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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第3章「クラテーラ山」

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3-18「奴隷オーク」

3-18「奴隷オーク」


「ぉおっとぉ? 力加減、ミスっちまったかなぁ? 」


 ルナが動かなくなったことに気がつき、マールムは残念そうだった。


「もっと、もぉっと、いい顔が見られると思ったのによォ」


 マールムはそう言うと、ルナの身体を床の上に無造作に落とした。

 頸椎けいついを砕かれたルナは人形の様に床の上に転がる。

 その双眸にたたえられた、まだ体温の残っている涙が、ルナの頬を伝って冷たい石の床の上に流れ落ちた。


「いや、待てよ? 」


 突然何かを思いついたらしいマールムは、気味の悪い声で笑う。


「ヒャハ! 確か、下等な魔物どもの中に、石化の魔法が使えたやつがいたよなぁ? そいつに石化魔法かけさせれば、このお嬢ちゃんのこの顔をずぅっと楽しめる! ひは、ヒヒヒヒヒ! 食卓に飾って毎日眺めるぞ! 我輩、やはり天才か! 」


 気色の悪い声で笑い続けるマールムを、戦いの間中、少しも動くことのできなかったサムは、強い後悔にさいなまれながら眺めていた。


 少女たちは、強敵を相手に勇敢に戦った。

 そうして、自分の娘であってもおかしくない様な年頃の少女たちが、死んでいった。

 それなのに、サムは、1歩も動くことができなかった。


 それは、脳裏に刻み込まれた過去の記憶が、サムの頭の中に鮮明に蘇ったせいだった。


 サムは、マールムのことを知っていた。

 そして、その記憶は、炎と、破壊と、殺戮と共にある。

 いくつもの悲鳴が折り重なり、反響してサムの頭の中に響き渡り、その声が、光景が、サムの身体をすくませた。


 サムは、恐ろしかった。

 怖くて、動けなかったのだ。


 だが、サムは、そんな自分のことを後悔し、嫌悪していた。

 自分が戦いに加わったところで、マールムに勝てるはずなどなかった。

 それは、頭では理解している。


 それでも、自分は、少女たちとともに戦うべきだった。

 そういう強い思いが、徐々に湧き上がって、サムの身体の震えを止めた。


「んんぅ? なんだぁ、お前はア? 」


 やがて、サムの存在に気がついたマールムはそう言って首を傾げた。


「お前、確か、この哀れな人間どもに、奴隷として飼われていたオークだったなぁ? 偵察に出した魔物どもからの報告にあったぞ。どういう経緯でそんなことになったかまでは知らんしどーでもいいが、この通り、お前のご主人様たちは全滅だ」


 マールムはサムにほとんど興味を持っていないようで、そう言いながら床に突き刺していた刀を拾い上げ、血のりを払ってさやの中へとしまう。

 サムの方には、全く意識を向けていない。


「外の魔物たちと合流し、戦いに備えるがいい。……人間どもが20年間も勇者を探し出せなかったおかげで、魔王様は十分に力を取り戻された。もう、間もなく復活なさる。おまけに、聖剣もこちらの手に渡り、人間どもの切り札は失われたのだ。魔王様が復活なされば、忙しくなるぞォ? この世界から1人残らず、光の神ルクスの眷属を根絶やしとするのだからな! 」


 それから、マールムは機嫌よさそうに笑うと、ティアから奪った聖剣「マラキア」が転がっているはずの方向へと視線を向けた。


 マールムはそこにある光景を見ると、心底怪訝そうに、何もかも理解できない、あり得ないという風な表情を浮かべる。

 そこには、聖剣マラキアに手を伸ばすサムの姿があったからだ。


「貴様、オークの分際で、何をしようとしている? 」


 それは、暗に「殺すぞ」という意味を含んだ言葉だった。


 サムは、恐怖で額に汗を浮かべ、身体を震わせながら、しかし、それでも聖剣マラキアをその手に取った。

 そして、そのつかに手をかける。


「なん……、だと? 」


 そして、マールムの表情が、驚愕きょうがくで引きつった。


 ティアが、何度も引き抜こうとして、抜くことのできなかった聖剣。

 それが、サムの手で、いとも簡単に引き抜かれたからだ。


 さやから抜き放たれた聖剣マラキアは、その刀身に聖なる光を宿し、青白く輝いた。

 その刀身には曇り一つ、傷一つなく、研ぎ澄まされた刃は怜悧れいりな美しさをたたえている。


 サムはその場にさやを落とすと、聖剣マラキアを右手で構えた。

 人間のために作られた武器だから、オークであるサムの手にマラキアは馴染まない。

 それでも、聖剣は真の持ち主の手に渡ったことを喜ぶように、輝いている。


「お前は、忘れているだろうが! 」


 サムは、切っ先の向こうにマールムを睨みつけながら、野太いオークの声で叫んだ。


「20年前! お前は俺の故郷を破壊し、みんなを殺した! ……そして今、俺の仲間を殺した! だから! 俺は、ここで! お前を殺す! 」

「20年前、だとぅ? 」


 サムの言葉に、マールムはいぶかしむ様な顔をする。

 自身の記憶を手繰り寄せ、何とか当時のことを思い出そうとしているようだ。


 そして、マールムは、耳障りな甲高い声で爆笑した。


「きゃは、ギャハハハハハ! ギャーッはッはははは! こいつは、ケッサクだ! これ以上ないケッサクだ! ハハッ! うひひっ、ィーひっヒッヒヒヒヒヒ! 」


 マールムは腹を抱えて笑い、わらった。

 サムは、そんなマールムを、恐怖と、殺意の入り混じった視線で睨みつけている。


 必死に、呼吸を繰り返す。

 恐怖を乗り越え、戦う勇気を呼び起こそうと、サムは自分を鼓舞している。


 そんなサムを、マールムは嘲笑ちょうしょうする。


「思い出した! 思い出したぜぇ、オーク! お前が、お前こそが光の神ルクスによって選ばれし者ォ! 20年前、光の神ルクスが予言した救世主! ……そして、我輩によってオークに姿を変えられた、哀れな哀れな、勇者様だぜぇ! 」


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