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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第2章「冒険者」

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2-4「出発」

2-4「出発」


 空が少し明るくなり始めた頃、ようやく、炎は燃え尽きた。

 穴の中に積み上げられたオークの死体はすっかり灰となって、燃え残ったわずかな残骸が転がっている。


「起きなさい! 仕事よ、シ・ゴ・ト! 」


 サムは豪胆にもすっかり眠りこけていたが、ゴーゴーといびきをかきながら眠っていたサムを、ティアが容赦なく叩き起こす。

 人間の手で叩いたくらいではオークは痛いともかゆいとも感じないから、鋼鉄の板で補強された靴で蹴って起こした。


 サムは無理やり起こされた不快な気分だったが、自分が少女たちの奴隷で、生殺与奪の権利を握られているのだということをすぐに思い出した。


「へい、へい、やりますよ。お嬢さんがた、少々お待ちを」


 サムは軽く首を左右に動かして身体をほぐすと、さっそく、穴を埋め戻す作業に取りかかった。


 穴を掘って、うずたかく積み上げられていた土を大きなオークの手ですくいあげ、穴の中に放り込んでいく。

 それは穴を掘るよりは簡単な作業で、焼きつくされたオークたちの残骸は、どんどん土の中へと埋まって行った。


 4人の冒険者たちは、この作業も手伝おうとはしなかった。

 のんびりと朝食の準備をし、食事をして、それから、出発するためにキャンプの後始末を始める。


 もちろん、サムに対する監視の目は緩めたりしない。

 特に、女剣士のラーミナが、サムに鋭い視線を向けている。


 サムは背中に怜悧れいりな視線を感じながら、黙々と作業を進めた。

 今のサムが何を感じ、何を思おうと、サムに許されていることは与えられた仕事をこなすことだけだと分かっているからだ。


 少女たちがキャンプの後始末を終え、出発するために荷物をまとめ終えた頃、サムはようやく、穴を埋め終わった。


 穴を掘ったことでうずたかく積み上げられていた土は元の場所へと戻され、焼きつくされたオークたちの遺体を完全に覆い隠した。

 サムはその上を何度も行ったり来たりして、土を踏み固めて、野生動物たちが掘り起こしたりできない様に最後の仕上げをしていく。


 与えられた仕事を全て終えたサムを待っていたのは、ありがたくない報酬だった。

 サムはティアから動くなと命令されたので言う通りにしたのだが、じっとしている間にティアとラーミナが登山用の長いロープでサムをぐるぐる巻きにしてしまった。


 どうやら、サムを自由に身動きできない様に拘束しようというつもりであるらしい。


 サムは、苦笑するしかなかった。


「オイオイ、こりゃぁ、人間用のロープじゃないか。こんなんじゃ、オークの力は押さえつけられないぞ」

「知っているわよ、そんなこと」


 そんなサムに対して、ティアは胸の前で腕組みをし、高圧的に言う。


「これからアンタたちのアジトまで案内してもらうけど、その後は、アンタたちが襲った村にも立ち寄らなきゃいけないのよ。その時、アンタが自由の身だったら、村の人たちが怖がるでしょ? 」

「ははァ、なるほど。とにかく、格好だけはつけろっていうことかい? 」

「そうよ。……それと、安心しなさい? ちゃんとした街に着いたら、オークでも引きちぎれない、頑丈な拘束具を用意してあげるんだから。せっかく奴隷にするんだから、とことん、こき使ってやるわ」


 ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべるティアの言葉に、サムは肩をすくめる。


「どうぞ、ご自由に、お嬢さん。逆らったりしないさ。無駄だからな」

「当然ね。少しでも逆らうそぶりを見せたら、迷わずに仲間のところに送ってあげるわ。それより、アンタたちのアジトはどっち? 」

「ああ、あっちだ。少し歩くけどな」


 サムはロープでぐるぐる巻きにされているので、豚鼻で方向を指し示す。

 そんなサムに、ティアは疑わしそうな視線を向けた。


「本当でしょうね? 」

「本当さ。嘘ついたって、どうしようもねぇじゃねぇかよ? 」

「それもそうね。……ま、行ってみればハッキリするわ」


 ティアは、フン、と鼻で笑うと、出発の準備を整えていた一行へ号令した。


「出発するわよ! 今日中に、村まで戻るんだからね! 」


 そうして、4人と1頭の一行は歩き始める。


 リーダーでもあるティアが先頭、その次をまだ名前の分からない赤毛の少女が行く。赤毛の少女はサムをぐるぐる巻きにしているロープの一端をその手に持っていて、どうやらサムを誘導する役割の様だ。

 そして、サムの後ろにはルナが続き、最後尾をラーミナが固めている。


 どの方向から敵が来ても、接近戦ができ前衛となることができるティアかラーミナが対応することができる、簡単だがきちんと考えられた隊列だ。

 4人の少女たちはみな若いが、こういう基礎はしっかりしているらしい。


「なぁ、ところで、オレの朝飯は? ねぇのかい? 」


 赤毛の少女にロープで引かれるまま大人しく歩いていたサムが、自分だけ朝食をもらっていないことに気がついてそう要求すると、ティアがサムの方を振り返って睨みつける。


「あるわけないでしょう? それに、オークは食いだめ、できるんでしょ? 村人から奪った食べ物を散々食べ散らかしていたんでしょうから、必要ないでしょう」

「へい、へい、おっしゃる通りで」


 サムは、厳しい言葉に肩をすくめた。


 実は、サムは他のオークたちの様に奪った食糧を食べ散らかしてはおらず、食いだめもできていないのだが、それを言っても仕方の無いことだった。


「ごめんなさい。実は、元々4人分の食べ物しか持ち歩いていないので、あんまり分けてあげられる余裕も無いんです」


 そんなサムに、後ろを歩いているルナが、少し申し訳なさそうにそう教えてくれた。


 サムはなるほど、と思う。

 確かに、旅をする時には、荷物はできるだけ身軽な方が良い。荷役のために使うことのできる家畜などが居ればそれだけたくさんの荷物を運ぶこともできるだろうが、少女たちにはそういった相棒はいないようで、荷物もそれぞれが背負って運べる分だけしか持っていない様だ。


「街に着いたら、アンタの分も考慮してあげるわ。……持つのはアンタだけどね」


 ティアはそう言うと、また前を向いて歩き続ける。


「へぇ、お優しいこって」


 サムは苦笑すると、その後を大人しくついて行った。


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