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第十八話 教室と文房具



 目を覚ますと、俺は教室にいた。椅子に座らされ、机に突っ伏したように寝ていたようだ。


 顔を起こすと、後頭部がズキズキと激しく痛んだ。



「やぁ……起きたかい、コースケくん」



 声のする方へ目を凝らすと、そこにはケンバンを戦線離脱まで追い込んだ憎き鉛筆が立っていた。前回と違い、背中には鉛筆削りのようなものをリュックのように背負っている。



「ふふふ、色々と調べてくれたようだねぇ……ほんとに困ったもんだよ、ラッキーといい……」


「て、てめェ……」



 俺は痛む頭を押さえながら立ち上がる。しかし、膝の力がガクンと抜け、その場に座り込むこととなった。視界が揺れて気持ちが悪い。今にも吐きそうだ。



「動かないほうがいいと思うよ、後頭部をぶたれたんだもんな……」


「よくもケンバンとラッキーを……」



 鋭く睨むが、鉛筆は馬鹿にしたように笑った。



「威勢がいいことはいいことだ。若いっていいねェ、若いことはいい……高校生はもう若いとは言えないが。僕も若い子は好きだ。鉛筆を必要としてくれるからさ」


「ダッシュと、パラダイスをどこにやった……」


 

 こんなにも低い声を出すことができたのかと自分でも思うほどの低声は教室内に響いた。



「あの2人は別の部屋にいる……今頃説得されてるだろうね」


「説得……」


「僕たちの目的は、君たちの説得だからね」



 コツコツと革靴の音を立てて鉛筆が俺に近づいてくる。俺は、構えることができずその場にとどまった。



「フールズの強化……そして一般人への復讐。協力してくれないかな」


「どういうことだ……」


「フールズ同士で戦うことで、能力強化が期待される。だから、えも校との全面戦争をさせたかったんだけど……それを君たちに邪魔をされたからね」



 鉛筆は、俺の前まで来るとしゃがみ込み顔を覗き込んだ。



「用済みのラッキーを消すことに失敗した挙句、君たちに色々と感づかれてしまった以上、僕ももうあとがなくてね……君たちが協力してくれなきゃ消されてしまう」



 先程までの人を小馬鹿にした表情が消え失せ、こちらをみる鉛筆と目が合う。



「……協力、するわけ……ねぇだろ」


「だよね。じゃあ消えてくれ」



 鉛筆は目の色を変えて腕に鉛筆の先端のようなドリルを取り付けた。

その様子を見て俺は後ろに後退り距離を取る。頭がまだクラクラするが、そんなことを言っている余裕はない。


 ドリルを振り上げた腕を身をよじり間一髪で避けることに成功する。外れたドリルは床を貫いた。



「若い子は好きだ。鉛筆を必要としてくれる。大切に扱ってくれる子もいる……だが、高校生はもう若くない。シャーペンを使い始めるからな」


「シャーペン……」


「ふふふ……あれは傑作だったなァ……シャー芯『ごとき』で心が折れちゃうなんてさァ、やっぱりさっきの言葉は訂正するよ……高校生は若いね」


「て、てめぇ……まさか……」


「シャーペンよりも僕を使えばいいものを……使わないから全部折られちゃうんだよ」


「てめェェェェエエエエッ!」



 怒りで頭の痛みなど忘れ、俺はフラつく足で立ち上がり鉛筆へ向かって殴りかかった。


――こいつが、芯くんの仇……!!


