6-3「国境封鎖」
6-3「国境封鎖」
諸王国を北から南へと縦断するのには、かなりの時間がかかった。
一行がかつて諸王国を北に向かって進んでいった時、その時はティアが「聖剣マラキアを携えし勇者である」ということから、道々、様々な支援も受けることができたが、今の一行は何者でもなかった。
聖剣マラキアは砕かれてしまったし、今のティアたちにはロクな路銀もなく、ほとんど着の身着のままのような状況で、薄汚れて、ひもじくもある。
街道を、戦火を逃れて南へ向かう難民たちと何ら変わるところはなく、ティアたちを手助けしようという人もいない。
加えて、サムというおっさんオークが同行していることが問題だった。
人類は目下、魔王軍による激しい攻撃を受け続けており、魔物は何であろうと、人間にとっての敵なのだ。
一行は街道を南に向かって歩き続けたが、その際にも、多くの人々はサムの姿を見かけるとぎょっとしたように距離を取り、決して近寄ろうとはしなかったし、悪ければティアたちを疑いの目で見て、場合によっては糾弾しようとさえした。
装備の多くを失ってはいたものの、それでも4人の少女と1頭のオークから成る一行は、これでも魔王城の最深部まで攻め込んだこともある冒険者パーティだった。
トラブルに巻き込まれそうになるたびに逃げだしたり、切り抜けたりすることは難しいことではなかったが、トラブルを避けようとした結果、人目につかない様に行動する必要があり、街道を堂々と歩けなくなってしまった。
道はあった。
地元の人々しか使わない様な細い曲がりくねった道や、獣道。
一行は、道が続いている限り、決して前に進むことをあきらめなかった。
そうして、とうとう、一行はサクリス帝国と諸王国の国境地帯へとたどり着いた。
サクリス帝国に入ってからも、一行が目指すマザー・テナークスがいる場所、魔法学院までの道のりはまだまだ長い。
それでも一つの区切りで、一行はサクリス帝国領を示す立て看板を見た時は、久しぶりに明るい笑顔を見せた。
だが、一行の旅路は、そこで一度停止することになってしまった。
何故なら、サクリス帝国はその国境線をまたぐ往来の一切を禁止し、国境封鎖を行っていたからだ。
サクリス帝国と諸王国との国境地帯は、この封鎖のために混雑していた。
戦火を逃れて避難してきた難民たちはもちろん、サクリス帝国出身者や、出入りの商人たちまで足止めを食らい、封鎖が解除されるのをその場で待つしかできなくなっているからだ。
国境地帯ではすでに難民たちがテントなどを張って長期の滞在に備えつつあり、商魂たくましい商人たちは、少しでも商品を売りさばこうとそこで商売を始めている。
その光景を、国境を封鎖しているサクリス帝国の兵士たちが、大勢で監視している。
サクリス帝国と諸王国とを行き来する街道は、その要所に出入りを監視するための検問所が築かれてあり、それらは堅固な要塞になっていた。
石造りの城壁が築かれ、堀が作られている。
いくつも塔が並んだ城壁上には警戒の兵士が大勢配置されていて、諸王国からサクリス帝国に入ろうとする人々を誰も通さない様に厳しい警戒を実施していた。
一行はそこで、途方に暮れるしかなかった。
身分の確か貴族や商人でさえ入国を拒否されているのだ。
今の一行では、どんなに頑張ったとしても、この封鎖を抜けることは難しかった。
少女たちは「勇者一行を騙った上、無謀な戦いを挑み、聖剣を失った罪人」として扱われるかもしれなかったし、そもそも、奴隷として未だ手枷、足枷を身に着け、魔法の鎖によって繋がれているとはいえ、サムは魔物、オークに過ぎない。
一行の身分を証明することもできないし、サムが本物の勇者であることなど、なおさら証明することが難しい。
仕方なく、一行は国境地帯でキャンプを張ることになった。
それも、他の難民たちがキャンプを張っているところから少し離れた場所に、ポツンとキャンプを張った。
魔王軍の侵攻でただでさえ緊張した状態なのに、そんな民衆の近くで、サムというオークを従えた少女たちが堂々と寝泊りをしたら、何が起こるか分かったものではないからだ。
一行はキャンプを張って、ありあわせの食材で食事の用意をしながら、今後の方針について話し合った。
まず、何とか事情を説明して入国させてもらうという案が出されたが、これは、自分たちの立場がかなり危ういということと、サムのことを説明なしには通してもらえないだろうということから、すぐに否定された。
例え魔法学院までたどり着くことができたとしても、勇者であるサムがいなければそこまでたどり着く意味がない。
一行は、聖剣マラキアを修復し、サムの勇者としての力を取り戻すために、ここまで旅をしてきたのだ。
次に、国境を警備するサクリス帝国軍の兵士たちの目をかいくぐって潜入することが検討された。
これは、有力な提案として考慮されることになった。
正面から堂々と入国するのが不可能である以上、どうにかして魔法学院までたどり着くためにはこうする他は無いと考えられたからだ。
だが、課題も大きかった。
サクリス帝国へ入国できる道は要塞に守られていて、たくさんの警備が配置されている。
魔法の中には、一時的に姿を見えなくする魔法というものもあるのだが、4人の少女たちは全員何かしらの魔法が使えるのだがこの姿を消す魔法を得意としている者はおらず、できたとしても短時間だけで、すぐに警備に見つかるだろうと思われた。
それに、サクリス帝国の要塞内部には、魔術師たちもいる。
世界各地から魔術師を集めて教育を行っている魔法学院をその国内に有しているのだから、サクリス帝国では魔術師の数が諸王国よりもずっと豊富で、優秀な人材たちが多い。
例え魔法で相手の目をくらますことができたとしても、そんな魔法を使えば、サクリス帝国の魔術師たちにすぐに気がつかれてしまうはずだった。
他に、迂回して別の道を探そうという意見も出されたが、この意見は最初、あまり支持されなかった。
別の道に向かったとしても同じ様に国境封鎖されているだろうし、あまり見張られていない様な場所はそもそも地形が険しくて通行することができなかった。
結局、成功の見込みがあるサクリス帝国への入国手段は、何も思い浮かんでこない。
そうして、結論が出ないまま、数日が経過していった。




