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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第5章「決戦」

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5-22「陥落」

5-22「陥落」


「行ったか」


 4人の少女と1頭のオークを戦場から逃がすための転移魔法の光が消えた後、遠距離の通信を行うことができる魔法珠を使ってパトリア王国軍の指揮官たちと連絡を取り終わったアルドル3世が戻ってきて、キアラにそう言った。

 その背後では、ガレアが配下の兵士たちに向かって、魔法珠を使ってアルドル3世からの指示をより詳細に指示しているところだった。


「はい。ですが……、ちょっと、転移した先がずれてしまったかもしれません」


 娘たちを逃がしたことで少し安心した様な顔になっているアルドル3世に、キアラは困った様な顔を向けた。


「転移する最後に、ルナが、動いてしまったので。リーンさんが引き留めてくれたから、ちゃんと、五体満足で転移はできたと思うのですけれど、少し、思った場所からはずれてしまったかも……」

「ま、仕方ないわよ。私たち、あの子たちを騙したんだし」


 申し訳なさそうなキアラに、ステラは軽く体を動かしてストレッチをしながら、明るい声で言う。


「それに、多少座標がずれた場所に飛ばされたとしても、あの子たちならなんとかできるでしょう。まだまだ、未熟だけれど、成長はちゃんとしているんだもの」

「そうだ、そうだ。……娘たちに負けない様、我々も、ちゃんと働かなければな」


 ステラの言葉に、アルドル3世は腕組みをしながら、何度も頷いてみせる。


「私たちの役割……、敗戦の処理? 」

「そうだ。……残念ながら、ここからどう頑張っても、戦況はひっくりかえせない」


 ステラの確認に、アルドル3世は真剣な表情になった。


「第一の城壁はすでに突破され、第二の城壁にも魔物が侵入、この内城にも攻め込みつつある。我がパトリア王国軍はほぼ無傷だが、数がなぁ。諸王国では3番目に大きい軍隊だが、されど16000。崩れた何倍もの友軍を支えるには、少々力不足だ」

「でも、やるんでしょ? 」

「もちろんだ。負けるにしても、良い負け方をしなければ。……次が無くなる」


 アルドル3世たちがこれから行わなければならないことは、多かった。


 まずは、ティアたちにも言ったことだが、人類軍の総大将であったオプスティナド4世の捜索。

 敗軍の指揮を執るにしても、オプスティナド4世の消息を確認し、指揮系統を再編しなければ始まらない。


 次いで、すでに総崩れとなりつつある友軍部隊の、できる限りの救出。

 諸王国はいにしえからの盟約に従い、その兵力のほとんどをこのウルチモ城塞へと集結させている。

 つまり、ここで魔王軍によって徹底的に撃滅されてしまっては、諸王国を守るための兵力が全て失われてしまうことになる。


 加えて、非戦闘員の避難の支援、魔王軍の侵攻をできる限り遅滞させることなど、アルドル3世たちが果たさなければならない役割は多岐に渡り、しかも困難だった。


 そもそも、戦闘の中を駆け巡ってそれらを成しとげていかなければならないのだ。

 この塔から下りることだって、難しいかもしれない。


 やがてガレアも合流し、ティア、ラーミナ、ルナの3人の少女の両親たち、20年前、最初に勇者を探して旅に出た元冒険者パーティの一行が勢ぞろいした。


「さて。みんな、覚悟はいいな? 」

「ええ、いつでも」

「前衛は俺に任せろ、昔の様に」

「援護は、お任せください」


 アルドル3世の呼びかけに、全員がいい笑顔で頷き返す。


「では……、行こう! 」


 アルドル3世はそう言うと駆け出し、他の3人もそれに続いた。


 ウルチモ城塞は、すでにその防御を食い破られ、魔物たちによって蹂躙じゅうりんされつつあった。

 兵士たちは各所で寸断され、包囲され、倒れていく。

 魔物たちは手当たり次第に人間に襲いかかり、燃え広がった炎が空を焦がす勢いだった。


 戦いは、丸一日続いた。

 人々は勇敢に戦い続けたが、ウルチモ城塞の北側の二重の城壁は打ち崩され、破られた。

 魔物たちは内城へも襲いかかり、数えきれない犠牲を出しながらも、そこを守っていた人間たちを壊滅させ、そこを占領した。

 残った南側の城壁には多くの守備兵力はなく、その残った守備兵力も、城内からできるだけ多くの人々を脱出させるために頑強な抵抗を見せたが、結局、最後にはその全員が討ち死にするか脱出するかして、南側の城壁も魔王軍の制圧するところとなった。


 魔王軍との戦いが行われていた最中、ウルチモ城塞を守備する兵士と、その兵士たちを補助するために集まった人々は、10万名を超える規模にまで膨れ上がっていた。


 だが、生きて脱出することができたのは、その半数にも満たない。


 人類軍は、多くのものを見捨てて、逃げていった。

 ウルチモ城塞に運び込まれていた、諸王国中からかき集められた物資の山。


 たくさんの人間の死体。


 そして、身動きの取れない、たくさんの負傷者たち。


 敗走していく人間たちに向かって、南側の城壁を制圧した魔物たちは一斉に咆哮ほうこうをあげ、勝ち誇った。


 ウルチモ城塞は、陥落した。


 この戦いの結果、人類軍は多くの兵力を失い、また、参戦した諸侯のうち、半数近くが戦死した。

 諸王国各国の軍事力はもはや形骸と化し、そして、それらを統合して強力な軍隊としてぶつけるだけの力も失ってしまった。


 神話の時代から、数千年。

 人間の世界を強固に守り続けてきた鉄壁の城塞は陥落し、魔王軍の行く手には、今、自らを守る術を失った諸王国が無防備に広がっている。


 魔王軍による大侵攻が、開始されようとしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人類軍全滅ですやん 再編する暇もないでしょうから もうおしまいですねえ 南ー無ー
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