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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第4章「復活の時」

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4-19「山が開く」

4-19「山が開く」


 一行は、リーンの言葉にすぐには反応することができなかった。

 突然地面が揺れ出したことで、転ばないように何かに捕まるので必死だったからだ。


 長い揺れだった。

 その揺れの長さだけでも、普通の地震などではないと分かる。


 やがて、ようやく揺れが収まると、一行はリーンが指し示した先を見ることができた。

 そして、驚愕きょうがくした。


「やっ、山が、なくなってるぅっ!? 」


 ティアは胸壁から身を乗り出すようにして叫び、ラーミナは表情を険しくし、ルナは両手で口をおおって、サムは呆然と口を半開きにしたまま立ち尽くした。

 リーンだけは、いつも通りのジト目で、目の前で起こった異変を見つめている。


 一行の視線の先には、ウルチモ城塞から北へと続く谷筋と、その向こう、魔王城があるクラテーラ山と人間の世界とを隔てる峻険しゅんけんな雪山があるはずだった。


 その雪山が、なくなっていた。

 正確には、真っ二つに分かれて、左右に「開いて」いた。

 元々あった谷筋を通して、遥か彼方に、本来であれば見えないはずのクラテーラ山が見えている。


 一行は数日前に、必死の思いで雪山を踏破とうはしてきたのだ。

 そこには間違いなく険しい雪山が連なっていたし、実際、サムとルナはそこで雪崩なだれに巻き込まれるという経験もしている。


 人間の世界と、魔王が封印されていたクラテーラ山を隔てるようにそびえていた山々。

 その山々が切り開かれ、そこに、道ができていた。


 異変に気がついた兵士たちが一行と同様に胸壁へととりつき、騒ぎ始める。

 やがて、その騒ぎを聞きつけて、オプスティナド4世、ディロス6世、バンルアン辺境伯などの諸侯も続々と城壁の上へと駆けつけた。


 人間たちが見つめている目の前で、クラテーラ山のふもと、魔王城がある場所で、無数の不気味な影がうごめきだした。


 見張りのために用意された、何枚もレンズを通して遥か遠くまで見通すことのできる特別製の望遠鏡をのぞいていた兵士が叫ぶ。


「報告! 魔王軍です! 」


 その言葉を聞いたオプスティナド4世がその兵士を追い払って望遠鏡をのぞき、クラテーラ山の方向を確認した。

 たちまちオプスティナド4世の表情は険しいものとなり、次いで、オプスティナド4世と交代したバンルアン辺境伯も望遠鏡を借り受けてその光景を確かめると、深刻そうな青ざめた表情になった。


 望遠鏡を通して見えたのは、無数の魔物たちが、雑多に隊伍を組み、集結していた魔王城からこちらへ向かって進んでくる姿だ。

 とうとう、魔王軍が動き出したのだ。


「ただちに伝令を出せ! 偵察に派遣していた各隊は順次後退、前線の監視拠点も準備でき次第、撤収させよ! 」


 魔王軍が進撃を開始したという事実を理解したオプスティナド4世は、ただちに側近にそう命じて、伝令を走らせた。


 ウルチモ城塞から北にはいくつも監視拠点が存在していたが、それらを、目の前でうごめく魔物の大群から守り切ることは不可能だった。

 監視拠点には相応の防御力があったが、数が違い過ぎる。あの魔物の大群と接触すれば、一瞬で押しつぶされてしまうだろう。


 オプスティナド4世は、ウルチモ城塞に全ての兵力を集め、ここで決戦を戦うつもりの様だ。


 もはや、ウルチモ城塞より北に兵士を配置して偵察を行う必要もなくなっていた。

 魔王城とウルチモ城塞との間に天然の壁となってそびえていた山々が開き、ウルチモ城塞の城壁の上からでも魔王軍の様子が視認できるようになってしまったからだ。


 ウルチモ城塞に集まった多くの軍勢の姿を見て、「勝てるのではないか」と楽観的な気分になっていたのは、ティアだけではなかった。

 リーンのことは分からないが、ラーミナもルナも、サムだって、今までに見たことのないような大軍を見て、そう思っていた。


 ウルチモ城塞に集まった諸侯、その指揮下にある兵士たち、そして出入りの商人たちだって、そう思い始めていた。

 長い歴史の中で諸王国では幾度も、数えきれないくらい人間同士の戦争が戦われてきたが、そのどの戦いでも、これほど多くの軍勢が1つの目的のために集まったことはないのだ。


 日頃の対立を一時、水に流し、人類が一致団結して戦う。

 その姿が、人々には勝算として見えていた。


 しかし、目の前で進軍を開始した魔王軍の姿を前にして、その楽観的な機運は雲散霧消うんさんむしょうしてしまった。


 動くことなど到底、想像することさえできなかった山が2つに切り開かれ、突如として、魔王軍がウルチモ城塞へと攻め寄せてくる道が出来上がってしまったというだけではない。

 進軍してくる魔王軍の規模は、ウルチモ城塞に集まった人間の軍隊よりも大きい様だった。


 まだクラテーラ山のふもとを出発したばかりの魔物たちの姿は小さく、特別製の望遠鏡を使用して辛うじて見えるという程度のものでしかなかったが、大地を埋め尽くすような数だというのだけは誰の目にも分かるほどだった。

 この世界のどこに、これだけの魔物がいたのかと、そう思わざるを得ないような光景だ。


 その種類も多種多様で、サムと同じオークもいれば、ゴブリンの集団も、リザードマンの軍隊もある。

 一際目立つ巨人族の集団も隊列を組んで進んでおり、そして、その上空には、翼をもった魔物たちの不気味な影が雲霞うんかのごとく飛び回っている。


 あれほどの軍勢を前にしては、ウルチモ城塞に集まった人類軍の全力をもってしても勝てるかどうか分からない。

 まして、あの魔物の大群の背後には、復活を遂げた魔王、ヴェルドゴが控えているのだ。


「総員、籠城準備、急げぇ! 」


 呆然としていた人々は、オプスティナド4世の他を圧する声で我に返った。

 次々に諸侯から配下たちへ指示が発せられ、ついさっきまでは和やかな雰囲気さえあったウルチモ城塞は再び、慌ただしくなった。


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