 フラつく足ではうまく踏ん張ることができず、簡単に拳を避けられてしまった。そして、そのままバランスを崩し顔から床に倒れ込んだ。



「うぐっ……」


「申し遅れました。僕は『鉛筆伯爵(えんぴつはくしゃく)』……以後お見知り置きを」



 鼻から垂れた鼻血を腕で拭き取り、鉛筆伯爵と名乗った彼の方へと振り返る。



「ずっと僕を探してたんだろ……憎んでたんだろ……でも悲しいね、君の能力じゃ僕には勝てないよ。お得意の仲間のヘルプもない……君は一人ぼっちだ」


「ぐ……」


「『感情』があるから、辛いんだよね。わかる、わかるよその気持ち……だから、今楽にしてあげるからね」


ブィーン



 音を立ててドリルがこちらへと向かってくる。俺は、思わず目を瞑った。






――――





 一方その頃、ダッシュも同じように教室へと連れてこられていた。

 コースケと違うのは、目の前にいるのが鉛筆ではなく『水のり』ということだ。



「ヒヒッ……ダッシュダッシュダッシュよォ、原付のダッシュさんよォ」


「何度も呼ばなくたって聞こえてるぜ……」


「良くいうぜ、ずっと伸びてたくせによ」


「うるせぇ……コースケに駆け寄った俺とパラダイスを後ろから羽交い締めにして伸びるまで殴ってきたのはそっちだろ……卑怯者」



 ダッシュは、のりを睨みながらペッと口の中の血を吐いた。


 目の前にいる男と呼ぶにも似つかわしくない『のり』は、人間で言う顔の部分が水のりのケースになっており、キャップ部分の少し下に顔のパーツがついている。実に奇妙な見た目をしている。


 依然、鉛筆人間を目撃したダッシュとっては驚くことではなかった。



「さァ、起きて早々悪いが、ここからは取引の時間だぜダッシュ」


「てめぇと取引する案件なんかねぇよ、お引き取り願うぜ」


「いいから聞けよ……悪い話じゃあない。金がいるんだろ?」



 のりは、ダッシュに不敵に笑いかけた。



「フールズ同士が戦えば、能力が成長するかもしれねぇ……だから、フールズ同士を戦わせたい。その理由はわかるよな?」


「一般人への復讐のために、フールズを育てたいってこと……」


「なかなか賢いじゃないの! そう! それだよそれ! だから、俺たちに協力をしてフールズ同士の争いのタネをまいて欲しい」


「そしたら大金をくれるってか」


「話が早くて助かるねぇ」



 ふふふと笑い続けるのりは、ダッシュへと近づき右手を出した。



「協力、してくれるよなァ」


「妹の行きたい学校……他の学校より学費が高くてよォ。だから金が欲しい」


「校長は太っ腹だ、多分全額補助も夢じゃあねぇ」


「すまんが、ダメだね」


「は?」



 協力を確信していたのりは素っ頓狂な声を出し、差し出した右手を元に戻すことも忘れてダッシュの次の言葉を待った。



「そんなことをしたら、また仲間を裏切ることになっちまう。もう二度と、俺は仲間を裏切らない」


「いやでも、コースケやパラダイスだって今頃同じこと話されてだな、」


「あいつらはお前らに協力しない。だから俺も協力しない」


「は、はァァ〜ッ?」



 のりは、ダッシュの言葉を理解できないと言った表情で声を出す。ダッシュは、殴られたであろう痛む腹を押さえて教室のドアへと向かった。



「おい待てよッ!」


「話は終わっただろ……コースケたちのところへ行く」


「そうはさせねぇ」



 ドアへと向かうダッシュに向かって、のりが頭のキャップを捻り外した。すると、外した場所からのりがブシュッと音を立ててダッシュの足元へと目掛けて飛び出した。



「な、なんだこれ」


「おっと、自己紹介遅れたなァ……俺は『ノリ助』見ての通り『水のり』の妖精さんだぜ。おっと、コースケと似た名前はしているが、あいつと違って俺は助けるっていう漢字が使われてるんだぜ」


