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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第8章「勇者」

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8-3「影」

8-3「影」


 ティアもサムも、一瞬、ぽかんと呆けた様な顔をしてしまう。

 霧の中には相変わらず何も見えず、そこには何もないとばかり、2人はそう思っていたからだ。


 だが、聞こえて来た悲鳴は、空耳ではなかった。

 ティアとサムが同時に気づいたのだから、間違いは無いだろう。


「みんな、起きてっ! 」


 ティア自身のレイピアのつかに手をかけながら立ち上がり、そう叫んでいた。

 ほんの少し遅れてサムも立ち上がり、

 ティアとサムに聞こえた悲鳴は、明らかに一行の誰かによるものではないからだった。


 悲鳴の声は、何というか、人間っぽい声ではなかった。

 キーキーと甲高い、不快な印象の声だ。


 その声に、サムはなんだか聞き覚えがある様な気がした。


 ティアの声にまず反応したのは、ラーミナとリーンだった。

 2人は寝袋の中から飛び出すと、ラーミナは枕元に用意していた刀を抜き、リーンは姿勢を低くしたまま周囲に目と耳をらした。


 ルナとバーンは、反応が遅れた。

 ルナはまだ夢の中にいるようでのんきな顔で眠りこけ、バーンは起き出してはきたものの、状況がのみ込めていないのかきょとんとしている。


 一行の戦闘態勢がまだ整わないうちに、霧の向こうで、何かが動いた様な気がした。


 それは、3つの影だった。

 その影が霧の中をさっと横切ったかと思った瞬間、ティアとサムの胸甲に、カツンと何か軽いものが命中した。

 3つの影から投げつけられた何かはもう1本あったが、それはラーミナがドワーフからゆずり受けた名刀で弾き落とした。


 それは、どうやら小型の投げナイフである様だった。

 胸甲が防いでくれたが、胸甲がナイフを弾いた直後、かすかにただよった臭気しゅうきから、そのナイフには毒か何かが塗られていると分かった。


 影は、再び霧の中に姿を消した。


「みんな、焚火たきびの周りに! 明かりを奪われたらまずい! それと、何か盾になりそうなものを! 」


 夜間、しかも深い霧で包まれているという状況で、焚火たきびの光を失ったら一行になす術はない。

 4人は焚火たきびの周りで円陣を組み、霧の中から攻撃をしかけてくる影から身を守るために、荷物の中からナイフを防げそうなものを適当に手に取った。


 ティアは専用のバックラーがあるからそれを、リーンは食事を用意するのに使っているなべを手に取った。

 ラーミナは最初の攻撃を剣技で防いだ様に刀だけで対処するつもりらしく油断なくかまえをとり、サムは自分の巨体を隠せる様なものが何も無いのと、一行の中ではもっとも重装備の鎧を身に着けているので、むしろ自分が他の仲間たちの盾となるくらいのつもりで仁王立ちし、戦棍メイスをかまえた。


 そして再び、霧の中で3つの影がうごめいた。

 同時に、3つの投げナイフが一行に襲いかかる。


 1本はティアがバックラーで受け流し、もう1本はリーンがなべで受け、3本目はサムの首近くの鎧に当たって落ちた。


 サムは、他の仲間の盾になろうと考えていたが、影から放たれたナイフの狙いの正確さに思わず身震いしていた。

 もう少しズレていたら、ナイフは鎧の隙間を貫いていたかもしれないからだ。


 その時、ようやくルナとバーンが起き出してきた。

 ルナはまだ寝ぼけている様子だったが、バーンは少しだけ状況を把握はあくできたらしく、ルナの手を引いて一行の輪の中に入る。


 再び霧の中に影がうごめき、ナイフが飛んでくる。

 どうやらルナとバーンを狙った様だったが、ラーミナが2本を叩き落とし、1本は素早くルナとバーンが動いたおかげで命中しなかった。


 ようやく一行の全員が戦闘態勢を整えたが、しかし、反撃に転じることは難しかった。

 周囲は相変わらず深い霧に包まれており、焚火たきびの光が及ぶ範囲から外側は何も見えない様な状態だったからだ。


 霧の中には、一行を攻撃しようとする者たちが確かに潜んでいる。

しかし、その居場所が分からなければ、対処のしようが無かった。


「リーン、あんた、炎の魔法は使える? 」


 霧の中に目を凝らして警戒しながら、ティアは声だけでリーンに確認する。

 リーンは、鍋を両手でかまえて自分の身体を隠しながら、こくんとうなずいた。


「少しなら」

「なら、バーンと交替して、まきにどんどん火をつけて! そしたら、それを周りに適当にぽんぽん放り投げる! そうすれば少しは明るくなるはず! 」

「分かった」

「それから、ルナは解毒の準備! ナイフに毒が塗ってある! すぐに応急処置できるように」

「わ、分かりました! 」

「あとのメンバーは全員周囲を警戒! 焚火たきびを消されたらお終いだけど、全員、ナイフに注意して! 」

「承知」「お、おう! 」「やってみます! 」


 次々と出されるティアからの指示に応え、一行はすぐに動き出した。


 その間にも、霧の中の影は4回目のナイフによる攻撃を試みてきたが、四方を油断なく警戒していた一行はその攻撃を防ぐことに成功した。


 そうして時間を稼いでいる間に、リーンは焚火たきびのために用意されていたまきに次々と火をつけ、一行が作った円陣の隙間から、周囲にどんどん投げていく。


 霧で視界がほとんどきかないというのは変わらなかったが、少なくとも、周囲に放り投げられたまきの炎は、霧の中に潜んでいる影の姿をあぶりだしてくれた。

 まきを燃やす炎の光が影たちの陰影いんえいを霧の中に浮かび上がらせ、影たちが今どこにいるのか、どう動いているのかが一行にも分かるようになった。


 影たちは、自分たちの位置がバレてしまったことと、これまでの攻撃が一行に通用しなかったことから、攻撃方法を変化させてきた。

 3つの影は霧の中から飛び出すと、一行に向かって一気に飛びかかって来たのだ。


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