1-15「サム、奴隷になる」
1-15「サム、奴隷になる」
「ちょ、ちょっと、待ってくれよ」
ティアの決定に真っ先に異議をとなえたのは、サムだった。
「オレを奴隷にするっていうのは別に構わんが、ボスは殺されちまうのか? 」
「そんなの当り前じゃない! 」
ティアは、サムを睨みつける。
「アンタたち魔物は人間の敵! アンタ自身はどうか知らないけど、少なくともそっちのボスは山賊団けしかけて、村を襲わせてるんだから有罪よ、有罪! 」
「し、しかしだな、オレはこの人に恩義があって……」
「そ・ん・な・の! どーでもいいわよ! 奴隷にするだけで生かしてやるって言ってるんだから、それでいいでしょうが!? 」
「さむ。イインダ」
なおもティアに反論しようとするサムを、ボスオークは穏やかな声で止める。
「俺ハ人間ヲタクサン殺シテ来タシ、ソウナル様ニ群レヲ導イテ来タ。ココデ人間ニ殺サレルノハ仕方ノナイコトダ。ソレニ、俺ハモウ1回ハ、人間カラちゃんすヲ貰ッテイル。コレハ、約束ヲ破ッタコトニ対スル罰ダ」
サムはまだ何か言おうとして口を開きかけたが、すぐに閉じるしかなかった。
ボスオークの口調からその覚悟の強さを読み取って、説得することは絶対に不可能だと理解できたからだ。
「フン、いい心がけじゃないの! ……それで!? みんな、他に意見は? 何かあるなら、今の内に言いなさい! 」
静かになったタイミングを見計らって、ティアはその場にいる全員に、自身が下した決断の是非を問いかけた。
奴隷にするとは言え、サムを生かすことにラーミナは不満がある様子だったが、あえて意見しようとまでは思わない様子だ。
他の少女たちも、積極的に異議をとなえるつもりはない様子だった。
「ラーミナ、楽にしてやりなさい! 」
異論が出て来ないことを確認すると、ティアは女剣士に向かってそう言った。
自分で手を下さないのは、まだ、自分の足に村の少女がピッタリと張りついているせいだ。
「分かった。……斬るが、いいな? 」
「覚悟ハデキテイル。……ソレニ、モウ、腕ノ感覚ダケジャナク、体中ノ感覚ガ無クナリカケテイル。俺様ハモウジキ死ヌ。斬ルナラ、早クヤレ」
ラーミナの確認にボスオークはそう言って答えると、最後の力を振り絞って、ラーミナが首を斬り落としやすい様な姿勢を取った。
ラーミナはそれ以上何もしゃべらず、無言のまま刀を構え直すと、そのままボスオークの首筋に向かって振り下ろす。
ザシュ、という音と同時に、ボスオークの首は皮一枚を残して胴体から切断され、その首は自身の重量に引っ張られ、ボトリ、とボスオークの胡坐をかいたままの膝の上に落ちた。
「ボス……」
サムは、悲しそうに視線を伏せると、屍となったボスオークに向かって両手を地面について一礼した。
「さて! アンタ、さっそく働いてもらうわよ」
だが、サムには感傷にひたっている様な時間は無かった。
胸の前で両手を組んだティアが、奴隷となったサムに最初の命令を下したからだ。
「まずは、穴を掘りなさい! ここらに転がっているオークたちの死体が全部入るくらい大きな穴をね! そしたら、死体を魔法で燃やすから、その後でまた埋め戻すの。変な疫病でも流行ったらコトだもの。いいわね!? 逆らったら、その時点で殺すから」
「……。ああ、やるとも」
サムは嘆息すると、それ以上は不満そうな素振りは見せず、立ち上がって、言われた通りの作業をするべく歩き始めた。
こうして、35歳のオーク、サムの奴隷生活が始まった。




