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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第2章「冒険者」

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2-2「炎」

2-2「炎」


 やがて、かつてオークの山賊団だったものを埋めるための穴が掘り終わった。


 サムに与えられた仕事は、まだ終わらない。

 辺りに転がっているオークたちの遺体を集め、その穴の中に集める作業が残っている。


 少女たちはもちろん、この誰でも嫌がりそうな仕事を手伝ったりはしなかった。

 目の前にはいつでも用済みとなったら始末できる奴隷がいることだし、こんなことは自分たちの仕事では無いと思っていそうだ。


 魔物の遺体の後処理など、誰でも嫌がる仕事ではあったが、少女たちが一切、手伝おうとしないのは、彼女たちの育ちの良さにも原因があるかもしれない。

 サムの印象では、少女たちはみな身なりが良く、生活には困っていなさそうだった。


 身に着けている鎧も剣も、最高級品だ。

 もしかすると、ドワーフと呼ばれている、火の神イグニスによって採鉱と鍛冶を司る種族として生み出されたとされる種族が鍛えた逸品であるかもしれない。

 それほどの品を用いることができるのは、ごくわずかな人間に限られる。


 2人の魔術師が身に着けているローブも、貴重なものである様だ。

 よく見るといたるところにそれを着る者を保護し、その魔法の力を高めるための呪文の文字が縫い込まれた布が織り込まれており、そのローブはただの布では決して発揮することのできない高い防御力を持っている様だ。


 特に、ルナと呼ばれている魔術師が持っている杖は、特別なものに見える。

 精巧に作られているだけでなく、入手が難しいとされている貴重な材料がふんだんに使われている。


 冒険者、という人々がいることは、サムも知っていた。

 サムがまだ幼かったころ、遠目に、冒険者たちの姿を見たこともある。


 彼らは、その多くが、オークの様な魔物を退治しながら各地を放浪している。

 行く先々で魔物を退治したり、魔物が人間から奪って集めた財宝などを奪還したりして、生活している人々だ。


 魔物は、暗黒神テネブラエによって、生者の世界に住む住人たちを抹殺し、テネブラエによって支配される新しい世界を作り出すために生み出された存在だ。

 魔物には様々な種類があるが、共通しているのは、人間にとって脅威となる恐ろしい力を持っているという点だ。


 その魔物を相手とする冒険者たちには、当然、魔物と戦うことのできる強い力が必要とされる。


 4人の少女たちは、特に優れた冒険者たちである様子だった。

 身なりが良く、全く生活に困っていなさそうな点から言って、その出自自体も相応の身分にある家柄だと思われたが、冒険者として高い実力を持つために収入にも困っていないのだろう。


 それだけの余裕があるから、気まぐれに、サムを奴隷としたのだろう。

 サムの命は4人の少女たちの意のまま、サムは彼女たちにとってのオモチャに過ぎないのだろう。

 ただ1頭、生き残ることになったサムからすればもうどうでもいいことではあったが、少女たちが飽きてしまえば、サムの命もそれまでだった。


 かと言って、仲間たちの後を追おうとは、サムは思わなかった。

 死のうと思えば、簡単だ。少女たちに反抗して、雄叫びをあげながら彼女たちに向かっていくだけでいい。


 そうすれば、剣で斬られるか、魔法で焼かれるかは分からなかったが、サムは35年の生涯を終えることができる。


 だが、サムには、死んでいった山賊団の仲間たちの後を追うほど、彼らに思い入れは無かった。

 サムは元々、オークたちの考え方や価値観にはなじむことができていなかったし、そのせいで仲のいいオークなど1頭もいなかった。

 それらが壊滅してむくろをさらしているからと言って、さほど悲しいとも思わない。


 ボスオークだけは特別で、恩義を感じてはいるものの、その死に殉じるのも変なことだと思う。

 ボスオークはいさぎよく斬られたが、サムに後を追って欲しいとは思っていそうに無かった。


 山賊団は壊滅し、サムは冒険者一行の奴隷とされてしまった。

 この先、サムが再び自由を取り戻せる見込みは無かったし、奴隷としての初仕事が仲間たちの死体の後始末という、陰惨いんさんなものであることから簡単に想像できることだが、この状況がサムにとって好転するという希望も無い。


 サムにとってはどうしても生きたいという強い願望も無いのだが、とにかく、少女たちの気まぐれで生かされてしまった以上、少なくとも、少女たちがサムを奴隷とすることに飽きるまでは、その気まぐれにつき合わなければならないだろう。

 サムはもはや1頭の自由なオークではなく、少女たちの所有物で、そして、自分の命を救ってくれる様に必死に願った村の小さな少女に対して、新しい恩義があるからだ。


 サムに自由は無く、その、新しい恩義と、所有者である少女たちのために生きる日々が始まるのだ。

 それは、全く楽しくなさそうな未来だったが、そうなってしまったのだから仕方が無い。


 山間部に少し早い夕暮れが訪れた頃、ようやく、サムはかつて仲間だった物を穴の中へと集め終わった。

 オークはその多くが深く切り裂かれ、身体がバラバラになっていたり、あるいは魔法で焼かれてすでに黒焦げになってしまったりしていたから、それらを全て集めるのにはなかなか時間がかかった。


 サムは最後にボスオークの遺体を穴の中に納め、その首を元々の位置に置き、身体の前で手を組ませて、自身も短く黙祷もくとうを捧げると、自分の作業をずっと監視し、見守っていた少女たちの方を振り返った。


 少女たちは、それがオークにとっても大変な仕事であるということは理解している様子だった。

 彼女たちはサムの仕事の終わりに、やっと終わったの、とか、遅すぎる、とか、文句をつけたりしなかった。


 ティアが「やって」と短く指示すると、黒いローブを身に着けた赤毛の魔術師は小さく頷き、オークたちの遺体が埋められた穴のふちまで進み出てくる。


 赤毛の少女は、サムが穴から這い出して来るのを待ってから、短く呪文を唱え、その手をオークたちの遺体へと振り向けた。


 すると、彼女の手からは紅蓮の炎がほとばしり、穴の中に積み上げられたオークたちの遺体を包み込んだ。

 そうして、巨大な炎が生まれる。


 炎は穴の中で激しく揺らめきながら、たっぷりとついているオークの皮下脂肪を燃料として燃え盛った。


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