4-8「復活」
4-8「復活」
一行が帰り道に迷うことは無かった。
ここまで来た道をそのまま引き返せばいいだけだから、簡単だ。
それに、魔王城の中では魔物とも遭遇しなかった。
魔王城の中には魔物が残っていなかったからだ。
それは少女たちがここまで来る間に多くの魔物たちを撃破してきたおかげかもしれなかったが、もしかすると、マールムが命じてそうさせたのかもしれなかった。
不気味な状況だったが、一行にとっては幸いなことだった。
マールムとの戦いで多くの回復アイテムを使用してしまっていて残りが不安になってきていたし、今はルナが本調子ではないため、何のバフも得られないし、正確な治療も行うことができない状態だったからだ。
ティアも、ラーミナも、ルナも、リーンも、確かな実力を持った冒険者たちだった。
彼女たちは20年前、光の神ルクスからの予言を受け、勇者を探し出すために人間たちが選りすぐり、聖剣マラキアを預けて旅立たせた冒険者たちの子供と魔法実験によって生み出された合成人間であり、優れた才能を持っている。
まだ経験が浅い部分はあるものの、その力は間違いなく強力なもので、少なくとも魔王城の最深部まではたどり着けるだけの実力があった。
だが、その実力は、魔法の力に頼っている部分が大きかった。
中でも、ルナがかけるバフの魔法の力が大きかった。
ルナがかける強力なバフの呪文があったからこそ、ティアとラーミナの剣はオークを紙の様に切り裂くことができたし、魔物たちの攻撃を防ぐことができたのだ。
そのルナが、戦いで受けたショックによって本調子でないことは、パーティ全体の戦闘力を著しく低下させてしまっている。
もし、もう一度魔王の親衛隊の強力な敵たちと戦わなければならなくなっていたら、無事に魔王城から脱出することなどできなかっただろう。
だが、その幸運もあまり長続きはしなかった。
魔王城を抜け出すまではそれほど戦わずに済んでいたのだが、魔王城の外には、数えきれないほどの魔物たちが待ち構えていたのだ。
少女たちは退路を切り開くために戦わなければならず、サムもそこに加わった。
少女たちにとってサムは便利な奴隷に過ぎないはずだったのに、いつの間にかサムは貴重な戦力となっていた。
これまでは「奴隷だから」という理由で自由を拘束されていたサムだったが、その正体と複雑な事情が明らかになると、少女たちがサムを拘束しておく理由も失われた。
それに、協力しなければ、この場から逃げ出すこともできない。
幼馴染だという少女たちの連携の輪にサムが加わることは難しかったが、それでも、単純に力があって頑丈なオークの奴隷は十分な戦力になった。
それに、魔王城の外で待ち構えていた魔物たちは、魔王城の中で戦った親衛隊たちと比べると、それほど手強くはなかった。
魔王城の中で守りについていた魔物たちは親衛隊として選ばれた精鋭たちだったが、魔王城の外にいる魔物たちにはさほど実力のない下級の魔物たちが多く含まれていたからだ。
それでも、数が多かった。
ただでさえ消耗していた4人と1頭は、次々と襲いかかってくる魔物たちの攻撃をかいくぐりながら、逃げる様に駆け続けなければならなかった。
オークは短足の生き物で、走るのはあまり得意ではなかった。
だが、魔物たちの攻撃は同じ魔物であるはずのサム対しても容赦のないもので、サムは魔法の影響でまともに走ることの難しいルナを背負ったまま、飛びかかってくる魔物を蹴散らし、丸太の様な太い腕で薙ぎ払いながら、必死になってティアたちを追って走り続けた。
だが、突然、魔物たちが襲ってこなくなった。
魔王城の周辺に集まっていた魔物の数は数えきれないほどで、一行は駆け抜けながら相当な数の魔物を倒したはずだったが、それでもまだ周囲には雲霞のごとく魔物たちの群れがいたはずだ。
それなのに、魔物たちは攻撃してこなくなった。
「今がチャンス! 急ぎましょう! 」
それがどうしてなのか一行には分からなかったが、ティアが言う通り、逃げ出すチャンスではあった。
ティア、ラーミナ、リーンは走る速度を速め、サムはルナを背負ったまま、必死になってその後を追いかける。
サムのオークの心臓が激しく脈打ち、サムのオークの肺が絶え間なく伸縮をくり返したが、それでもまるで足りなかった。
サムは苦しそうに喘ぎ、大きく口を開き、汚い涎をまき散らしながら、とにかく無我夢中で走り続ける。
サムはオークだが、本当は光の神ルクスによって選ばれた勇者だ。
ただの奴隷であったころであればティアたちはサムなど簡単に見捨てていっただろうが、今はもう、彼女たちにそうする選択肢はない。
サムが必死になって走り続けなければ、少女たちはこの場から逃げることができない。だからサムは必死になって走り続けるしかなかった。
それに、サムは今、ルナを背負っている。
ルナは今もリーンの魔法の支配下にあり、激しく続いていた戦いの時も、激しく上下に揺さぶられながらオークの背中に乗って駆け抜けていく今も、虚ろな視線でぼんやりとしたままでいる。
とてもまともに動けるような状況ではなく、そして、そんなルナを背負ったまま走ることができるのは、華奢な少女には無理なことだ。
サムは、心臓が爆発しそうになっても、空気が全く足りなくて頭が真っ白になりかけても、一心不乱に走り続けた。
やがて一行は、魔王城に向かう前に雪山を踏破するための装備を埋めたところまで戻ってきた。
魔物たちの追撃は心配だったが、この雪山装備がなければどの道、凍えて死んでしまう。
「早く! みんなで掘りましょう! 」
一行はティアの号令で急いで雪山装備を掘り起こしにかかった。
だが、すぐにその手が止まる。
突如として大地が震え、背後から巨大な地響きが轟いてきたからだ。
一行が背後を振り返ると、そこでは、クラテーラ山の火口が真っ赤に燃えていた。
火口の奥深くから灼熱のマグマが吹き上がり、噴火しているのだ。
空をより一層濃くなった噴煙が覆い隠し、紫色の稲妻が荒れ狂った。
クラテーラ山の火口からは真っ赤なマグマがあふれ出し、噴火と共に飛び散った軽石などがパラパラと降り注ぐ。
オークとなったことで魔法など使えなくなってしまっているサムでも、感じ取ることができた。
クラテーラ山が噴火したその瞬間、強大な、邪悪な気配のする魔力がこの世界に解き放たれ、一気に広がっていった。
「魔王が……、復活した」
ティアはそう呟くと、自身の拳を白くなるほど握りしめた。
※作者より一言
本話のサムが走っているところの描写ですが、まんま、熊吉の今の状態です。
カクヨム様のコンテストの読者投票が2月7日までなので、それまでは頑張って走り続けます(その後はペースを落とします)。
もしよろしければ、高評価等いただけますと幸いです。




