落ちないような微妙な表情を一瞬だけ見せたダッシュだったが、すぐに話題が切り替わった。
「まぁでもよォ、なんでまたニコ中なんて遠いとこから、わや学に来たんだよ」
ダッシュは顎の下に手を当て首を傾げる。
俺の通っていた中学はここから離れた場所にある。
――幼なじみの敵討ちです、と
本当の理由を告げるべきかもしれないし、そうではないかもしれない。
人の良さそうな彼が悪事を働くとは思えないが、わや学にいる以上事件に関与している可能性だって捨てきれない。
それにもし、事件に関与していなくて本当にただのいい奴なんだとしたら、巻き込むわけにもいかない。
「俺、バカだから、ここしか入れるとこなかったんだよ……ほら、能力者なら誰でもはいれるって有名だろ」
俺は息を吐くように嘘をついた。
「なーんだ! コースケも俺と同じ理由かよ!」
大口を開いて笑うダッシュに少しの罪悪感を抱きながら、同じように笑ってみせる。
「俺、コースケとはいいコンビになれそうだぜ」
「……俺もだよ」
この学校に来て、はじめて出来た友だちは飛び抜けて明るい奴だった。
――――
入学式が終わり、解散となった教室には新しい友人との話に花が咲いたのか、残っている生徒は少なくなかった。
「なぁ、一緒に駅まで帰ろうぜ」
「ああ、いいぜ」
ダッシュの誘いで駅までの帰路を共にする。
中学での話や趣味の話など、会話が絶えることなく続いていく。
本当の能力はコミュニケーション能力なのではないかと疑うほどに、彼は話上手だった。
あっというまに駅につき、また明日、と別れようとしたその時だった。
「なぁ、コースケ」
先ほどまでと違う、真剣な眼差しを向けるダッシュに耳を傾ける。
「あ? なんだよダッシュ」
「お前、わや学の噂って知ってるか?」
――『わや学の噂』その言葉に息を呑んだ。
「わや学の……噂?」
「わや学で不可解な事件が続いてるらしいぜ」
「事件……だって、どんな……?」
「いや、事件の内容までは詳しく知らねぇんだけどさ……なんでも特進クラスの奴ばっか被害に遭ってるらしいぜ。犯人も特進クラスの奴らなんじゃねぇのって話!」
特進クラスに犯人がいるかもしれない。ダッシュの口からそう聞いた瞬間、俺は芯くんとの昔の会話を思い出した。
『コースケ、俺あの憧れの、わや学に通うことになったんだぜ』
『すごいや芯くん!』
『特進クラスなんだ』
『さすが芯くんすごいや! セイヤッ』
『へへへ……俺、ここで絶対にてっぺん取ってやるって決めたぜ』
『うん、芯くんならできるよ絶対! セイヤッ! ハッ!』
芯くんも確か特進クラスに通っていた筈だ。正直あの時は、話も右から左だったから正しい記憶かは定かではない。しかし、特進クラスという繋がりの『可能性』を見つけたのは事実だ。
「特進クラスには、関わらない方がいい」
「え……?」
ガシッと俺の両肩を強く掴み、ダッシュは言い放つ。
「特進クラスは、頭が切れるヤバい奴らの集まりなんだよ……わや学は誰もが知る、能力者のみを集めたヤンキー校だってこと、忘れるなよ」
「……肝に銘じておくよ」
――フールズのみを集めたヤンキー校
そう、わや学は能力者を集めた学校であり、それと同時にA県内トップ3に入るヤンキー校でもあるのだ。トップの生徒は、他校からも狙われてしまうような有名な高校である。
――忘れるなよ
「(忘れるはずないだろ……ここのトップが芯くんの夢だったんだから)」
俺は、胸ポケットにしまった芯くんのシャー芯ケースを取り出しぎゅっと握りしめた。
「(絶対に……芯くんの仇をとって、わや学のトップになってやる……!!)」
フールズメイトを読んでくださりありがとうございます。
少しでも多くの方に楽しんで頂ければ幸いです。よろしくお願いします。