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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第9章「魔王」

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9-27「声」

9-27「声」


 その時、突然、声が聞こえた気がした。


 それは、聞こえるはずの無い声だった。


「サム! 目を覚ましなさい! 」


 その声は遠く、微かなものだったが、それでも、サムの意識に届いていた。


「起きろ! 起きろって、言っているのよ! 」


 そして、その遠い声がそう叫ぶのと同時に、サムは脇腹の辺りに強い衝撃を感じていた。

 何か、固いもので思い切り蹴りつけられた様だった。


「イテ」


 さすがのオークと言えど、この攻撃は効いた。

 サムは思わずそう悲鳴をあげて、体をくねらせる。


 その瞬間、サムは、目の前に広がっている「現実」が、ゆがんだことに気がついた。


「さぁ、勇者殿よ。返答は、いかに」


 そこには相変わらず、魔王ヴェルドゴが泰然とした態度で玉座に腰かけていた。

 4人の少女たちはヴェルドゴの左右で宙に浮いたまま、人質に取られたままであり、魔王の大剣がいつでも少女たちに危害を加えられるぞと、サムを威圧している。


「こらっ、サム! 魔王を倒すんでしょう!? さっさと、目を覚ましなさい! 」


 だが、また、サムに呼びかける声が聞こえて来る。


 ヴェルドゴによって人質に取られ、大剣を首筋に突きつけられたまま、眠ったままであるはずのティアの声だ。


 サムは、唐突に、何が起こっているのかを理解した。


 サムは、自分が夢の中から目覚め、現実に戻って来たのだとばかり、そう思っていた。

 しかし、ここはまだ、夢の中。

 全ては、ヴェルドゴが作り出した幻なのだ。


 サムは聖剣マラキアを振り上げると、雄叫びをあげ、魔王ヴェルドゴへ向かって突進した。

 ヴェルドゴはその端正な顔の眉一つ動かさず、サムの突進を眺めていたが、サムが聖剣を振り下ろした瞬間、その姿はかすみの様に消える。


 サムが振るった聖剣はヴェルドゴの玉座を切り裂きはしたが、何の手ごたえも無かった。

 そして、サムがそう思った瞬間には、すでに目の前から玉座の姿が消えていた。

 人質とされていた少女たちの姿も、魔王の玉座の間も、全てが消えうせた。


 サムが次に目を覚ました時、そこには、自分の顔面に水筒に入った水をぶちまけようとしているティアの姿があった。


「ぅおおおおっ、ティア嬢ちゃん、待った、待った! 」


 もう目を覚ましたのだから、これ以上蹴られたり、顔に水をかけられたりするのは嫌だったサムは、慌ててそう叫んだ。


 その声でサムが目を覚ましたことに気がついたティアは寸前で水をサムにかけることを思いとどまり、それから、まなじりに涙を浮かべながら、とびきりに嬉しそうな笑顔を見せる。


「サム! アンタ、やっと目を覚ましたのね! この寝坊助! 」

「ああ、すまねぇな、嬢ちゃん」


 サムはティアの笑顔に微笑み返すと、周囲を見回した。

 そこには、ティア以外にも、ラーミナ、ルナ、リーンの姿があり、バーンもちゃんとそこにいた。


 それから、サムは自分たちの周囲を魔物たちがびっしりと取り囲んでいることに気がつき、ぎょっとした。


 だが、魔物たちはこちらに攻撃を加えてこようとしない。

 どうやら、サムたちと魔物たちの間には不可視の障壁の様なものがあり、魔物たちからは手が出せない状況になっている様だった。


 その魔法の壁は、バーンが作り出したものである様だった。

 サムには今まで魔法のことなどほとんど分からなかったのだが、勇者としての力を取り戻した今なら、魔力がそこに存在していることや、その流れを把握することができる。

 魔法の壁はバーンの身体から流れ出る魔力によって形成され、魔物たちの攻撃を防いでくれている。


「サムさん、すみません、起き上がれますか? そろそろ、僕も辛くなってきてまして。この魔法、けっこう魔力を使うんです」

「お、おう、もう大丈夫だ」


 バーンに言われて、サムは慌てて起き上がった。

 どうやら、サムたちが気を失っている間ずっと、バーンが1人きりで守ってくれていた様だった。


 魂を少しずつ破壊されていく痛みはそのままだったし、魔王の精神攻撃で疲れてはいたが、そんなことにかまってはいられない。


「しかし、バーン、お前どうして1人だけ平気だったんだ? 」

「多分、僕に「恐いもの」が無かったからじゃないでしょうか? 魔王のかけた魔法は、僕たちの強い思いや、恐怖を利用したものでしたから。僕はリーンとは違って、ずっと地下の牢獄で眠らされていましたから、まだ世界をあまりよく知らないんです」


 サムが起き上がりながらそう何気なくたずねると、バーンは少しだけ寂しそうに笑った。


 サムは少しまずいことを聞いてしまったなと思いつつも、絶対に魔王に勝つと、そう思っていた。


 強い思いや恐怖を利用して攻撃をしかけてきた魔王のことが気に入らなかったし、何より、この戦いに勝って、バーンがまだよく知らない世界を自由に知ることができる様にしたかった。


「それじゃぁ、3つ数えたら、魔法を解いて、魔王のところに乗り込みましょうか」


 ティアがそう言うと、周囲を警戒していたラーミナ、ルナ、リーン、そしてバーンがうなずき、サムもうなずいて見せる。


 全員の準備が整っていることを確認すると、ティアはレイピアとバックラーをかまえ直し、数を数え始める。


「3……、2……、1! 」


 その合図でバーンが魔法を解き、サムはラーミナと一緒になって扉を蹴り開け、全員で魔王の玉座の間へと飛び込んで行った。


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[一言] サムはとびらをけりあけ なかに おどりこんだ!
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