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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第5章「決戦」

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5-4「出番のない一行」

5-4「出番のない一行」


 4人の少女と1頭のおっさんオークから成る一行は、戦いの間中、暇を持て余していた。

 出番が少しもなかったのだ。


 一行がいるのは、ウルチモ城塞の内城、オプスティナド4世が指揮所としている城壁の上だった。

 ティアは「聖剣を失ってしまった責任を取る」として、最前線で魔物と戦う場所へ配置されることを望んだのだが、「光の神ルクスに選ばれし勇者殿は聖剣がなくとも人類の切り札なのだから」と、オプスティナド4世によってその近くに置かれてしまったのだ。


 サムが、実はオークに変えられてしまった本物の勇者であるということは、まだ一行以外には打ち明けられていない。

 もしそれを打ち明けてしまえば、人々は勇者という希望を失って戦えなくなってしまうし、ティアたちは「勇者をかたった罪」によって、重罪に処せられてしまうからだ。

 公的にはティアが勇者であるということになったままで、ティアたちはオプスティナド4世の意向を無下に断ることもできなかった。


 一行はこの戦場では「お客様」だった。

 何もさせてもらえず、一行はただ、戦いの成り行きを見ていることしかできないし、させてもらえない。

 守られているのだ。


 もちろん、これにはオプスティナド4世なりの考えがある。

 勇者というのは人間が魔物に立ち向かい、その最大の脅威である魔王を倒すために光の神ルクスがその力を分け与えた存在で、人類にとっての希望だった。

 例え聖剣が失われていようとも、他に頼るべきものはない。


 その勇者をいたずらに戦線に投入して、もしものことがあったらたまったものではないというのが、一行が何もさせてもらえない理由だった。

 勇者には光の神ルクスの加護があり、命を失うようなことがあったとしても、光の神ルクスを祭った祭壇にて必ず復活するという力が授けられてはいるものの、復活には時間もかかるし、「勇者が倒れた」という事実は魔物たちと戦っている兵士たちに大きく影響してしまう。


 そういう点からオプスティナド4世はティアたちをなるべく安全な場所に留めている。


 それは、なかなか恐ろしい経験だった。

 オプスティナド4世はティアが勇者であると思っているからこういう待遇をしているが、もし、ティアが本物の勇者ではないと知ったら、場合によってはその場でティアたちは切られてしまうだろう。


 サムが本物の勇者であることは一行だけしか知りえない情報だったからバレる心配はしなくていいはずだったが、自分たちのしでかしてしまったことの重大さと合わせて、一行は針の山の上に座っている様な気分だった。


 こういうわけで一行は、魔王軍の猛攻撃に応戦する人類軍の戦いぶりを眺めていることしかできなかった。

 ティアだけでなく、他の仲間たちも「勇者殿を引き続き守られたし」とオプスティナド4世から要請され、どこにも行くことができなかったからだ。


 もちろん、公的には「奴隷」であるままの魔物、サムも、自由に動くことはできない。

 サムは手枷、足枷を身に着け、バンルアン辺境伯が用意した魔法の鎖でつながれたまま、突っ立っていることしかできなかった。


 ただ、4人の少女たちと離れ離れにされず、同じ場所にいることを許されたのは幸運なことだった。

 バンルアン辺境伯は警戒心を隠していないが、オプスティナド4世は剛毅な性格でティアたちの我がままを許してくれた。

 オプスティナド4世は、魔物をそれほど恐れてはいない様だった。


 もっともこれは、ティアが勇者であると思っているからこその特別扱いだろう。

 一行にとっては嬉しいことであるのと同時に、申し訳ない気持ちになることだった。


 「戦上手」という評判通り、オプスティナド4世の指揮は的確なものだった。

 間近でその指揮の様子を見ていたサムには戦争のことなどまるで分からなかったが、オプスティナド4世は堂々とした態度で戦いの最中も落ち着いていて、判断に迷いがなかった。

 事前の部隊編成も巧みだったし、指揮下にある兵力を戦線に投入する判断も素早く、そのタイミングも素晴らしかった。


 人類軍はオプスティナド4世の指揮下で勇敢に戦い、受けた損害よりも遥かに多くの打撃を魔物たちへと与えていた。

 そして、ウルチモ城塞はファンシェの鏡によって守られ、その城壁は鉄壁の堅牢さを保っている。


 状況が優勢なだけに、人類軍の動きは活発だった。

 破壊されてしまった兵器類の修繕や更新の作業が早くも始まり、死者、負傷者の後送と、城壁の守備兵力の補充も開始されている。


 一行はもちろん人類軍が勝ったことに安心していたが、同時に、「自分たちはここで見ているだけなのか」と、もどかしい気持ちでいっぱいだった。

 これだけ大きな軍勢に膨れ上がった人類軍の戦列に、聖剣を持たない一行が加わったところで大した足しにはならなかったが、それでも、こうなった責任は自分たちにあるというのに、何もできないというのは悔しいことだった。


 ぱっとしない表情でいる一行と比べて、オプスティナド4世をはじめ、人類軍の指揮所にいる人たちの表情は明るいものだった。


 オプスティナド4世は各部隊から現状と戦果を報告する伝令を迎え、その報告を聞き、そして新たな指示を出しながら、上機嫌に笑っている。

 指揮所には大国の王にふさわしい、豪華な椅子が用意されていて、オプスティナド4世はその椅子に悠々と腰掛け、報告を聞いたり指示を出したりする合間に、勝利を祝う葡萄酒ぶどうしゅを口に運び、チーズや果物などをつまんでいる。


 長年の宿敵であったはずの隣国、バノルゴス王国の国王ディロス6世とも、オプスティナド4世は上機嫌で談笑している。

 ディロス6世もオプスティナド4世の武勇と指揮を称賛し、助言役としてそばにひかえているバンルアン辺境伯も、険しかった表情をほころばせている。


 人類側の守りは、鉄壁だった。

 諸王国に暮らすどんな人々も見たことがないような軍勢がウルチモ城塞に集結しており、しかも、人々は仇敵同士であっても今はそのことを忘れ、協力し合っている。


 それは、何とも頼もしく、希望に満ちた光景だった。


 それでも、一行の気分は少しも晴れやかではなかった。


 ここで魔王軍の進撃を食い止めることができても、結局、聖剣がなければ魔王を倒すことはできず、そして、聖剣があったとしても、勇者がオークに姿を変えられてしまっている状態ではどうしようもないのだ。

 もし、このまま魔王を倒す手段が見つけられなければ、人類軍はこのウルチモ城塞で延々と戦い続けなければならないことになってしまう。


 何よりも、そういう事態を招いてしまったのは、自分たち自身なのだ。


 この状況を、何とかしたい。

 しかし、一行には何も思いつかないし、何もできない、させてもらえない。

 勝利に酔いしれる人々と違って、一行には焦燥感がつのるばかりだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] うわー オプスティナドフォース、暗殺されそうです…
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