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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第1章「オーク35歳、奴隷になる」

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1-14「言い争い」

1-14「言い争い」


 叫んだのは、まだ幼い少女だった。

 まだ10歳になったかどうかという、小さな女の子。

 山間の谷間にある村をオークたちが襲った時に、サムによって見逃され、助けられた少女だった。


 どうやら近くの草むらに隠れて様子をうかがっていたらしい。

 この辺りの地理に不案内なティアたちのために、ここまで道案内でもしてきたのか、それとも、様子が気になって、こっそり後をつけて来てしまったのか。


 少女は自身が隠れていた場所から飛び出してくると、小型犬が駆ける様に勢いよく走り抜けていって、ティアのところへ向かった。


「えっ、ちょっ? 隠れてないとダメじゃないのっ! 」


 突然のことに、ティアが戸惑った様に少女をたしなめたが、しかし、少女はすでに少女の足元にまでたどり着いてしまっている。


「待ってください、お姉さん! このオークは、悪いオークじゃ無いんです! 襲撃のあった日、私とお母さんを見逃してくれたんです! それに、私の家に隠してあった食糧も、そっくりそのまま残して行ってくれたんです! 」


 戸惑ったままのティアに向かって少女はそうまくし立てると、レイピアを握るティアの手にすがりついて祈った。


「他のオークは嫌いだけど、この、サムっていう人は、違うんです! 」

「そ、そんなこと言われたってねぇ! 」


 ティアは戸惑ったまま、少女を叱る様に言う。


「オークは魔物で、人間に悪さする怪物なのよ!? 生かしておいていいことなんて何にもないわよ! 」

「でも、悪いことしてないのなら、どうして殺されなきゃいけないのか、分からないよ! 」

「そ、そんなこと言っても! 魔物は、魔物じゃないの! 倒さなきゃいけないのよ! 」

「そんなのって、おかしい! 」

「おかしくないの! 」


 ティアはゆずらなかったが、少女も1歩も引き下がらなかった。


「えっと、あなた、本当に悪いことはしていないのですか? 」


 そうサムにたずねたのは、ぎゃーぎゃーと言い争いになっている横をすり抜けていつの間にか近くまでやって来ていた、緑色のローブを身にまとった魔術師の少女だった。


「ルナ。危険だ、近寄るんじゃない」


 ラーミナが短く警告したが、ルナと呼ばれた少女は「平気だよ」とでも言いたそうな視線をラーミナの方へと向けただけで、その場から離れようとはしなかった。


 ルナは、どうやらサムにティアやラーミナほどには強い敵愾心てきがいしんを持っていない様だ。

 かといって、同情している訳でもない。

 ただ単に、興味がある。そんな感じの視線をサムへと向けている。


「さぁて、どうだろうな。オレはオークだし、オークは暗黒神テネブラエが作り出した魔物、光の神ルクスの眷属であるお前ら人間とは敵対することを定められた種族だからな。第一、オレが善良なオークだと言ったところで、何の証明にもならんだろうし、あのチビが見てないところで悪さをしているかもしれんぞ」

「ダガ、他ノおーくト考エ方ガ違ウノモ事実ダ」


 とぼけた様な口調のサムを弁護したのは、ボスオークだった。


「コイツ、さむハ強イおーく。俺様ト戦ッテ互角ダッタコトモアル。ダガ、オカシナおーく。人間ミタイニ、畑ヲ作ッタ」

「オークが、農業を? 」


 ルナは、琥珀色の瞳の中に、強い好奇心を輝かせた。

 魔術師としての探求心が芽生えたらしい。


「それは、本当ですか? 」

「……。種を植えてみただけさ」


 サムは、ぶっきらぼうにそう答える。

 好奇の視線を遠慮なく向けられていることが不愉快である様子だった。


「ちょと、ルナ!? アンタまで、このオークを生かしてやろうなんて、言わないでしょうね!? 」


 ティアが、警戒するような声をあげる。

 その両足には、サムが村で見逃した少女がしっかりと抱き着いていて、ティアがレイピアをサムの心臓へと突き立てることを阻止している。


「あー、もう! 離れなさいよ! 魔物退治は、私たちの大事なお仕事なんだから! 」


 ティアはそんな少女にうっとうしそうな声を向けるが、しかし、幼い少女を無理やり振り払ったりする様な乱暴なことはせず、困ったとイライラが入り混じった様な表情をしている。


「私は、反対だ」


 女剣士のラーミナは、刀を構えたまま、淡々と、怜悧れいりな口調で言う。


「オークは魔物だ。魔物である以上、我々人間との対立は避けられん。例えこのオークが何の罪も犯していないのだとしても、これから先のことは分からないし、第一、村で騎士や兵士を殺し、村人をも手にかけた一味の仲間だ。後日に災いの種を残すべきではないし、山賊だったというだけで、殺すのには十分な理由になる」

「ま、待ってよ、お姉ちゃん! 」


 ルナは、ラーミナに抗議する。

 髪の色も瞳の色も同じ2人は、姉妹である様だった。


「農業をしようとするオークだなんて、聞いたことない! このオークを研究すればきっと、今までにない発見が! 」

「バカを言うな! 研究も大事かもしれんが、まずは、人々を守ることが最優先だ! 」


 新たな言い争いが始まる中で、サムは、いつの間にか最後の1人、赤毛の魔術師がすぐ近くまでやって来ていて、何を考えているのか分からない、眠たそうな目で自分を眺めていることに気がついて驚いていた。


「変なの」


 赤毛の魔術師は短くそう呟くと、サムから関心を失ったかのように視線をあさっての方角へと向けた。


「あー、もぅっ! 分かったわよ! 」


 混沌としてきた状況を吹き飛ばしたのは、ティアの叫び声だった。


「そこの2匹! ボスは見逃せないから倒す! こっちの方は奴隷にして私たちのところで働かせて監視する! いいわね!? 」


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