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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第3章「クラテーラ山」

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3-8「魔王城」

3-8「魔王城」


 クラテーラ山の火口はその内部に灼熱の溶岩を満々とたたえ、そして、途切れることなく真っ黒な噴煙を吹き出し続けている。

 それはまるで、光の神ルクスの加護であるとされている太陽の光を遮ろうとするかのようだ。


 暗黒の空には紫色の稲妻が走り、火口の周囲は噴煙が溶岩の明かりに照らし出されて、赤く染まっている。

 クラテーラ山の黒い岩山の裂け目からは、フシュー、フシューと、有毒のガスが噴き出し、何人も近づくことができないように、火口を守ろうとしている様にも思える。


 それでも、一行は前に進むことをやめなかった。

 もし、ここで怖気づいて引き返すようであったら、そもそも深い雪と氷に閉ざされた険しい山脈の中を、長い時間をかけて踏破してきたりしない。


 一行がこれまでに乗り越えてきた困難は、厳しい環境だけではなかった。

 雪の中で手ごわい魔物と何度も戦い、時には傷を負いながらの旅路だった。


 これまでの旅路も困難なものだった。

 そして、これから先に進むべき道にも、大きな困難が待ち受けている。


 一行は、クラテーラ山の溶岩の熱で雪が溶けている場所と、雪が残っている場所の境目でキャンプを張ると、ここから先にさらに進むための準備を整えた。


 今までの旅路で摩耗し、劣化している装備品を新しいものへと取り換え、それから、火山から漏れ出してくる有毒なガスを防ぐためのマスクを身に着け、必要になるフィルターの数や状態を入念に確認した。

 魔物、オークであるサムにとっては多少の有毒ガスは問題にもならないが、清浄な空気でなければ呼吸することのできない少女たちにとっては、ガスマスクと、空気を浄化するためのフィルターが命綱だった。


 そして、極寒の雪山を踏破するのに必要だった装備一式をまとめて土の中に埋めて、できるだけ身軽になる。


 雪山用の装備を埋めるのは、一行が魔王を倒し、無事に帰還しようと戻ってくるまでの間に、他の魔物たちや野生動物たちによって代えのきかない装備一式を荒らされないようにするためだ。


 これから一行が戦うことになる魔王との戦いで、全員が生きて帰れるという保証はない。

 それでも、一行は帰り道に必要になる雪山装備を丁寧に土の中に埋めて隠した。


 全員が無事で帰れるように。

 そういう、一種の願掛がんかけのようなものだった。


 やがて、全ての準備が整えられ、一行はキャンプの後始末をして、その行く手にそびえたつ巨大な城塞を見つめていた。


 今が朝なのか、昼なのか、夕方なのか、夜なのか。

 クラテーラ山の火口からの噴煙で常に薄暗いこの場所からでは正確な時間は分からないが、いよいよ、少女たちがその旅路の終着点に挑む時が訪れようとしている。


 少女たちがこれから挑む城塞は、暗黒神テネブラエの眷属、魔物たちが、クラテーラ山の火口の奥深く、死者の世界と通じる門を守るために築き上げたとされているもので、その城主の名前をとって「魔王城」と呼ばれている。

 暗黒神の眷属たちがこの世界を攻撃し、侵略するための拠点として使っていた場所だ。


 巨人族によって築かれたとされる魔王城の城壁は高く厚く、魔王が健在の間は魔法の力によって強固に守られており、魔王が封印される前は難攻不落を誇ったのだという。

 だが、時の勇者が聖剣マラキアの力を用いて魔王を打倒し、クラテーラ山の火口に封印すると、魔王城はその魔法の力を失い、また、そこを守っていた魔物たちも統率を失って混乱し、人間をはじめとする光の神ルクスの眷属となる種族たちの軍勢によって陥落することとなった。


 魔王は不滅の存在であり、時が経ち、その力を取り戻せば復活してしまう。

 だが、神々の大戦以降の歴史で、魔王が実際に復活したことはまだない。

 なぜなら、魔王の復活が近づくたび、光の神ルクスは自身の力を1人の人間へと分け与え、選ばれし者、勇者として、聖剣マラキアを用いて魔王が力を取り戻す前に倒せるように導いているからだ。


 魔王が復活することがなかった以上、魔王城は、太古の時代に陥落した時の姿そのまま、荒れ果てた廃墟としてそこにある。


 だが、その堅固な作りからくる重厚さ、威圧感は衰えることなく、闇の中にそびえたつその姿は不気味で、恐ろしかった。


 それに、魔王城は巨大だった。

 一行がいるところからはまだかなりの距離があるはずだったが、魔王城の存在はすぐ近くにある様に思えてしまう。


 クラテーラ山の周辺には有毒なガスがあちこちに噴き出しており、植物の類がわずかしかなく、かつて暗黒神の軍勢と光の神の軍勢が戦ったために焦土と化した大地には、魔王城以外には何の構造物もない。

 何の比較対象もないために、魔王城の巨大さがなおさら強調されている。


 ティアが望遠鏡を取り出して魔王城の方を確認すると、その周囲には、不気味な黒い影がいくつもうごめいていた。

 魔王城の周辺にたむろする、魔物たちの姿だ。


 魔王が封印された時に魔王城は陥落し、暗黒神の統べる死者の世界と通じる扉も閉じてしまってはいたが、それでも、魔王城は魔物たちにとって特別な場所である様だった。


 魔物たちの中には、魔王の復活と、再び死者の世界とつながる扉が開かれるように祈りをささげる者たちもいる。

 彼らは奇妙な仕草で奇声を上げながら、魔王城へ向かって必死に祈りをささげている。


「なぁ、お嬢ちゃんたち。本当に、あそこに行くのかい? 」


 サムは、自分の奴隷という立場も忘れて、思わず少女たちにそう尋ねていた。

 ウルチモ城塞からここまでの旅路でも手ごわい魔物たちと何度も戦うことになったが、魔王城の周辺にはもっともっと、たくさんの魔物がうごめいている。


 そんなところに突っ込んでいけば、いくら4人の冒険者たちが強かろうと、苦戦することは明らかだった。


 ティアは、すぐには返事をしなかった。

 サムの質問を無視したわけではなく、さすがの彼女も、魔王城の周辺に集まっている魔物の群れを前にしては、覚悟を決めるのに時間が必要だったからだ。


「もちろん、行くわ」


 やがて、ティアはそう言って覚悟を示した。


「そのためにずっと旅をしてきたんだもの。それに、早く魔王を倒して封印をし直さないと、あの魔物たちが軍勢になってなだれ込んでくる。そんなことは、絶対にさせないわ」


 その言葉に、ラーミナとルナが頷いて同意する。

 リーンは無反応だったが、しかし、ティアの言葉に異論も無い様だった。


 少女たちの決意は、固い様だった。

 それでもサムは、少女たちに警告する。

 とてもうまくいくとは思えなかったからだ。


「でもよ、あれだけの魔物、どうするんだよ? 俺はこの通り奴隷だし、戦力としては数えられないだろ? お嬢ちゃんたちだけでなんとかなるのかい? 」

「フン。大丈夫よ。……ちゃんと、考えてあるんだから」


 本気で心配しているサムに向かって、ティアはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。


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