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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第2章「冒険者」

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2-3「所有物」

2-3「所有物」


 4人の冒険者たちは、オークたちの遺体が燃え尽きるまでの間、少し離れた場所でキャンプを作り、その場にとどまることにした様だった。


 村から後をつけてきていた幼い少女は、少女のことを心配して探しに来た母親が連れて帰った。

 母親と一緒に若い男の村人も数名やって来て、4人の冒険者たちがオークを見事に退治したことを確認し、その報告をする役割を担ってくれた。


 オークの遺体の後始末をしている近くで一晩を明かすのは、決して、気分のいいことではない。

 魔物とはいえオークが焼け落ちていく光景はあまり見たくないものだが、大量の遺体を放っておいて変な疫病でも発生してしまっては困る。

 だから、少女たちは、オークの死体が灰となって、地面の深くにしっかりと埋め立てられるところまで、責任を持たなければならなかった。


 オークたちは、よく燃えている。

 少女たちと戦っていた時もそうだったが、オークの毛皮と分厚い皮下脂肪は炎にとっては良い燃料となる様だ。

 燃え尽きるまでには、一晩はかかりそうだった。


 少女たちのキャンプは、炎から立ち上る煙が流れて来ない様に風上を選んで作られ、彼女たちは戦闘時には取り外してどこかへ隠しておいた旅道具を持ち込んで、そこで寝床を作り、夕食を用意した。

 近くの岩場からは湧き水も流れ出ているし、適度な広さのある空き地もあるから、テントを張って休むのにもちょうどいい場所だった。


 戦いの後で平然と日常的な行動ができるあたり、少女たちはその若さに見合わず、魔物とお戦いに関してはかなりの場数を踏んできているのかもしれない。


 料理をしているのは、主にルナという名前の少女だった。

 他の少女たちも、食材の準備などを手伝ったりはしていたが、最後の味つけなどはルナに任せっきりだった。

 もしかすると、4人の中で料理ができるのは、ルナただ1人だけなのかもしれなかった。


 出来上がったのは周囲で集められた食べられる野草と少女たちが持ってきていた食材のシチューで、4人はそれを分け合い、日持ちする様に固焼きにされたパンをナイフで刻んでシチューに浸し、柔らかくしながら食べ始めた。


 驚いたことに、その素朴な食事は、サムの分もあった。

 ラーミナなどはわざわざオークに食事を与えることなど無いと、露骨に批判するような視線で、サムにシチューとパンを渡すルナのことを眺めていたが、ルナはその批判の眼差しを無視した。


「はい。サムさん。オークには少ないでしょうけど……、どうぞ」

「……。いいのかい? 」


 サムが訪ねると、ルナは頷く。

 その視線には、サムに対する同情や好意といったものは無く、好奇心が込められている。

 何というか、実験動物を健康なままでいさせるために、必要なことをやっているだけ、そういう感覚でいるらしい。


「食べなさい。アンタはもう、私たちの所有物なんだから」


 ルナが持って来たパンとシチューを受け取るのを躊躇ためらっているサムに、ティアが命令する様に言った。


「奴隷なんだから、しかっかり働いてもらわないと。空腹だから動けませんなんて、言い訳はさせないんだから」


 サムは「なるほど」と呟くと、ルナからパンとシチューを受け取り、大きな口を開くとその中に両方とも流し込む様にして食べた。

 固焼きのパンはまるで石の様な固さで、普通の人間の歯では到底、噛み切ることはできない。だから少女たちはシチューを作り、その中に浸して柔らかくすることで食べていたのだが、オークにはその固さは全く苦にならなかった。


「うまい」


 サムは、ゴリゴリと固焼きのパンを噛み砕きながら、感慨深そうに双眸そうぼうを細めながらそう言った。


「ああ、パンを食ったのは、何年ぶりだ? オークには料理するっていう概念は無かったからな。何でもかんでも、食えるものは見つけ次第丸かじりだ。パンなんて作らないし作れない。……それに、このシチューも、いい味出してるな。何つーか、優しい味だ」


 それからサムは「ごっそさん」と言って、文字通り一飲みで食事を終えてしまったサムの様子に驚いてきょとんとしているルナに食器を返した。


「……えっと、お鍋で欲しかったでしょうか? 」


 数回瞬きして、一瞬にして少女たちの1人前の食事を平らげてしまったサムと、自身の手の中に空になって戻って来た食器を見比べたルナは、呆然としたままそんなことを言う。

 少々、天然気味の性格である様だ。


 サムは、フシュー、と鼻から息を吐き出すと、笑う。


「おもしろいお嬢さんだ。オークはな、大食いなんだ。鍋で持ってこようが、山でパンを持ってこようが、それで満腹に何てなったりしねぇ。いくらでも食っちまえるんだ、食いだめができるんだからな。……ま、安心しな、これだけもらってれば飢えることはねぇし、仕事はきっちり、やらせてもらうからよ」

「あら、なかなかいい心がけね」


 そんなサムを、ティアが、疑いと警戒と、好奇心の入り混じった視線で見ている。


「分かっていると思うけど、火が収まったら、穴を埋め戻して、それで、野生動物が掘り返せない様にしっかり踏み固めなさいね? そしたら、アンタたちが食糧を奪っていった場所まで私たちを案内して、それから、村までその食糧を運ぶのを手伝ってもらうんだから」

「分かってる、分かっているともさ」


 サムは「徹底的にこき使ってやるんだから」という意思を隠そうともしないティアに向かって、うっとうしそうに手を振る。


 それから、サムはその場に頬杖をついて寝転がった。


「だが、当分、火は消えなさそうだ。……悪いが俺はしばらく寝るぜ。さすがにオークでも疲れちまったぜ」

「フン、勝手にするといいわ」


 ティアはどうでも良さそうにそう言うと、それから、他の仲間たちに向かって指示を出す。


「ひとまず、私たちも休みましょう。見張りは交代で。まずはラーミナ、お願いするわ。……すこしでも不審な動きをしたら、斬っていいから」

「承知した」


 ラーミナは短く頷くと、自身の刀を少しだけ引き抜き、それから、サムに聞こえるように、カチンと音を立てながら鞘の中へとしまった。


(やれやれ。生きた心地がしねぇぜ)


 サムは4人の少女たちに背を向けたまま、闇の向こうで燃え続ける炎を眺めながら、小さく嘆息した。


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