「べ、ベタベタする」



 ノリ助と名乗ったそいつから放たれたのりが、ダッシュの足元を濡らした。少しべたつきがあるが速乾性はないようである。



「水のりだから、ボンドみたいに速乾性はないけどよォ……俺ののりは特殊だから、」



 ダッシュがその場から離れようといつものように走りだすと、靴がのりによって滑りその場に倒れ込んだ。



「よく滑るんだぜ」


「ぐっ」



 ダッシュは、倒れ込んだもののすぐに立ち上がった。しかし、ローションのように滑るのりのせいで立つことはできても走り出すことができない。


 それどころか、滑る足を踏ん張るせいで殴られた箇所がズキズキと痛む。



 その時、教室の扉が開き、廊下から『何か』がのりへ向かって飛んでいくのが見えた。



「あっぶねッ! おいッ! 俺様の容器が壊れたらどうすんだッ! のりぶちまけるぞッ!」



 ノリ助がその『何か』に気を取られている間、ダッシュは何者かによって廊下へと投げ飛ばされた。その何者かは、ダッシュの代わりに滑って床に倒れ込む。



「いてて……はっ! お、お前はッ!」



 ダッシュは、その人物を見て思わず声を出してしまう。



「『委員長』ッ!」


「あの時は、過去のことを掘り返して悪かったな」


「お前なんで……ッ」



 そう。ダッシュの代わりとなったのは、紙飛行機の能力をもつ『委員長』であった。先程ノリ助に向かって飛んで行ったのも紙飛行機だったのだ。



「勘違いするなよ。芯太郎からコースケのことを頼まれたんだ……奴に戦線離脱されてしまっては元も子もない。コースケの能力は戦闘向きじゃないからな、早くコースケの元へ向かうんだ。お前の足の速さなら探し出せるだろ」


「おい俺を無視してんじゃあないぜッ!」



 ノリ助が、委員長に向かってのりを噴出する。委員長は足元が滑ることをいいことに、壁を蹴り滑ってその場から移動をする。まるでそれは雑巾掛けレースのようだ。懐かしい。



「いいから早く行けッ!」


「……俺も、コースケに『委員長とは関わらないほうがいい』とか言った! ごめん!」



 ダッシュは、委員長に向かって一言謝ると、その場でのりが付着しべたついている靴と靴下を脱いで裸足で走り出した。


 コースケを探して。





「戦いは慣れてないんだ……勉強ばかりだったんでな。でもだからこそ文房具の扱いはわかってるつもりだ」



 委員長は腕をポキポキと鳴らした。



「嫌いじゃないぜ、お勉強野郎は……」



 対するノリ助も首をゴキリと鳴らして笑った。






――――






 残るパラダイスはというと、とある文房具と対峙していた。相手は『ハサミ』だ。



「つまり、協力する気はないんだナァ?」


「悪いが、ないね」



 シャキンシャキンと音を立てるのは、両腕がハサミとなった異様な男である。手をクロスさせ、話の最中もコピー用紙を永遠と切り刻んでいる。



「ンジャ、話は早いナァ」


シャキン



 最後の一枚を切り裂くと、ハサミ男はパラダイスの方を向き直る。



「てめェをこのオレ『カットマン』が終わらせてやるゼ」


生憎(あいにく)だが、俺は紙じゃないぜ」



 ハサミを構えて向かってきたのを受け流し、背後へ回る。すかさず指をパチンと鳴らした。



「な、なぜだ……なぜ爆発しない」


「馬鹿かよ、オレはハサミだゼェ? ニキビだなんてあるわきゃねぇだろッ!

それに、オレが切れるものは、紙だけじゃあネェ」


「なッ」



 次の瞬間、パラダイスの身体に無数の切り傷が浮かび上がった。



「い、いつのまにッ! 攻撃は確実に受け流したはず……」


「お前が受け流した一発以外にも切り刻んでたんだゼェ? オレは……音を置き去りにするってのはこーゆーコトヨ」


「な、なんだと……」



 カットマンは、音をも置き去りにするほどの超スピードでパラダイスに切り傷をつけた。そのうちの最後の一発は受け流したようだが、気付かぬうちに攻撃を受けていたことに驚いた。



「無数の切り傷……それにお前、『切れるものは紙だけじゃない』と……そう言ったか」


「アァ? 言ったけど? それが何か?」


「そのハサミ……何でも切れるのか……例えば、」



 パラダイスの額に汗が流れた。

 戦線離脱した過去の友人の顔が頭をよぎる。



「『ファイル』……とかよォ」


「……切れるって言ったら……『切ったことがある』と言ったら、どうすんダァ」


「……てめぇーを二度と物を切れない形にしてやるッ!」



 パラダイスは、興奮して充血した目を見開きカットマンへと距離を詰めた。

 『あの日』を思い出して……








フールズメイトを読んでくださりありがとうございます。

少しでも多くの方に楽しんで頂ければ幸いです。

よろしくお願いします。

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