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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第5章「決戦」

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5-18「黒幕」

5-18「黒幕」


※作者注:残酷描写あります


 一斉に放たれた矢は、しかし、一行に届くことはなかった。

 バンルアン辺境伯との問答の内に、口の中だけで呪文を唱え終えていたキアラが、呪文の最後の部分を力強く叫び、突風を巻き起こして飛来する矢を跳ねのけてしまったからだ。


「ええいっ、大罪人めっ! 攻撃しろっ! 魔王軍の到着まで、この塔を守れ! 勇者がいない今、我らが故郷を、家族を守るためにはそれしかないのだ! 」


 突風が収まった後、自身の腕で顔をかばっていた辺境伯は、同じく突風に吹き飛ばされない様に姿勢を低くして踏ん張っていた周囲の兵士たちに、一行を攻撃する様に命じた。


 兵士たちは、必ずしも「魔王軍に降伏する」というバンルアン辺境伯の考えに、賛同してはいない様だった。

 しかし、だからと言って自分1人が指揮系統を離れてもどうすることもできないうえ、「勇者はいない」というバンルアン辺境伯の言葉を否定できる証拠も何もない。


 実際は、人類にとっての希望、光の神ルクスに選ばれし者、勇者は、彼らの目の前にいた。

 だが、その勇者は今、35歳のおっさんオークでしかない。


 兵士たちが躊躇ちゅうちょしたのは一瞬のことだった。

 だが、すぐにそれぞれの武器を構え、喚声かんせいをあげながら突撃を開始する。


「やむを得ん! 戦うぞ! だが、できるだけ殺すな! 」


 アルドル3世がそう叫ぶと、8人と1頭もまた、バンルアン辺境伯の手勢を迎え撃つために突撃を開始した。


 一行の先頭を切って進んでいくのは、全身を重厚な鎧で包み込み、右手に剣を、左手に大型の円形シールドを構えたガレアだった。

 ガレアは剣を振り上げて切りかかって来た兵士の斬撃を自身の剣で受け流すと、アルドル3世の方針通り、なるべく相手を殺さないために兵士を盾で殴りつけて昏倒させた。


 ガレアに並ぶように、前衛として戦う役割を持ったアルドル3世、ステラ、ティア、ラーミナ、サムが隊列を組み、兵士たちを迎えうった。


 バンルアン辺境伯の手勢はよく訓練を受けた精兵だったが、しかし、腕は各地を旅して様々な戦いを経験してきた一行の方が上だった。

 普通の剣や矢が一切通用しないという、異形の怪物であるサムが雄叫びを上げながら前進すると、兵士たちは腰が引けたように後ずさり、その隙を狙って切り込む一行によって次々と倒されていった。


 その上、一行には、優秀な魔術師たちが3人もついている。

 ルナが前衛として戦う仲間のためにバフの呪文を唱え、リーンが威力を弱めた炎の魔法で迫る兵士たちを牽制けんせい、分断し、キアラが衝撃波の魔法で、一行を上階から弩で狙撃しようとする兵士たちを転倒させる。


 一行の連携攻撃に、バンルアン辺境伯の手勢は徐々に押されていった。


「くっ! 引け、引け! 塔の最上階を守るのだ! 」


 形勢が不利と見たバンルアン辺境伯は配下の兵士たちに後退を命じ、殿しんがりを自ら指揮しながら、塔の最上階へ向かってじりじりと退いていく。

 一行はバンルアン辺境伯が退いた分前進し、彼らを追い詰めていった。


 長い螺旋らせん階段は狭く、先頭に立ったガレアが奮戦し、次々と辺境伯の兵士たちを気絶させていく。

 その腕前は見事なもので、加えて、少しも疲れを知らない様な戦いぶりだった。


バンルアン辺境伯を守る殿しんがりの兵士たちは数を減らしていったが、しかし、彼らは辺境伯を忠実に守り続けた。

 魔王軍に降伏することを兵士たちは必ずしも受け入れてはいなかったが、バンルアン辺境伯は相応に兵士たちから慕われ、信頼されていたようだった。


 やがて、一行はとうとう、塔の最上階にまでバンルアン辺境伯を追い詰めた。

 最後まで残った殿しんがりの兵士をガレアが気絶させて突破すると、一行は最上階までの最後の階段を駆け上り、塔の最上階に突入を果たした。


 尖塔の最上階は、広い、1つの部屋の様になっていた。

 その部屋の中央にはファンシェの鏡を納めていた台座があり、そして、周囲にその聖なる光を届けるべく四方に壁はなく、四隅の柱とアーチが屋根を支える構造となっている。


 伝令の報告にあった通り、ファンシェの鏡は破壊されてしまっていた。

 台座の周囲には、聖なる光をたたえていたはずのファンシェの鏡の破片が無残にも散らばっており、台座の上には、枠組みだけとなった鏡がむなしく置かれたままになっている。


 だが、その光景よりも、一行は、その場に倒れていた数多くの兵士たちの姿の方に驚かされた。

 それはどうやら、バンルアン辺境伯の手勢だった兵士たちの様で、皆、息絶えていた。


 しかも、無残な、むごい殺され方をしていた。

 ある者は鎧ごと鋭利な刃で切り裂かれ、ある者は炎で焼かれている。

 部屋一面に兵士たちの血しぶきが飛び散っていた。


「こ、これは、いったい、どういうことなのですか!? 」


 その惨状の中で、残り数名となった配下の兵士たちに守られながら、バンルアン辺境伯は悲痛な叫び声をあげた。


「これでは、これでは、約束が違う! 裏切れば、ファンシェの鏡さえ破壊すれば、我らも、我が領地の民衆も生かすと、そう約束されたではないですか!? 」


 その叫び声が向けられた先にいるのは、1体の魔物だった。


 高い身長と、細長い、白い肌の手足を持つ、鈍色にびいろの鎧を身にまとい、腰には2本の刀を吊っている魔物。

 その魔物は、必死の形相で叫ぶバンルアン辺境伯を、赤黒い鮮血の色をした瞳で見つめ、愉悦ゆえつゆがんだ表情で見返している。


「約束と、違うゥ? いえいえ、バンルアン辺境伯殿。これが「約束」どおりでありますぞぉ? 」


 その魔物、マールムは、相手を心の底からバカにしている様な猫なで声で言った。


「我輩は、ここにいた皆を、貴殿の部下たちを「救って」差し上げたのですぞぉ? 」

「な、なんですとっ!? 」

「左様。この者たちは皆、暗黒神テネブラエ様の下へと行ったのです」


 そして、マールムは、一度聞いたら忘れることのできない、あの不愉快な甲高い声でわらった。


「ヒィーハッハハハハッ! お前、本当に我輩たちと、魔物と取引をしたつもりになっていたのかァッ!? 全て、全ては魔王様と、暗黒神テネブラエ様のためにィッ! コイツもアイツもお前も、みーんな仲良く、あの世に送ってやるよォっ! イヒヒヒヒヒッ! 」

「きっ、貴様ァッ! 」


 腹を抱えて笑っているマールムに、バンルアン辺境伯は叫び、剣を抜いて切りかかった。

 だが、怒りに任せたその一撃は、マールムに届くことはない。


 マールムはバンルアン辺境伯の斬撃を、気色悪いにやけ顔のままかわして見せると、素早く抜刀してその凶悪な形状をした刀を一振りした。


 バンルアン辺境伯の首が、宙を舞った。


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