表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第8章「勇者」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

159/204

8-16「輝き」

8-16「輝き」


 サムの決心を、仲間たちは誰も喜ばなかった。

 だが、正面から反対することもできなかった。


 サムが勇者としての力を取り戻し、魔王を倒すことができなければ、魔王軍の侵攻によって生じる被害がひたすら拡大していく。

 その被害を無視してでも、サムに考え直す様に説得できるような理由を、誰も持ち合わせてはいなかったからだ。


 決心を固めたサムは、天空の祭壇における一行の保証人となり、その世話をしてくれているデクスを探し、シニスの言う方法を受け入れることを告げた。

 デクスはサムの決意を聞くと、険しい顔をしたが何も言うことはなく、ただうなずいて、サムの決心をリベルやウォルンへと伝え、リベルとウォルンは必要な措置をとることを約束してくれた。


 それから、一行の天空の祭壇での滞在は、数日にも及んだ。

 時間が限られている以上、サムはすぐにでも魔王に挑むために旅を再開したかったが、聖剣マラキアに力を取り戻すのと、サムに一時的に勇者としての力を解放させるための魔術を準備するために時間が必要だったからだ。


 待っている間、サムと、仲間たちとの間の関係は、ギクシャクとしたものになっていた。

 サムは、他の仲間たちの想いを無視する決定をしてしまった以上、これは、当然のことだった。


 サムは少しでも戦う力を高めるために、エルフの中で剣術を扱える者を探し、剣の扱い方を習うなどしながら時間を過ごした。

 その間、サムは他の仲間たちと顔を合わせることはあったが、お互いに気まずい感じになって、短く言葉を交わすだけで距離を取ることが多かった。


 特に、ティアは不機嫌そうだった。


 一行が開いた食事会は、ティアが発案したものだった。

 ティアとしては、サムが犠牲にならなくても世界を救える方法を、一緒になって考えるためにそういう提案をしたのに、全く逆のことをサムは決意してしまったのだ。


 当然、そのことにティアは不満だった。

 だが、何よりもティアを不機嫌にさせていたのは、サムの決意を翻意ほんいさせられないという自分自身だ。


 エルフと人間の間の関係の希薄さと、その物理的な距離から、天空の祭壇には人間の世界の情報はほとんど入っては来ない。

 だが、エルフたちが魔法を使うなどして、断片的に入手されている情報からは、人間は魔王軍を前にして苦戦を強いられ、魔物による被害はさらに拡大しているということだけは分かっている。


 魔物による攻撃から、できる限り多くの人々を救う。

 そのためには、できるだけ早く魔王を倒さなければならない。


 それは明らかなことだったし、サムが危険な目に遭うからと言って、魔物たちの犠牲となっていく数えきれない人々を無視して、別の方法を見つけるために時間をかける事は、強く主張することができなかった。


 サムも、自分も、納得させるだけの代替案を用意できないことが、ティアには悔しくてし方の無いことだった。


 ティアの気持ちは嬉しかったが、サムは黙って、剣の鍛錬をつづけた。

 ドワーフの谷では何人ものドワーフたちがサムの剣の技量を向上させるために協力してくれたが、狩猟と採集を生活の基盤とし、他の種族と正面から争うことを好まないエルフたちの中には、弓の名手は多くとも、剣の使い手は少ない様だった。


 気まずい状態となっているラーミナやティアに頼むわけにもいかず、サムは困ってしまったが、幸いなことに、デクスが剣を使うことができた。

 エルフが使う剣は細身のもので、サムが使うことになる聖剣マラキアとはやや扱い方が異なるものだったが、デクスはサムに剣を使う上での心得や注意点を教え、サムにとってはいい勉強になった。


 やがて、一行は再びエルフの族長であるウォルンに呼び出され、エンシェントエルフ、エルフの長老であるリベルと対面した。


 一行が集められたのは、かつて神々が座していたとされる、天空の祭壇の中でももっとも広大で、壮麗そうれいな空間だった。


 神々の間と呼ばれるその場所の中央に作られた、光の神ルクスを祭る祭壇の上に、聖剣マラキアが置かれていた。


 聖剣は、神々の間の天井に設けられた天窓から降り注ぐ陽光を浴びながら、輝いていた。

 それは、陽光を刀身が反射して輝いているだけでなく、聖剣マラキア自体が光をまとっている様な輝きだった。


 聖剣の材料となるイルミニウムは、そのままでは鋼とそれほど変わらない外見をしているが、魔法の力を得ることで聖なる光を放つとされている。

 聖剣マラキアのその輝きは、聖剣がその力を取り戻したことの何よりの証だった。


 一行がデクスにうながされ、神々が座していた場所に向かってひざまずくと、リベルはウォルンに支えられながら一行と同じ様に神々が座していた場所へとひざまずき、神々が使っていた言葉であるとさせる古代語ルーンで、神々への祈りの言葉を捧げた。


 それから、リベルは聖剣マラキアを両手でいただき、光り輝く刀身を鞘の中へと納めると、そのままウォルンに支えられながらサムの前へとやってきて、サムに顔をあげなさいと命じた。

 サムが言われた通りにすると、リベルは一瞬だけ表情を曇らせ、すぐに凛とした表情を作り、サムに聖剣マラキアをさずけた。


 サムは聖剣マラキアを受け取ると、少しだけ鞘から引き抜き、その輝きを確かめた。

 あの日、マールムに敗れて、聖剣が砕かれたその時に見たのと同じか、それ以上の輝きを聖剣は放っていた。


 聖剣の力は見事に取り戻され、むしろ、以前よりもさらに、その力を増している様な感覚があった。


 後は、サムがこの聖剣を使いこなし、魔王を倒すだけだ。


 一行には葛藤かっとうがあり、しこりが残されたままだったが、それでも、歩みを止めるわけにはいかなかった。


 エルフたちは一行をいち早く魔王軍との戦いが続いている諸王国へとたどり着かせるために転移の魔法を準備し、一行を、パトリア王国まで送り届けてくれるということだった。

 加えて、ドワーフたちと同じ様にエルフたちも魔王軍と戦うべく軍勢を編成し、一行に続いて、パトリア王国へ救援のために向かわせてくれる手はずになっている。


 一行には、サムの勇者としての力を解放する魔法を用いるため、エルフたちの中からデクスとシニスが選ばれ、同行することになった。


 デクスが選ばれたのは、エルフにしては人間への理解が深く、一行とも面識があり同行させるのにふさわしいだろうという理由で、シニスが選ばれたのはもちろん、魔族の魔法を使うことのできる彼女がいなければ、サムの勇者としての力を一時的に回復させる魔法を使うことができないからだった。


 こうして、聖剣の力を取り戻した一行は、リベルやウォルンに見送られながら、再びパトリア王国へ向かって旅立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