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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第9章「魔王」

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9-12「撤退」

9-12「撤退」


 予想されていたことだったが、連合部隊は、待ち構えていた魔王軍に対し苦戦した。


 魔王軍からの魔法、投石で、かまえた盾を貫かれ、前衛の兵士たちが次々と倒れていく。

それでも連合部隊の兵士たちは前進を止めず、後続の兵が前列に合流して開いた穴をふさぎ、魔王軍との距離を詰めていく。


 盾をかまえて前進を続ける前衛の後方からは、その後に続く様に進む弓兵、弩兵たちが、盛んに矢を放って前衛を援護している。

 魔物たちからの攻撃はその弓兵、弩兵たちにも容赦なく降り注ぎ、犠牲が次々と生まれていったが、兵士たちは前進を止めなかった。


 やがて、迫って来た連合部隊の兵士たちを見ていきり立った魔物たちが、雄叫びをあげて突進を開始した。

 それを見た連合部隊の兵士たちも、盾を並べていた隊形を解き、武器をかまえて、魔物たちを迎えうった。


 最前列で激しい衝突が起こり、魔物の突進を受けて兵士たちが倒れ、空中に放り上げられ、そして、兵士たちの槍や剣に串刺しにされて、魔物たちが倒れていく。


 前線で血みどろの戦いが始まる中、エフォールは後続の部隊をなるべく前進させ、少しでも多く攻撃に参加させようと試みた。

谷の出口の狭い範囲に押し込められたままでは魔王軍に各個撃破されてしまうだけで、なるべく前に出て、強引にでも前線を押し広げなければならないからだ。


 負傷兵や消耗した兵士を後送し、各隊に伝令を向かわせるために最低限の隙間は設けられていたが、連合部隊に所属する各部隊は密接した隊形を組み、前へ、前へ、じりじりと進んでいく。


 前線では、苦戦しながらも連合部隊の兵士たちが前線を押し上げつつあった。

 組織的に整えられてきた弓兵部隊、弩兵部隊を持つ連合部隊は、魔王軍に対して間接攻撃能力で上回っており、鎧や盾を持たない魔物たちにたいし、途切れることなく矢の雨を浴びせ、有利に戦いを進めているおかげだった。


 防御力の高い魔物に対しては矢の攻撃はあまり効果が無かったが、十分通用する魔物もおり、戦果は決して少なくは無かった。


 加えて、展開を終えた魔術師たちからの魔法攻撃も開始されると、魔王軍を大きく後退させることに成功した。

 高度な魔法を使いこなすことで有名なエルフたちも連合部隊に多く加わっており、魔物たちからも激しく魔法で攻撃が行われてはいたが、連合部隊の側が優勢である様だった。


 だが、しばらくすると、連合部隊の前進は停滞した。

 前面に展開する魔物たちの数が多く、その布陣に厚みがあり、なかなか突破することができない。

 しかも、魔王軍には現在進行形で、クラテーラ山から新たに姿を現した魔物たちが補充されてくる。


 次々と現れる魔物たちを前に前衛の兵士たちは疲労し、徐々に前進速度が鈍って行った。

 エフォールは後続する部隊と前衛部隊との交代を実施したが、それでも魔物たちの作った壁は厚く、突破することは困難だった。


 やがて、前線は完全に膠着こうちゃく状態へと陥った。

 連合部隊も魔王軍も交代の兵力を出しながら交戦を続けたが、前線はほとんど動かなくなり、一進一退の状況となってしまった。


 消耗戦は、連合部隊の側にとって著しく不利だった。


 魔王軍の本拠地にまで攻め込んでいる連合部隊だったが、魔王軍の側はその分補充が容易で、クラテーラ山からの増援を次々と受け入れ、損耗を回復しながら戦っている。

 これに対し、連合部隊は後方の補給線を維持するために兵力を割かねばならず、増援はほとんど得ることができていない。


 魔王軍の数は減らないにも関わらず、連合部隊の数は減り続けている。

 今の連合部隊は魔王軍と対等に戦い続けているが、投入できる兵力を徐々に失い続けている以上、このままでは魔王城にまで到達することは難しかった。


 魔王を倒す役割を持つサムは、前線の戦闘には参加させてもらえず、エフォールや他の諸侯が集まって作られた本営で待機していたが、いてもたってもいられなかった。

 魔王と対決するその時まで安易に勇者を危険にさらせないということは理解できるのだが、かといって、目の前で多くの兵士が倒れていくのに、自分はそれを見ているだけというのは、サムにとっては落ち着かないことだった。


 サムは他の仲間たちとも相談し、4人の少女たちとバーンもサムと同じ気持ちであることを確認したサムは、エフォールに前線に出してくれるように申し出た。


 しかし、エフォールはこれを却下した。

 まだ戦いは始まったばかりであり、切り札であるサムを今、危険にさらすのは、時期尚早であるという判断からだった。


 力を取り戻した聖剣マラキアは強力な武器だったが、勇者としての力を封じられたままのサムでは、その本来の力を引き出すことはできない。

 シニスの魔法によってサムは一時的に勇者としての力を取り戻すことができるが、それはサムの魂に大きな負荷をかけることであり、魔王ヴェルドゴと対面するその時まで、使用は待たなければならなかった。


 サムを今、失うわけにはいかない。

 そう言われては、引き下がる他は無かった。


 だが、前線の膠着状態は続き、戦いは激しさを増していった。

 魔王軍は空飛ぶ魔物や竜を投入して空から攻撃を開始し、連合部隊の兵士には多くの犠牲が生まれてしまった。


 本営の近くを、後送される負傷兵たちが数多く通過していく。

 サムたちの頭上にも魔物たちが飛来し、本営を護衛していた弓兵や魔術師からの反撃を受けて倒される姿が見えた。


 連合部隊は魔王軍に対して善戦を続けてはいたものの、戦況はこちらにとって不利になりつつある。


 この状況を見て、エフォールは、全軍に対して一時撤退する命令を発せざるを得なかった。


 このまま交戦を続け、魔王軍にとって有利な状態で戦って消耗しきってしまうよりも、一度引き下がって作戦を練り直すべきだと考えた様だった。


 谷の出口を封鎖する魔王軍を突破することには失敗したものの、エフォールの撤退戦の指揮は見事なものだった。

 一部の部隊を先行して後退させ、一定間隔ごとに追撃部隊を阻止するための態勢を取らせ、それから、少しずつ兵たちを退却させていった。


 魔王軍は撤退する連合部隊に追撃をかけようとしたが、一定間隔で配置された殿部隊がそれを押しとどめ、追撃によって生じた連合部隊への被害は最小限にとどめられた。


 加えて、魔王軍は敢えて連合部隊を深く追撃しようとはしなかった。

 魔王ヴェルドゴは連合部隊側が十分な増援を得られない状況にあることを知っており、時間が経てば経つほど、兵力が途切れることなく補充される魔王軍の有利となることを理解しているからだ。


 魔王軍は追撃を早々に切り上げると戦いが始まる前の地点に布陣しなおし、再び谷の出口で連合部隊を待ちかまえた。


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