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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第6章「サクリス帝国」

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6-31「出陣」

6-31「出陣」


 エフォールの陣営は、今、はっきり言ってかなりまずい状況だった。


 帝都ウルブスを掌握しょうあくしてはいるものの、イプルゴスの拘束に失敗し、皇帝の救出も実現できなかった。

 皇帝という権威を得られなかったせいで、エフォールの陣営の求心力は小さくなり、政治工作、宣伝の面でイプルゴスに大きく後れを取っている。


 すでに、東部の帝国軍第3軍団、西部の第5軍団が、イプルゴスの陣営につくという話まで届いてきている。


 エフォール将軍の足元は大きくぐらつき、今にも、いや、すでに崩れ始めているという感覚さえあった。


 そんな状況で、エフォール将軍が出陣すればどうなるか。


 エフォール将軍が帝都を見捨てて「自分たちだけで逃げ出した」という悪評が広まりかねなかったし、ただでさえ動揺を始めている人心は、取り返しがつかないほど乱れるだろう。

 加えて、帝都を守備する兵士が手薄になるということで、最悪の場合、イプルゴスに扇動せんどうされた民衆が蜂起し、帝都を占拠するかもしれない。


 もしそうなれば、エフォール将軍の軍隊がいかに精強であっても、敗北は確実だった。

 根拠地を失い、補給も補充のあてもなくなった軍隊が勝てたためしなど無いのだ。


 それは、イプルゴスによる帝国支配の実現と、それに反対するテナークスをはじめとする人々の終焉しゅうえんを意味している。

 帝国の実権を完全に掌握しょうあくすれば、イプルゴスは自身の支配体制を盤石なものとするために反対派を粛清しゅくせいし、帝国中で多くの犠牲者が生まれることになるかもしれなかった。


 だが、エフォール将軍が言う様に、このまま帝都ウルブスに籠城したとしても、勝ち目は小さかった。

 帝都の人心は乱れており、エフォール将軍の下で一枚岩になっているわけでは無い。

 いつ裏切り者が出て、敵軍を城内へと導きいれるかも分からなかった。


 何よりの弱点は、帝都ウルブスが帝国最大の「都市」であるという点だった。


 そこには多くの人々が暮らしており、日々、大量の物資を消費している。

 そして、都市というものは、常にその大量の物資の供給を受けることができなければ成立しないのだ。


 帝都ウルブスは、そういう面で、よくできた城塞であり、都市だった。

 巨大な湖に面したウルブスは陸路と水路の両方から物資の補給を受けることができるため、外敵が侵攻してきても容易には包囲されることがない。

 帝国という巨大な国家の特徴を生かした構造をしているのだ。


 だが、エフォール将軍の陣営には、帝都に物資を送り込んでくれる「外部」が存在しなかった。

 帝国貴族の出身ではなく、平民出のエフォール将軍には固有の領地という基盤は無かったし、将軍に協力している貴族たちの領地だけでは、帝都の数えきれない民衆を養い続けるだけの物資を供給することも難しかった。


 物資の不足する辛い籠城戦となれば、ただでさえ一丸となることができていない帝都の防衛は、ほんの少しのほころびで破綻はたんしてしまうだろう。


「今を乗り越えなければ、長期戦など戦うことはできません。目の前に迫りつつある敵を打ち倒すことができれば、その勝利が次につながり、イプルゴスを倒すことにもつながりましょう。現状が困難な状況にあるからこそ、1つの勝利で状況を打開できる望みがあるのです」


 エフォール将軍はそう言って見せると、自信ありげな笑みを見せる。


 将軍は、この困難な状況を前に、あくまで勝ちに行くつもりでいる様子だった。

 彼は、大きな賭けに出ることにしたのだ。


「マザー・テナークス。それほど長い期間、帝都を留守にすることはしません。出陣してから数週間のうちに、第3軍団と第5軍団を打ち破って凱旋がいせんいたします。先生には、その間の帝都の人心掌握じんしんしょうあくをお願いしたいのです」


 テナークスは、自身の方をまっすぐに見すえながらそう言うエフォール将軍を見つめ返しながら、再び生唾をごくりと飲み込んだ。


 テナークスは、すぐには何も言うことができなかった。

 だが、しばらくしてから、自身も覚悟を決めた様子で、唇を引き結びながらエフォール将軍にうなずいて見せる。


「分かりました。帝都のことは、お任せください。できる限りのことをいたしましょう」

「かたじけない」


 エフォール将軍はテナークスのその言葉に、深々とこうべを垂れて感謝の意を示した。


 サクリス帝国の命運を決める重大な決定が下されると、それまで、事の成り行きを固唾かたずを飲んで見守っていた一行だったが、まだ食べきっていなかった食事を大慌てで口の中にかき込み始めた。

 急に何をし始めるのだろうと、そして何てお行儀が悪いのかと、緊張した表情のままのテナークスが呆れた様な表情で一行を眺めていたが、一行は少しも気にせず、用意された食べ物をそれぞれの身体の中に押し込んだ。


 そして、ティア、ラーミナ、ルナ、リーン、サムは、一斉に席を立った。


「エフォール将軍! ぜひ、お供させてください! 」


 口火を切ったのは、いつもの様にティアだった。


「帝国がこんなことになっているのは、私たちのせいでもあるんです! 何か、少しでもお役に立たせてください! 」


 ティアに続いて、ラーミナ、ルナ、リーン、サムが、口々に意気込みを述べる。


「帝国の騒乱が早く片付けば、それだけ諸王国にとっても有利となります。ぜひ、私たちも働かせてください」

「戦いはうまくできませんが、回復魔法で兵隊の皆さんを1人でも多く救って見せます! 」

「私、火の魔法しかうまく使えない。けど、きっと役に立つはず」

「俺は魔物だが、その分タフだ。宮殿の時みたいに、突破口を開くのに使ってくれ」


 だが、エフォール将軍は、一行に向かって首を左右に振ると、穏やかな声で一行の申し出を謝絶した。


「お気持ちはありがたい。しかし、あなたたちには、他になさねばならないことがあるはずだ」


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