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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第9章「魔王」

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9-25「恐怖」

9-25「恐怖」


 サムが、自分が何者であるかを思い出すのと同時に、世界がぐにゃりとゆがんで、暗闇が世界を覆った。


 村が、燃えている。

 煌々(こうこう)と夜空を照らし出しながら、家が焼かれ、崩れ落ちていく。


 その炎の中で、人々が、家畜たちが逃げまどっている。

 炎に行く手を阻まれ、悲鳴をあげながら、火炎の中で倒れていく。


 そして、サムの耳に、あの、忘れることなど到底できない、甲高い不愉快な笑い声が聞こえてくる。

 異様なほどにはっきりととどく、サムの家族たちの悲鳴も。


 サムの家族が、炎の中で助けを求めていた。


 助けて、サム!

 見捨てないで、サミュエル!


 サムは、もう一度大声をあげ、両手で両耳を覆うと、その惨劇に背を向けて、必死に走り出していた。


 サムに助けを求める家族の声が、サムの後を追ってくる。


「サミュエル、どうして逃げ出すの? 私たちを「また」見殺しにするのかい!? 」

「違う! アンタたちは死んじまってるんだ! どうしようもないんだ! 」

「それがどうしたというんだ、サム。今、お前には力がある。勇者様になったんだろう? その力で、私たちを救っておくれよ」

「できるはずがない! 過去は変えられないんだ! 」

「そんなことはないさ。お前はあの恐ろしい魔物、マールムだって倒したのだろう? 今のお前には力がある。その力があればなんだってできる」

「お父さんの言う通りよ。そして、また私たちと一緒に暮らしましょう? ごちそうを作ってあげる。お前の好きなものを毎日、たくさん食べさせてあげる」


 サムは、頭の中に鳴り響くその言葉を振り払う様に頭を左右に振り、悲鳴をあげながら走り続けた。


「やめろ! やめろ! やめてくれェっ! 」


 その手には、いつの間にか聖剣マラキアが握られていた。

 サムが無我夢中でそれを振るうと、段々と、サムのことを呼ぶ声が遠ざかって行った。


 サムは、暗闇の中に、1人だけで立っていることに気がついた。


 サムはもう、人間の姿ではなかった。

 元の様に、醜いオークの姿で、その手には聖剣が握られている。


 サムが荒い息を整えていると、聖剣から光がほとばしり、サムに一つの方向を指し示した。

 どうやら、その光の指す方向へ進めば、この場所から出られる様だった。


「時間が、ねぇんだ」


 サムはそう呟くと、もう一度涙をぬぐって、光が示す方向に向かって歩き出す。


 やがて、サムは、その場所に自分1人だけがいるのではないことに気がついた。


 聖剣が指し示した光の道の左右に、4人の少女たちがいる。

 ティア、ラーミナ、ルナ、リーンだった。


 少女たちは皆、苦しんでいた。

 サムと同じ様に魔王から夢を見せられ、その攻撃に必死に抵抗しているのだろう。


 魔王ヴェルドゴはサムには誘惑をしかけてきていたが、少女たちに対しては、恐怖で攻撃を加えている様だった。


 ティアは、自身の判断で仲間を、世界を危険へと陥れたことに悩み、そして、再び仲間たちを同じ目に遭わせてしまうのではないかと恐怖し、苦しんでいた。


 ラーミナは、自身が母親から魔法の才能を一切引き継がなかったことに、コンプレックスを抱いている様だった。

 そして、自身に才能が無いことで周囲から見放され、孤独になることを恐れ、苦しんでいた。


 ルナは、戦いの中で大切な仲間たちが傷つき、死んでいくことを恐れていた。

 そして、自分自身の死も。

 ルナはマールムによって命を奪われた時の情景を今でも恐怖し、恐れ、苦しんでいた。


 リーンは、暗闇の中にいた。

 側には、眠り続けているバーン。

 リーンにとっては、暗闇の中に魔法の力で灯す炎だけが全てだった。

 リーンは誰もいない暗闇の牢獄ろうごくの中で孤独を恐れ、苦しんでいた。


 仲間たちの、サムも知らなかった想い。

 魔王ヴェルドゴはそこを正確に読み取り、利用して、攻撃してきている様だった。


 何て、卑劣なのだろう!


 サムは怒りで体を震わせると、聖剣マラキアを振るった。

 少女たちを魔王がしかけた悪夢から救い出す方法などサムは知らないはずだったが、聖剣マラキアを手にしていると、何故だか、自分がどうするべきかが分かった。


 サムが少女たちの周囲にまとわりつく様にしている闇を聖剣マラキアで切り払い、その光で照らし出すと、悪夢の世界から少女たちの姿が消えていく。

 それで本当に少女たちを救い出せたのかどうかは分からなかったが、ひとまず安心して溜息を吐くと、サムは聖剣マラキアの光が指し示した道に従って歩くことを再開した。


 だが、唐突に、光の道がねじ曲がり、少女たちを覆っていたのと同じ、暗闇がサムの身体にまとわりついた。


「こ、このっ! なにをしやがる! 」


 サムはそう叫びながら聖剣を振るおうとしたが、サムにまとわりつく闇はサムの身体の自由を強靭な力で封じ込め、サムは身動きできなかった。


 やがて、サムの全身を暗闇が包み込む。


 サムが再びまぶたを開くと、そこにあったのは、かつてマールムと戦って敗れた、魔王城の玉座の間だった。


 荒涼とした何もない空間の中で、4つの人影が倒れているのが見える。


 それは、悪夢の中でサムが救い出したはずの4人の少女たち。

 ティア、ラーミナ、ルナ、リーンだった。


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