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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第2章「冒険者」

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2-1「奴隷生活の第1歩」

2-1「奴隷生活の第1歩」


 オーク35歳(♂)、サムの奴隷生活の第1歩は、4人の冒険者たちによって惨殺された、かつての仲間たちの死体を埋めるための穴掘りで始まった。


 オークは体長2メートルほどもあり、しかも筋骨隆々とした大型の体格で、たくましい筋肉、太い骨格、分厚い皮下脂肪を持つ。

 だから、30体近くものオークの死体を埋めることができるだけの大きな穴を掘るのは、かなりの大仕事だった。


 サムは、文句1つ言わずに、黙々と穴を掘った。

 サムは恩義のあるボスオークを失ったことが悲しかったが、泣いている暇など無い。

 何故なら、今の彼は、4人の少女たちの奴隷だからだ。


 逆らったら、命は無い。

 オークは強い魔物で、普通の人間など相手にもならなかったが、サムを奴隷とした4人の少女たち、冒険者は違う。

 彼女たちは強力な魔法を自在に使いこなし、いともたやすくオークをほふることができる。


 その力の差は、はっきりしている。

 30頭もいたオークたちは少しも歯が立たず、一方的に倒されてしまった。


 辺りに転がっているオークたちの屍が、その何よりの証拠だ。

 ある者は切断され、ある者は焼かれ、無残な姿となって地面に転がっている。


 もっとも、これは、因果応報と呼べることだった。

 オークたちはこれまで、山賊として人間たちを襲い、たくさんの人々をその手にかけて来たのだから。


 サムに与えられた仕事は重労働だったが、オークは頑強で力の強い生き物だった。

 人間の道具を使いこなすことはできないが、オークには強靭な手足があり、素手でも簡単に地面を掘り起こすことができた。


 オークたちの遺体は穴に放り込まれた後、燃やされることになるが、穴には十分な深さが必要だった。

 燃やすことによって、オークたちの死肉が腐り、疫病などの原因となることは防ぐことができるだろうが、かといって、いくらか燃え残りも出る。

 そういった燃え残りを、野生動物などが漁るために地面を掘り返しでもすることになったら、オークの死体の腐敗による疫病の発生を完全に防ぐことは難しくなる。

 だから、オークたちの遺体は土の奥深くに埋めなければならない。


 サムは、黙々と穴を掘り続けた。

 その様子を、4人の少女たち、冒険者の一行は、オークの力に感心し、かつ、警戒するような視線を送りながら眺めている。

 手伝うつもりは全く無いらしく、また、サムのことを少しも信用していない様子だ。


 少女たちは、屈強さという点で、オークたちの襲撃から村を守ろうと奮戦し、壊滅して行った兵士たちから明らかに劣っていた。

 それでも、彼女たちがいとも容易くオークたちをほふることができたのは、魔法と呼ばれる力を巧みに操ることができたからだ。


 魔法。

 この世界でそう呼ばれているその力は、一部の特別な才能を持って生まれた者や、特殊な道具などを用い、専門の訓練を受けた者にしか扱うことのできないものだ。


 その力の源は、血であるとされている。

 神話によれば、この世界に暮らす人間は、光を司り、生あるものの世界を統べる神であるルクスによって作られた種族の1つであるとされている。

 魔法とは神から与えられた特別な力であり、人間の内で魔法を使うことができるのは、ルクスから力を分け与えられた古代の人間の血を濃く引き継いだ先天的な者とされている。


 一部の例外として、長年の修行と訓練によって自然界に存在する魔力を利用して魔法を使うことができるようになる場合もあるが、その例は数少なく、また、強力な魔法を使うことは難しい。


 少女たちはどう見ても若いし、高度な魔法も使いこなしていたから、皆、先天的に魔法を使いこなせる者なのだろう。


 少女たちが用いていた剣は、兵士たちの槍や矢をものともしなかったオークを簡単に切り裂くことができた。

 それは、少女たちが持っている剣が上等な素晴らしい出来栄えの物であるということもあったが、少女たちが使いこなす魔法の力によって強化されていたおかげだ。


 神話によると、オークは暗黒神、死者の世界を司る神であるテネブラエによって生み出された数多くの種族、魔物と呼ばれる闇の眷属の1つであるとされている。

 だが、オークには魔法は使うことはできないし、その力の性質を理解することもできない。


 オークの創造神たるテネブラエが魔法の力をオークに与えなかった理由は誰も知らないが、魔法に対して何の素養も無く、それを扱うことも、その力から身を守ることもできないオークに対して、魔法による攻撃は絶大な威力を発揮する。


 少女たちの腕はオークからすればあまりにも細く華奢きゃしゃなものでしかなかったが、その魔法の力で簡単にサムの命を奪うことができるだろう。


 サムは、自分の命が惜しいとは思っていなかった。

 何十年もオークとして暮らして来たサムにとって、自分の生きて来た時間というものはくだらないものでしかなく、だからこそ、せめて恩人であるボスオークには生きのびて欲しかったというのが、サムにとっての数少ない願いだった。


 だが、その願いは叶えられなかった。

 人間にとってオーク、魔物は決して相容れることの無い存在であり、長年にわたって略奪を指揮して多くの人間を傷つけ、奪ってきたボスオークを見逃すという選択肢はあり得なかったのだ。


 サムが生かされている、その理由の大部分は、サムが村で助けた幼い少女の願いによるものだ。

 サムを生かすという決定をしたのはティアという名前を持つ、どうやら冒険者たち一行のリーダーであるらしい、2本の剣を背負った少女だったが、それは村の少女の執拗なお願いに根負けしたからに過ぎない。


 ティアにとっては、これは、些細ささいなことだったのだろう。

 普通の人間にとってオークは恐ろしい脅威のはずだったが、魔法の力を自在に操ることのできる彼女たちにとっては、紙切れみたいな存在に過ぎない。


 気まぐれに、サムは生かされた。

 サムは強くて人間から恐れられる魔物ではなく、ティアの気が変われば、その瞬間に用なしとなって始末される存在となった。


 だが、今のところ、冒険者たちはサムを始末するつもりはない様だ。


 ティアはサムの働きぶりに「意外と便利ね」などと思っていそうな顔で、当面の間は奴隷としていい様にこき使ってやろうと考えていそうだ。


 ラーミナという名前の女剣士は、何故オークを生かしておくのだと不満げに、かつあからさまにサムを警戒し軽蔑けいべつしている様子だったが、ひとまずはティアの気まぐれにつき合うつもりでいるらしい。


 ルナという名前の魔術師は、サムのことを興味深そうに眺めている。他のオークとは異なった考え方をするサムのことを、研究の対象として見ている様だった。


 もう1人の冒険者、赤毛の、まだ名前が明らかではない少女が何を考えているのかは、分からない。

 じとっとした感じに半分閉じられた瞳からは、感情らしいものを読み取ることはできない。


 サムは、異なった感情のこもった視線を浴びながら、ひたすらに穴を掘り続けた。


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