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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第5章「決戦」

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5-13「予期せぬ援軍」

5-13「予期せぬ援軍」


 次の瞬間、サムは全身を貫いた激痛に、悲鳴をあげながらのたうち回っていた。


「さっ、サムさん!? 」


 キアラは即座に呪文の詠唱を止め、ほとんど同時に血相を変えたルナがサムへと駆け寄ってくる。


「お、俺は……、人間に、戻れたのか? 」


 サムは床の上に倒れ伏したまま、心配そうに自分の顔を見ているルナに問いかけた。

 サムの意識があることにルナはほんの少しだけ安心した様な表情を見せたが、すぐに、申し訳なさそうに首を左右に振った。


「ごめんなさい。ダメ、だったみたいです」

「……。そうか」


 サムは、嘆息するしかなかった。

 これで、サムにかけられた魔法の解除に失敗するのは3度目のことだった。


「やっぱり、魂が今の身体に馴染み過ぎているのが問題の様ですね」


 魔法陣の出来栄えに問題がなかったことを確認してからサムの様子を見に来たキアラが、サムに説明する。


「多分、サムさん、相当痛かっただろうと思うのですが、その痛みは、身体が元に戻ろうとする際に、今のオークの身体に馴染んでしまった魂が無理やりその形を変えられることによって生じるものだと思います。魔導書の記述を元に、人間の使う魔法を応用して魔法陣を作ってみたのですが……、うまくいきませんでした。残念です」

「ああ、残念だ。……だけど、続けてくれ」


 サムは先ほど感じた激痛のせいでまだ起き上がることもできなかったが、キアラとルナにそう言った。


「人間に戻れるなら、早く戻らなくちゃ。そして、魔王を倒さなきゃならねぇ」


 今のところ魔王軍はウルチモ城塞への攻撃を停止しているが、すぐに攻撃を再開するだろう。

 現に、今も魔物たちはクラテーラ山から続々と到着し続けており、魔王軍の兵力は増加し続けている。

 いつ、あの激しい攻撃が再開されてもおかしくはなかった。


「そうですね。ですが、少し、休憩しましょう」


 焦るサムを、キアラはたしなめた。


「そんなに無理をしてしまっては、持ちませんよ。ただでさえ、魂と身体に負担のかかることをしているのですから。それに、魔法陣を作り直す必要もありますから、娘と一緒に、休んできてください」

「……。ああ、そうさせてもらうぜ」


 キアラの言うことは正しかった。

 あまり焦り過ぎても、空回りするだけで、何もうまくいくことはない。

 サムはキアラからの提案に同意し、しばらくして動けるようになると、ルナと一緒に地下倉庫から地上へと向かった。


「ごめんなさい、サムさん。うまくできない上に、あんなに痛い思いをさせてしまって」


 地下倉庫から地上へと向かう螺旋階段らせんかいだんをサムに続いて登りながら、ルナはそう言ってサムに謝罪した。

 サムは、心底申し訳なさそうにしているルナに、笑って見せる。


「気にすることはないぜ、お嬢ちゃん。何せ、俺にとっては初めて、人間に戻れるかもしれないチャンスが来たんだからな。20年もオークでやってこなけりゃいけなかったんだ、今更このくらいなんともないし、本当に、ありがたいと思ってるんだぜ」


 それからサムは、「それより」と言って、腹をさする。


「ルナお嬢ちゃんの手料理、たくさん食べさせてくれよ。腹が減っちまったぜ」

「……っ、はい」


 ルナはうつむけていた顔をあげると、少しだけ元気を取り戻して微笑んでくれた。


 実を言うと、サムは空腹など覚えてはいなかったが、ルナが少しでも明るくなってくれるのならそれで良いという気分だった。


 悪いのは、元はと言えば全て、サムをオークに変えたマールムという魔物だった。

 ルナがあまり気に病むようなことではないし、サムとしては、自分の娘であってもおかしくはない様な年頃の少女が、自分のために落ち込んでいるのは少しも嬉しくはなかった。


 2人が地上へと出てくると、そこでは、ちょっとした騒動になっていた。


 魔王軍が攻撃を再開したのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

 兵士たちが口々に、「援軍らしいぞ」「しかし、どこの援軍だ? 」と言いながら、南門がある方へ慌ただしく向かっていくからだ。


 サムとルナはお互いに顔を見合わせ、まずは騒動の原因を確認しようということで意見が一致した。


 ウルチモ城塞の南側の城壁には、魔王軍と対峙している北側と比べて軍勢はあまり配備されてはいなかった。

 警備のために十分な人員がかれ、突然の奇襲を受けても対応できるだけの備えはされていたが、通常であればそれほど多くの人々の姿はないはずだった。


 だが、今はたくさんの人々が集まっている。

 その多くは、南側の城壁を守るために急遽きゅうきょ振り分けられた兵士たちだったが、サムとルナのような野次馬もたくさんいた。


 城壁の上に押しかけた人間たちは、南の方角を見て、指さしたりしながら、ざわざわと騒々しい。

 それは、驚きと、戸惑いと、不安の入り混じったものだった。


 何故なら、新たに表れたという援軍は、人間ではなかったからだ。


 それは、エルフと、ドワーフの軍勢だった。


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