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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第3章「クラテーラ山」

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3-2「人間の世界」

3-2「人間の世界」


 ティアの自信は過剰なものの様に思えたが、しかし、旅は本当に順調に進んで行った。

 何故なら、人間たちが多く住んでいる地域では魔物の数も少なく、それほど強力なものも現れないため、ティアたちにとっての敵となる様なレベルの敵が出現しなかったからだ。


 かえって、人間そのものの方が脅威だった。

 サムが奴隷になる以前の職業と同じ、山賊を生業なりわいとしている人間たちだ。


 ほとんどの人間は定住する場所を持ち、耕作したり商工業に就いたりして生計を立てているが、中にはそれがうまく行かず、あるいはオークと同じ様に「略奪した方が早い」などと考え、山賊になる者たちがいる。

 各地域を治めている領主が兵士たちを派遣して定期的に山賊などを退治してはいるものの、自然災害や何らかのトラブルによって普通の生活を送れなくなってしまう者も一定数出て来てしまうため、なかなかいなくならない。


 オークという、少女たちに奴隷とされてはいるが見るからに凶悪そうな見た目をした魔物を従えているため、頭の働く山賊団は気味悪がってティアたちを避けた。

だが、中にはサムが鉄鎖で繋がれていることから脅威とは見なさずに、その背負っている大荷物を魅力と感じる様な山賊団もいた。


 いい意味では野心的、悪い意味では命知らずな連中だ。

 もっとも、サムという魔物の存在に目をつむってしまえば、後は「見た目は」幼く華奢きゃしゃな少女たちしか一行にはいないのだから、「楽な獲物えもの」と思っても不思議なことは無い。


 だが、そういった山賊は、ことごとくティアたちによって返り討ちにされた。

 オークが30頭、束になってかかっても歯が立たなかったほどの実力の持ち主たちだ。10人や20人の人間の山賊団が相手になるはずも無かった。


 ともすれば退屈になりがちな旅路で、むしろ、ティアなどはこういった山賊の襲撃を歓迎している始末だった。

 それは、「いい運動になる」というのと、ちょっとした「小遣い稼ぎ」になるからだった。


 この世界には冒険者という職業があり、領主や民衆の有志からの依頼を受け、魔物を退治する代わりに報酬を得る人々がいる。

 それは、魔物が人間にとって害をなす生物であり、金銭を支払ってでも退治してもらわなければならない相手だからだ。


 人間の山賊団も人々に害をなすという点では魔物と同様であり、倒して捕まえた山賊を領主などに引き渡せばそれなりの賞金が出る。

 おまけに、山賊などが持っていた武器や防具などは、状態が良ければ売りに出すこともできるのだ。

 以前なら「重いから」捨て置かなければならなかった戦利品も、サムというオークの奴隷がいるおかげで持ち運ぶことができる。


 とにかく、一行の旅路は順調だった。

 人間が住んでいる世界にいる間はずっと、そういう旅が続いた。


 古代に行われた神々の大戦の際、光の神ルクスの眷属として勝者の側に属した人間は、以来、その順応性の高さによって、世界中に広がりを見せた。

 サムが知っている範囲だけでも、サムがティアたちと出会った場所の周囲には「諸王国」と通称される大小様々な国家が割拠し、その南方には巨大な統一国家である「サクリス帝国」が存在している。


 これは、あくまでサムが知っているだけのことであり、人間はこの広い世界のあちこちで、様々な民族や文化の系統に分化しながら存在している。

 神々によって生み出された種族は人間だけでは無かったのだが、今、もっとも繁栄しているのは、間違いなく人間だった。


 世界はけっして人間だけのものでは無かったが、そこはまるで、人間の世界である様に思えてしまう。


 諸王国は、その、世界中に広がった人間たちの中でも、魔王が封印されている火山「クラテーラ」山に最も近い地域に存在している。


 諸王国を治める諸侯たちは皆、自身を神々の大戦のおり、光の神ルクスに従って戦った人間の戦士の子孫であると称しており、時に魔物の襲撃を受けることもある地域で暮らし続けているのは、魔王と魔物を人間の世界に解き放たない様に戦うためだとしている。

 諸王国と通称される大小の国家はそれぞれ自立した国々だったが、同じ出自を自称しているためか緩い連帯を持っており、魔物の大規模な襲撃や外敵などに対しては一致団結して戦うことを常としている。


 諸王国の南側、サクリス帝国もかつては諸王国と同じ様に大小の国家が乱立する場所だったが、数千年前、周囲の国家を併呑しながら拡大していく国家が現れ、それはやがて多種族と多民族を統一政体の下で統治するようになり、「帝国」を名乗るまでに至った。


 帝国は、人間社会でもっとも成功し、強大な力を有するまでになった存在であり、そこに住む人々はその帝国の地位を誇りに思い、諸王国に住む人々からすると少々「偉そう」だった。

 実際に帝国は諸王国を緩い冊封体制に組み込んでおり、爵位の授与などを通じて名目上は支配下に置いている。


 帝国は生産力も高く、物資も豊かで、その帝都では華やかな文化が生み出されている。

周辺諸国から多くの留学生を集める伝統と格式のある魔法学院も立地しているなど、サクリス帝国には諸王国に無いものが数多く存在している。


 また、社会の制度も大きく異なっている。

諸王国では旧来から続く封建制の社会が形成されているが、サクリス帝国では大きく異なり、法律による支配が行われている。


 サクリス帝国では巨大な司法組織が形成されており、全てのもめごとや訴訟は、裁判所の裁判官によって裁定される。

 それは皇帝でさえ例外ではなく、裏では、「帝国は、皇帝ではなく裁判官によって支配されている」などと陰口を言われる始末だった。


 諸王国では、統一された法律体系というものが無く、各国でバラバラに制定された法律が、その時々の国情や社会情勢によって緩く適用されている様な状態だった。

 場合によっては明文化された法律さえ存在せず、慣習的な風習などによって裁定が下される地域さえあるほどだった。


 それでも、「魔王を封じる」という目的のために緩い連帯を持っている諸王国は、ティアたちの旅路に対して協力的で、そのことも、ティアたちの旅に有利に働いた。


 ティアたちは「その必要が無い」として断ったが、中には路銀の提供や、国内を通過するまでの間は護衛をつけさせてくれなどの協力を申し出てくれる領主もいたほどだった。


 サムについては、驚かれたり、警戒されたり、困られたりと、散々な反応だったが、サムはいつも大人しくしていたから、大きな問題にはならなかった。

 せいぜい、ルナから質問攻めに遭ったり、ラーミナに威圧されたり、ティアに面白半分にいたずらされたり、リーンからジト目で眺められたりしたくらいのものだ。


 途中、困っている人々を放っておけないのと路銀稼ぎも兼ねて魔物退治を買って出るなどした結果、人間の世界の北端、魔王が封印されている「クラテーラ」山の入り口となる大城塞、「ウルチモ城塞」へとたどり着くまでに、1ヶ月が必要だった。


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