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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第4章「復活の時」

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4-5「蘇生」

4-5「蘇生」


「それで、リーン! 誰から、誰から蘇生すればいいんだ!? 」


 リーンに走って追いついたサムは、息を整えないままそうたずねていた。

 サムには、人間を治療する知識はほとんどない。

 とにかく、今はリーンだけが頼りだった。


「ティア、死んでる。ラーミナ、まだ死にきってない。ルナ、死んでる」


 裸足のまま、ペタ、ペタ、と進んでいたリーンは、慌てた様子のサムとは対照的に冷静で淡々とした口調でそう呟いた。

 そして、すぐに結論を導き出す。


「まずは、ルナ、助ける」

「あ、ああ! 分かった! 」


 サムは頷き、リーンと共にルナのところへと向かった。


「で、で!? どうすればいい!?」


 ルナの近くまでやってくると、サムは荷袋の中から薬瓶や治療道具を取り出して広げ、無表情のままたたずんでいるリーンに急き立てる様に問うた。


 リーンはサムの言葉に答えず、まず、しゃがみこんで、ルナの恐怖にひきつったままの表情を整えて少しでも穏やかなものとして、それから、マールムによって無造作に放っておかれたままの乱れた姿勢だったルナの身体を、仰向けに眠っているような状態へと整える。

 それから、選んで持ってきた薬瓶のフタを開け、その中身を無造作にドボドボとルナの身体へと振りかけた。


 それを見たサムは、慌ててしまう。

 ルナが蘇生薬を使っているところを見たことがあるが、それと比べるとリーンのやり方はあまりにも粗雑だった。

 こういうことをするのに慣れていない様子だ。


「お、おいっ、そんなやり方でいいのか!? 」

「……多分」


 リーンは、次の薬瓶を取り出してフタを開けながらそう答えた。

 相変わらずの口調だったが、どうやら、自信は無い様な感じだった。


「だから、ルナを蘇生させる。回復魔法、蘇生魔法、薬の使い方、ルナが一番詳しい」


 サムは心配と不安でいっぱいだったが、かといって、自分も蘇生には詳しくないから、それ以上は何も言わず、リーンのやることをひたすら手伝うことにした。


 2本目の薬瓶をルナの身体へと振りかけ、それから、それまでの2本とは少し色の違う薬瓶を開けると、リーンはその中身をルナの口の中へと流し込む。


 ようやく、効果があった。

 ルナの指先がピクリと動き、マールムによって砕かれてしまった頸椎けいついが修復されて、その傷が癒えていく。


 その数秒後、ルナは悲鳴と共に起き上がった。


「お、落ち着け、お嬢ちゃん! もう大丈夫だ、大丈夫だから! 」


 悲鳴をあげながら半狂乱となって暴れるルナをサムは何とかなだめようとするが、うまくいかない。

 ルナにとっての最期の記憶は、恐怖以外の何物でもなかった。だから、彼女がパニック状態になるのも仕方のないことだったし、さして親しい関係でもないサムではそれをなだめることは難しかった。


「サム、ルナを抑えて。そっと」


 リーンは戸惑っているサムにそう指示し、サムが言われた通りに、ルナの身体をなるべく傷つけないように、ルナから叩かれたり蹴られたりしながら押さえつけるのを確認すると、そっとルナの耳元に顔を寄せて何かの呪文を唱えた。


 その瞬間、突然、ルナは暴れるのを止めた。

 その双眸は焦点を失い、まるで催眠術か何かにかかって、操られてしまっている様だった。


「ルナ。落ち着いて。ティアとラーミナを助ける、分かる? 」

「はい……。分かり、ました……」


 ルナは焦点を定まらない視線のまま頷くと、のそりと立ち上がって、「お薬、持ってきてください……」とサムに指示をし、ラーミナが倒れている方へと向かって歩き始めた。

 そのふらふらとした足取りは、とても本人の意思で歩いている様には見えない。


「な、なにをしたんだ、リーン」


 サムは薬瓶をまた荷袋の中にしまいながら、心配になってリーンにそうたずねていた。


「魔法を使った」


 サムの作業を手伝いながら、リーンは少し小さな声で答える。


「感情を支配し、行動を操れる魔術。……禁止されている魔法。悪い魔法。友達には使いたくなかった」

「……。そうか」


 サムは頷くと、薬瓶の入った荷袋を持って立ち上がった。

 感情がほとんど感じられない、そう思っていたリーンだったが、サムはこの時初めてその素直な感情を知ることができた様な気がしていた。


 リーンから魔術をかけられたルナは、自分自身が死から蘇生されたばかりだというのにも関わらず、他の2人の少女の治療を続けた。


 魔術によって思考を制限され、誘導されてはいるものの、治療についての知識は問題なく発揮され、ルナは治療の魔法を使いながら、的確にどの薬をどんな方法でどれくらいの量を使えばいいのかをサムとリーンに指示していった。


 ラーミナはまだ息があったこともあって、順調に回復していった。

 何とかラーミナが意識を取り戻すところまで至ると、ルナとリーン、サムの2人と1頭はラーミナに楽な姿勢をとらせ毛布を被せ、ティアの蘇生へと向かった。


 ティアはすでに息絶えていた。

 大量の出血もあって、すでにその身体は冷たくなっていた。


 それでも、ルナの処置は的確なもので、少し時間はかかったものの、ティアも息を吹き返した。

 肺に血液が入り込んでおり、それを吐き出させるのに注意が必要だったが、すぐに治療の効果が表れて、徐々にティアは体温を取り戻していった。


 サムは、今度もまた、その場に腰を抜かしてへたり込んでしまった。

 今度は恐怖からではなく、安堵からだった。


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