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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第5章「決戦」

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5-16「失われた光」

5-16「失われた光」


 魔王軍の攻撃が再開されたのは唐突なことだったが、人類側はすぐに応戦を開始した。

 自分たちは魔王軍と戦える、そう自信をつけていた人間たちだったが、決して魔王軍を甘く見たり、油断したりしていたわけでは無いからだ。


 技術者たちによる修復と整備を終えていた投石器やバリスタは、魔物たちが押し寄せてくるのにすぐに対応して反撃を開始したし、人間の兵士たちも、魔物たちが弓や弩の有効射程に入るまでには配置につき終わっていて、射程に入った魔物たちの頭上へと矢の雨を降らせた。


 ウルチモ城塞はまたもや、その強固な防衛力を見せつけた。

 魔物たちは人類側の反撃によって次々と倒れていき、城壁へととりつくことができた魔物たちも、ウルチモ城塞の堅固な城壁を前になすすべがなかった。


 空を飛ぶ魔物たちも大挙して襲いかかってきたが、飛行魔法を使いこなす魔術師を集めて編成されたネメシス隊が再びその威力を発揮し、魔物たちの空からの攻撃をうまく防ぎとめた。


 加えて、ファンシェの鏡の力が人類軍を守っている。

 ファンシェの鏡はその力によって魔物たちの攻撃を跳ね返し、魔法を打ち消し、その聖なる光によって人々を励まし続けている。


 一行が、ウルチモ城塞の内城の城壁上に設けられた指揮所へと駆け戻って来た時、そこにいた人々はみな落ち着き払っていた。

 魔王軍の攻撃再開で一旦は浮足立ったものの、オプスティナド4世が大声で一喝し、すぐに動揺を鎮めてしまったからだ。


 オプスティナド4世は肘かけに右手で頬杖を突きながら、泰然たいぜんとした態度で北方の魔王軍を睨みつけている。

 そんなオプスティナド4世に向かって、ここに人類軍の司令部があることを知っているのか、知らないのか、巨人が大きな石を投げつけてきたが、その石はここまで飛んでくることなく、ファンシェの鏡の力によって空中で砕かれた。


 サムは人前に出るときは魔法の鎖で繋がれたままでいなければならなかったから、身軽な少女たちから少し遅れて指揮所へと到達した。

 鎖をじゃらじゃら鳴らしながらサムが駆け付けると、ちょうど、ティアがオプスティナド4世に恭しく頭を垂れながら、「私共にも、何か、お役目はございませんでしょうか」と申し出ているところだった。


「いいや、勇者殿。ご心配なさるな。貴殿のお力を借りずとも、こたびの攻撃もしのぎ切って見せようぞ」


 ティアたちとしては、また以前の様に「じっとしているのは嫌」という気持ちから協力の申し出を行ったはのだが、オプスティナド4世は自信ありげな笑みを浮かべたまま、その申し出を謝絶した。

 やはり、魔王を倒すために光の神ルクスによって選ばれた「勇者」ということになっているティアは、このまま保護下に置き続けるつもりでいる様子だった。


 実際、一行の出番は、今回もなさそうだった。

 人類軍は善戦しており、以前の攻撃と同じ様に、少ない被害で魔王軍に大きな損害を与え続けている。


(驚いちまったが、今回も、大丈夫そうだな)


 サムは、走ってきたことで荒くなった息を整えながら周囲を見回して、安心していた。

 そこにいた人々の落ち着き払った態度は、人類側の善戦を何よりも物語っている光景だった。


 聖剣マラキアを破壊されてしまったという立場上、一行は内心で、何もせずに戦いを見ているだけなのを辛く思っていたが、しかし、オプスティナド4世の方針に逆らう様な力も、一行がわざわざ出しゃばって行く様な必要もなかった。


 諸侯の中でただ1人、エルフとドワーフの軍勢を受け入れることを主張したものの、拒否されてしまったアルドル3世は、オプスティナド4世の左側に用意された椅子に腰かけながら、じっと戦いの様子を眺めている。

 エルフとドワーフの援軍を追い返してしまったことに不満を持ち続けてはいる様だったが、実際のところ人類軍は魔王軍を防ぎ続けているから、何も言うことがない、そんな感じだった。


 そんなアルドル3世が、唐突に立ち上がった。


「アレは、どういうことだ!? 」


 そして、ある一点を指さした。


 そこは、ウルチモ城塞の城壁の一部だった。

 そして、その城壁には巨人族が投擲とうてきした巨石が直撃し、城壁の一部が破損してしまっていた。


 ウルチモ城塞の城壁は、ファンシェの鏡によって守られている。

 そのはずなのだが、城壁が、その一部とはいえ破損してしまった。

 その光景を見て、少なくない諸侯がアルドル3世の様に驚きをあらわにしている。


「落ち着かれよ、アルドル3世殿」


 アルドル3世を、オプスティナド4世がたしなめる。

 驚いている他の諸侯にも言い聞かせている様な話し方だった。


「偶然であろう。ここ、ウルチモ城塞にはファンシェの鏡がある。我々はその加護の下で戦っているのだ。魔王軍といえど、この守りは打ち崩せはせんよ」


 だが、巨人族が投擲した石は、次々と城壁へと命中し、頑丈に作られた城壁を少しずつ破壊し始めていた。

 それだけではない。魔物たちが放った魔法攻撃が打ち消されることなく城壁を守る兵士たちに襲いかかり、兵士たちがバタバタと倒され始めたのだ。


 まるで、ファンシェの鏡による加護が失われでもしたかのようだった。


「あっ、あれを見ろ! 」


 その時、諸侯の1人が上空を指さした。

 指揮所にいて、北方の戦況を見つめていた人々の背後、ファンシェの鏡が備えられているウルチモ城塞で最も高い尖塔の最上階の方だった。


 つられて見上げた人々の間に、ざわ、ざわ、と動揺が広がっていく。

 サムも人々が見ている方向を見上げると、思わず、たじろいでしまった。


 その、高い、高い、塔の最上階には、常にファンシェの鏡が放つ聖なる光が輝いているはずだった。

 だが、その光が、どこにも見当たらない。


 いったい、何が起こっているのか。

 人々が疑問に思う中、ウルチモ城塞の北の城壁では魔王軍による攻撃が激しさを増し、人類側に被害が続出し始めている様だった。


 とうとう、指揮所のすぐ近くにも、巨人が投擲とうてきした石が着弾した。

 指揮所には直撃しなかったものの、石は内城の内部に落ちて、そこにあった建物と、その中にいた不運な数名の人々を叩き潰してしまった。


 やがて、指揮所に1人の伝令の兵士が駆け込んできた。

 背中に数本の矢が突き刺さった状態の兵士で、血を流しながら必死にここまで走ってきた様だった。


 そして、その兵士の言葉は、その場にいた全員を驚愕きょうがくさせるものだった。


「報告! バンルアン辺境伯が、謀反!ファンシェの鏡を破壊し、現在、魔物と共に尖塔を占拠しております! 」



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