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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第6章「サクリス帝国」

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6-6「バーン」

6-6「バーン」


 護衛の騎士たちと別れ、マザー・テナークスの乗った馬車を先頭に魔法学院へと入った一行は、そこで、テナークスを出迎えるたくさんの魔術師たちに出迎えられた。


 魔術師たちは皆、魔力の制御を容易とし、外部からの魔力の影響を遮断するためにローブを身に着けていることが多いのだが、ここ魔法学院では魔術師のローブはある種の制服のようなものとなっており、教師も生徒たちも皆、同じ意匠の魔術師のローブを身に着け、魔法の杖を持っている。


 ここに来るまでの間に帝都の街並みの中をサムの乗った馬車は走り抜けて来たのだが、その際、オークであるサムは、必ずと言っていいほど帝都の人々から奇異と不安と疑いの入り混じった視線を向けられた。


 だが、魔法学院で一行を出迎えた魔術師たちは、多少ざわついたものの、街の人々と比較するとかなり落ち着いていた。

 魔術師たちには一般的に、魔法を扱う力だけではなく、様々な知識を身に着けることも求められているから、一般の人々の様に魔物に対して無知ではなく、その点がサムを見ても冷静でいられる理由かもしれなかった。


 マザー・テナークスは、出迎えた魔術師たちの中から進み出てきた、テナークス不在の間に学院を取り仕切っていたベテランらしい魔術師から短く報告を聞くと、同じく短く指示を下し、それから、4人の少女たちと1頭のオークが自身の客人であることを伝え、魔法学院の中に滞在できる場所を整える様にとつけ加えた。


 テナークスの指示を受けた魔術師は少し戸惑ったような顔を見せたが、テナークスに重ねて「この者たちは私の客人です」と言われて、それ以上は何も言わずにただ「かしこまりました」とだけ答えた。


「ついてきなさい。詳しいことは、中でお話いたしましょう」


 それからテナークスは一行にそう言い、一行を先導して歩き出す。


 サムは、4人の少女たちに続いてテナークスの後を追いながら、きょろきょろと周囲を見回していた。


 ようやく、魔法学院までたどり着いた。

 ここまで本当に、長く、辛い旅路だった。


 無事に目的地にたどり着くことができた幸運と、見たこともないような場所への好奇心で、サムはとても落ち着いていられない。

 すれ違う人々からはサムのことを警戒する視線が無遠慮に向けられたが、今更サムにはそんなことは気にもならず、サムは辺りをせわしなく見まわし続けた。


 その落ち着きのなさは、「ちょっと、サム、テナークス先生の前なんだから、もっと大人しくして」と、ティアからたしなめられてしまうほどだった。

 どうやら、ティアたちはマザー・テナークスのことを心から尊敬し、慕っている様だった。


 やがて一行は、テナークスの執務室がある建物の中へと案内された。

 そこは教師たちのための施設や、図書館などの公共の施設が集められている一画で、一行はテナークスの執務室の隣にある応接室へと通された。


 ついたらすぐにサムのことと聖剣マラキアについての話が始まるものとばかりサムは思っていたのだが、どうやらテナークスには、これらの問題に匹敵するくらいの重大事があるらしい。

 テナークスはまず、その問題に対処するために、外部からの来客に応対しなければならない様だった。


 一行が応接室でテナークスの用事が終わるのを待っていると、そこに、1人の少年が現れた。


 少年、と言っても、普通の少年ではなかった。

 短く切りそろえた茶色の髪と茶色の瞳を持つ点では他の少年たちとさほど変わりがなかったが、その少年の肌には、リーンと同じ様に継ぎ接ぎがあり、その部分で肌の色が変わっている。


 リーンと一緒に旅をしてきたサムは今更その少年の肌のことで驚いたりはしなかったが、その少年が部屋に入ってくるなりリーンが立ち上がって、少年に駆け寄って抱き着いたことには驚かされた。


「おかえり、リーン! 元気そうで、良かった! 」

「うん、ただいま、バーン」


 バーンという名前の少年は嬉しそうに微笑んでリーンを抱きしめ、リーンもどこか嬉しそうに笑顔を見せた。


 それから、バーンは一行に自己紹介をしてくれた。

 と言っても、バーンことをよく知らなかったのはサムだけだったので、その自己紹介は実質的にサムに向けてのものだった。


 バーンという少年は、リーンとは「兄妹」の様な関係であるらしかった。

 実際の血のつながりはないのだが、リーンと同じ魔法実験によって生み出された合成人間で、今は、テナークスの下で仕事を手伝ったり、図書館で資料の整理を行ったりしているということだった。

 彼はリーンたちが帰って来たという知らせを受け、大急ぎでここまでやって来たらしかった。


「バーン、1つ、違う」


 バーンの自己紹介を聞き終えた時、リーンが、心なしか不満そうな表情で言った。


「バーン、私のお兄さん、違う。私、バーンのお姉さん」

「いいや、リーン、僕が兄で間違いないよ。だって、僕の方が先に作られたんだから」

「でも、バーン、私が生まれた時眠っていた。起きてる時間、私の方が長い。だから、私がバーンのお姉さん」

「いいや、こういうのは、普通は生まれた順番! 」

「関係ない。私たち、普通と違う」


 言い合いが始まってしまったが、しかし、他愛のないことだった。

 どうやら、兄妹だというリーンとバーンの仲は良い様だった。


 2人の口喧嘩を、3人の少女と1頭のオークは微笑ましそうに眺める。

 長くつらい旅の果てに目的地にまでたどり着くことができ、誰もが、ほっとしているのだ。

 まだサムのことも聖剣マラキアのことも解決できるとは限らなかったが、それでも、一行の表情は明るかった。


 やがて、一行が待っている応接室に、魔法学院の外部からの来客が顔を出した。

 黒髪に黒い瞳を持つ、よく鍛えられた肉体を持つたくましい男性で、隻眼なのか右目に眼帯を身に着け、腰には剣を吊っている。


 エフォールと名乗ったその男性は応接室の中にいた魔物、サムの姿を見て驚いた表情を見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻し、「テナークス殿がお呼びだ」とだけ一行に伝えて、忙しいのかすぐに去って行ってしまった。

 どうやら、年老いたテナークスの代わりに一行を呼びに来ただけの様だった。


「バーン、今の人は? 」

「エフォール将軍です。テナークス先生に相談事があったとかでいらしていたんです。リーン、次にお会いしたらちゃんと敬語を使ってくださいね? 」

「……善処、する」


 それから、一行と久しぶりのおしゃべりを楽しんでいたバーンは、「案内します。すぐそこですけど」と言いながらソファから立ち上がった。


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