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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第9章「魔王」

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9-7「意外な味方」

9-7「意外な味方」


 その何かは、意外な形で姿を現した。


 パトリア王国軍を包囲している魔王軍のその後方、伐採されずに残されていた森の中から、突如として軍勢が現れたのだ。


 それは、みすぼらしい姿をした軍勢だった。

 かつては兵科ごとに軍装が統一され、装備も十分に整っていたはずの兵士たちは今、戦いの中で破損し、戦塵せんじんに汚れている。


 その表情にも、疲労の色が目立った。

 厳しい環境で、何日も十分な休息を取れず、満足な食事も得られないまま、戦い続けてきたのだろう。


 だが、その兵士たちは、整然と隊列を組み、武器をかまえ、その瞳にギラギラとした闘志を宿している。


 その軍勢の中で、騎乗した1000ほどの騎士たちの中心にあった人物が剣を天高くかかげると、軍勢の中にいくつもの旗がひるがえった。

 それは、バノルゴス王国の旗だった。


 天に向かって剣をかかげた人物、バノルゴス王国の国王であるディロス6世が魔物の軍勢へ向かって剣を振り下ろすと、バノルゴス王国軍の兵士たちは一斉に喚声かんせいをあげ、魔王軍に対して突撃を開始した。


 その兵力は、これまでの戦いで消耗してしまったのだろう、およそ8000名にまで減少していた。


 それでも、今の戦況を変えるのには十分な戦力だった。

 パトリア王国軍を包囲して苦しめていた魔王軍の魔物たちはすでにエフォール将軍が出撃させた援軍の攻撃を受けており、その対応のために新たに現れたバノルゴス王国軍に対処するだけの余裕が無かった。


 魔王軍は、勝負を急いでもいた。

 せっかく包囲したパトリア王国軍を少しでも早く殲滅せんめつしようと魔物たちは前のめりになり、殺到して、突然後方から攻撃を開始したバノルゴス王国軍に体の向きを変えることにさえ難儀するほど、ぎゅうぎゅう詰めの状況だった。


 バノルゴス王国軍はその外見通り、厳しい環境で戦い続けてきたせいか体調は万全ではない様子だったが、連合部隊と魔王軍が戦っている今しか勝利のチャンスは無いだろうと、最後の体力と気力を振り絞って戦った。


 バノルゴス王国軍の登場に魔物たちは混乱し、効果的な反撃を実施できないまま、次々と倒されていった。

 包囲下にあったパトリア王国軍も奮い立ち、防戦一方だった状況から攻勢に転じ、バノルゴス王国軍と合流を果たすべく、魔物たちの包囲網の内側から外側へと突破を試みる。


 そしてとうとう、パトリア王国軍とバノルゴス王国軍は合流を果たすことに成功した。

 魔王軍が築き上げたパトリア王国軍の包囲は、破られた。


 せっかく完成した包囲網を破られた魔物たちは、内側からパトリア王国軍、外側からバノルゴス王国軍と連合部隊の騎兵部隊の攻撃を受け、浮足立っていた。


 敵を包囲していたのに、逆に包囲されかけている。

 その状況を理解した魔物たちはその窮地きゅうちから脱出しようと試み、1頭が逃げ、2頭が逃げ、4頭が逃げ、と、徐々に戦列を離れて逃げ出す者が増えていった。


 魔物たちは混乱し、押し合い、さらに混乱に拍車をかけながら、まともに戦うこともできずに人間たちの軍勢の餌食えじきとなっていた。


 その混乱は、魔王軍の右翼全体に広がりつつあった。


 魔王軍は連合部隊が布陣する双子丘陵の北側の丘に第2次総攻撃をしかけるべく準備を整えようとしていた。

 そして、その第2次総攻撃を開始しようとしていた矢先に、魔王軍の右翼、連合部隊から見て左翼が、崩れ始めた。

 そして、逃げ出した魔物たちは、魔王軍右翼の隊列へと雪崩の様に押し寄せ、戦闘準備を整えて待機していた魔物たちの隊列を乱し、混乱を生み出した。


 魔王軍の右翼を切り崩すことに成功したパトリア王国軍とバノルゴス王国軍、そして連合部隊の騎兵部隊は、そのまま攻撃を続行し、逃げてくる味方に巻き込まれて混乱している魔王軍の右翼に対して攻めかかった。

 パトリア王国軍とバノルゴス王国軍、そして先に突出していたドワーフたちは魔王軍の右翼、そして中央に向かって突き進み、騎兵部隊は魔王軍の後方に回り込んだ。


 この動きに合わせて、連合部隊も動き出した。

 戦機が訪れたと判断し、エフォールは全軍に総攻撃を命令したのだ。


 複数の魔術師たちが協力して放った威力の大きな魔法が次々と魔物たちの隊列に炸裂し、打ち倒された巨人たちが次々と大地に崩れ落ちていく。

 魔王軍の右翼側で広まった混乱は、中央、そして左翼にまで広がり始めていた。


 そこへ、全面攻勢に打って出た連合部隊の兵士たちが殺到した。

 出撃を命じられた兵士たちは丘陵から駆け下り、魔王軍に向かって攻めかかっていく。


 その激しい攻撃にも、魔王軍はしばらくの間持ちこたえた。

 元々、魔王軍では魔物など使い捨て同然の扱いで、いくら犠牲が出ようと考慮されるようなことは無い。

 光の神ルクスの眷属たちから成る軍勢に敗北するくらいなら、その場にとどまってできる限り敵に損害を与えよ、というのが、魔王ヴェルドゴの方針である様だった。


 だが、魔物たちはやがて、自分たちが完全に包囲される前に、我先にと逃げ出し始めた。

 魔物たちは魔王によって支配され、統率されているはずだったが、激しい戦闘のさなか、生存本能が魔王からの指令に打ち勝ってしまった様だった。


 戦おうとする魔物より逃げようとする魔物が増え始めると、戦況は一気に連合部隊の側に傾いた。

 魔物たちは自らが逃げようとするので必死で、まだ踏みとどまって戦おうとする魔物の行動を妨害し、同じ様に逃げようとしている他の魔物の足を引っ張ったり、押し合ったりして、自分たちの手でさらに状況を悪くさせていった。


 魔物たちはまだ包囲されていなかった自軍の左翼側から逃げ出していったが、逃げ延びることができた魔物の数は、多くは無かった。

 エフォールは魔物たちがその1か所から逃げ出す様に敢えて攻撃を調整しており、逃げ出した魔物たちは、先回りしていた連合部隊の兵士たちに次々と討ち取られていった。


 やがて、戦場から魔物たちの姿が消えた。

 あとに残されたのは、戦いの結果倒された無数の魔物のむくろだけだ。


 勝利を手にした兵士たちは、制圧した双子丘陵の南側の丘の上で、歓声をあげる。


 それは、援軍に駆けつけ、勝利を決定づけたバノルゴス王国軍のことを称える声。

 そして、聖剣マラキアを手に、勇敢に戦った勇者、サムのことを称える声だった。


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[良い点] 燃える展開がとても良い!
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