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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第2章「冒険者」

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2-7「聖剣マラキア」

2-7「聖剣マラキア」


 一行が山間部を抜け、大きな街道に面した賑やかな街へとたどり着いた時、辺りは一時的に騒然そうぜんとなった。


 何故なら、人間にとっての敵である本物の魔物が、ロープでぐるぐる巻きにされているとはいえ、本来であれば魔物などとは無縁であるはずの、人間が多く、警備も厳重な街に姿を現したからだ。


 街はこの地域では標準的な、周囲をぐるりと城壁と堀で囲まれたものだったが、サムを連れているためにティアたちはしばらくの間その中へと入ることができなかった。

 魔物が現れた、という報告に大慌てで街の警備隊が集められ、一時は完全武装の兵士たちが4人と1頭を取り囲みさえした。


 ティアはこんな時にも物おじしない性格である様だった。


「ちょっと、コレは私たちの奴隷よ!? 確かに魔物だけれど、ちゃんと拘束してあるし、害にはならないわよ! さっさと街の中に入れなさいよ! 」


 ティアは警備隊の隊長をそう怒鳴りつけ、なかなか街に入る許可を出さない警備隊の隊長に食ってかかった。

 警備隊の隊長は豊かな髭を生やした中年の男性で、ティアよりもずっと年長で背丈も高かったのだが、そんなことはお構いなしという感じだった。


 ティアは勢いよくその隊長に迫ったが、しかし、隊長は簡単には頷かなかった。

 奴隷とはいえ、魔物を街の中へと入れることは、警備隊の隊長とはいえ、その一存ではすぐには同意できないことだったからだ。


 一行が街の近くまで到着したのは昼を過ぎたあたりだったのだが、隊長は頑固というか職務に忠実で、結局、日が傾き始めても、街の中に立ち入る許可を出すことは無かった。


「あー、もう! 分からず屋ね! なら、これを見なさいよ! 」


 なかなか思う様にいかず、イラ立ったティアは、背中に背負ってきた剣を鞘に納めたままで取り出し、隊長へと見せつける。


 実戦でティアが使っていたのは、細身の刀身を持ち、軽くて扱いやすく、敵の急所を突くのに適した剣であるレイピアだったが、その剣はそれよりずっと幅広の刀身を持ち、長さもかなりあるものだった。


 その剣のつばには貴重な金属がふんだんに使われ、ルナが持っていた杖と同様に、意味ありげな模様が刻み込まれ、不思議な光を秘めた宝石が埋め込まれている。

 その刀身が納められている鞘にも精巧な細工が施されており、その剣は見るからに特別なものである様に思える。


「あなたも知っているでしょう!? これが、聖剣「マラキア」よ! 私たちは魔王をこの剣で倒して、暗黒神テネブラエの復活を阻止するために旅をしているの! その私たちの邪魔をするっていうことは、どういうことか、あなたにも分かるでしょう!? 」


 その剣、ティアが言うところの聖剣「マラキア」を突きつけられて、警備隊の隊長は困った様に、周囲の同僚たちと顔を見合わせた。


 その剣は外見からは素晴らしく、特別な剣としか思えなかったが、それが本当に聖剣と呼ばれるほどの品なのか、これまで実物を見たことの無い隊長たちには分からない。

 そして、ティアたち、見るからに若いたった4人の冒険者が、本当に魔王を倒すために旅をしているのかどうかも、にわかには信じることができない。


 サムは、ティアたちが相当な実力を持っているということを体感したから知っているのだが、隊長たちはそんなことは少しも知らないのだ。

 ティアたちが嘘をついているかもしれない。そう疑われてしまうのは、当然のことだった。


「ちょっと!? 私たちが魔王を倒す勇者様一行だって言ってるのに、何で黙ってるのよ!? 」


 だが、ティアには、警備隊長の当然の苦悩が理解できないらしい。


 どうやら、魔物の群れを平然と殲滅せんめつできるほどの実力を持ってはいるのだが、それでも見た目相応に経験が浅く、想像力にかけるところがあるらしい。

 世間知らず、とでも言えばいいのだろうか。


「あー、すんません、ちょっと、いいですかね? オークだけど、しゃべっていいっすかね? 」


 いてもたってもいられず、サムは口を開いた。


 警備隊との押し問答で一行はもう何時間も街の門の前で立ちっぱなしになっているし、サムはずっとロープでぐるぐる巻きのままで身動きもほとんど取れない状態だったから、いい加減、辛くなってきているのだ。


 サムが口を開いたことで、周囲の兵士たちには動揺が広がった。

 人間たちからすれば魔物は凶暴で邪悪な存在であり、この世界を破壊し、害をなす存在という認識でしかない。

 ティアたち冒険者は魔物と直接対峙する機会が多いから、人語を解する魔物がいるということを知っていたのだが、魔物とは縁遠い人里でしか暮らしたことの無い兵士たちはそのことを知らなかったのだ。


 サムは、周囲が騒然そうぜんとなっていることは把握していたが、ここで黙り込んでしまっては状況が変わらないので、構わずに思っていることを口にする。


「あー、とりあえず、警備隊の隊長さんが警戒するのも当然だと思うんだ。オレにはその剣が聖剣だか何だか分らんし、隊長さんだって見ただけじゃ分からんでしょう? 分からん以上、オレたちは魔物を従えた怪しい集団としか見えないわけで。……で、思ったんだが、分からないんだったら、分かりそうなやつらを呼んで確かめさせてみればいいんじゃないかね? ほら、街にだって、魔術師はいるんだろう? そいつらに見てもらったらどうだ? 」


 警備隊はまだ戸惑ってはいたが、すぐに、サムの言っていることをやるべきだと考えた様だった。

 隊長に命じられて伝令が走り、程なくして、警備隊で雇われている魔術師が連れて来られた。


「おお! これこそまさに、聖剣マラキアですぞ! こんなところで、魔王を倒す「選ばれし」お方にお目にかかるとは! 」


 遠く、サクリス帝国と呼ばれる巨大な国家にある高名な魔法学院で修行と訓練を積んだというその魔術師は、ティアが背負う剣を魔法の力で調べると、驚いた様な声をあげ、それから、一行に向かってうやうやしくこうべを垂れた。


 少し大げさな反応だったが、警備隊はその魔術師をそれなりに信頼しているらしい。

 警備隊の隊長はこれまでの非礼をティアたちにびて、街の中への立ち入りを許可してくれた。


 もっとも、サムの拘束を解かないことと、監視のために数名の警備兵を同行させるという条件付きだったが。


「ふん。まぁ、分かってくれればいいのよ」


 ティアも、要求する一辺倒で、相手の事情を考えていなかった自分のことを反省したのか、警備隊長とのことは水に流した様だった。

 単純に、長い間立ちっぱなしで口論していたから疲れてしまっただけかもしれないが。


 とにかく、一行は街の中へとようやく入ることができた。


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