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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第6章「サクリス帝国」

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6-30「難航」

6-30「難航」


 ティア、ラーミナ、ルナ、リーン、そしてサムの一行は、イプルゴスによるクーデターを打ち崩すことに成功したものの、鬱屈うっくつとした日々を送っていた。


 イプルゴスは取り逃がしてしまうし、帝国は混乱状態で、聖剣マラキアのことも、サムがオークに変えられているということについて集中して取り組むことができず、成果も上がっていないからだ。


 それに加えて、帝国中に自分たちについての様々な流言飛語が飛び交っていた。

 その中にはイプルゴスが流した情報である、「皇帝を弑逆しいぎゃくした実行犯はニセ勇者」というものもあったが、中には、「女剣士が切り殺した」「女魔術師が呪い殺した」「肌が継ぎ接ぎの人造人間が魔法で殺した」といった風評もあり、「エフォール将軍に協力していた魔物が食い殺した」などというものまであった。


 一行は実際には陰謀を阻止するために全力を尽くしたのにもかかわらず、散々な言われ様なのだ。


 これは、イプルゴスの宣伝工作がうまくいっているという証拠でもあり、また、混乱の中で、無責任な流言飛語が無秩序に広がりつつあるということでもあった。

 一行にとって、面白いはずがない。


 エフォール将軍が帝都ウルブスを掌握した直後は、帝都も平静でいたが、イプルゴスが放った将軍と一行に対する誹謗中傷ひぼうちゅうしょうに根差した風聞と、憶測おくそく交じりに広まったデマによって、騒々しくなっている。

 その上、イプルゴスに味方した第3軍団と第5軍団が帝都に侵攻してくるという噂が、恐らくはイプルゴスの手回しによって広まりつつあり、人々の混乱は深まっている。


 エフォール将軍も、マザー・テナークスも、多忙だった。

 敵の攻撃に備えて防御態勢を強化するためや、少しでも味方を増やすための政治工作で、2人とも大忙しだった。


 エフォール将軍は苦手と公言している政治に取り組むためにいつも険しい顔をしていたし、老齢のテナークスは体力的にも厳しいのか、疲れた顔をしている。


 それでも、2人は一行に対してできる限りの力を貸してくれていた。


 聖剣マラキアの破片を使って聖剣を修復できないかどうか、帝都にいた鍛冶師たちに声をかけていろいろと調べてくれているし、サムにかけられているオークに姿を変えられてしまう魔法について、魔法学院が総力をあげて調べ、解除方法を探っている。

 それでも、帝国が混乱した状態であるため、一行が辛い旅の先に期待していたほどの成果は上がっていない。


 聖剣マラキアの作り方を知っている鍛冶師は1人もいなかったし、魔法学院の優れた魔術師たちが真剣に調べても、サムにかけられている魔法の解き方は分からなかった。


「本当に、ごめんなさいね。あなたたち」


 ある日の食事の席で、一行と一緒に昼食をとっていたテナークスは、悲痛そうな表情を浮かべながらそう言って頭を下げた。


「無理を言って、議会にまで出てもらったのに、それをまんまとイプルゴスに利用されて。それどころか、サムさんにかけられている魔法を解くことさえできないなんて」

「そ、そんな、テナークス先生、気にしないでくださいよ! 」


 鍋のままスープをごくごくと飲んでいたサムは、疲れ切って憔悴しょうすいしているテナークスの弱弱しい言葉に慌てて体の前で手を振った。


「俺はもう、20年もオークでいるんです。自分にかかっている魔法がとんでもなく厄介なものだっていうのも、よく分かっていますから。先生たちが必死になって調べてくれているのに感謝しているんです」

「そうよ、先生! それに、悪いのは全部、イプルゴスの奴なんだから! 」


 サムの言葉に続いて、ティアがそう言いながら立ちあがった。


「自分が権力を握るためにきれいごとを並べて! フォリーや魔物とまで手を組んで! ぁあ! あいつが目の前にいたら、100回くらいぶん殴ってやるのに! 」


 ストレートに怒りをあらわにするティアに、食事の手を止めていた他の少女たちもうなずいている。

 テナークスは少しだけ気が軽くなったようで、「ありがとうね、みんな」と言い、少し涙ぐみながら顔をあげた。


 その時、唐突に一行が食事をとっていた部屋の扉がノックされた。

 テナークスの秘書としての役割もあるバーンがすぐに立ち上がり、訪ねてきた客を出迎える。


 バーンに案内されて姿を現したのは、エフォール将軍だった。


 物々しいいでたちだ。

 全身を板金鎧プレートメイルで包み、その下には鎖帷子チェーンメイルと衝撃を緩和するための綿入れを着込んでいる。

 腰には上質な剣を吊っていて、右脇にかぶとを抱いていた。


「エフォール将軍。どうなされたのですか? 」

「マザー・テナークス、すでに、第3軍団と第5軍団が動き出していることは、ご存じでしょう」


 驚いた顔で用件をたずねたテナークスに、エフォール将軍はそう言うと頭を下げた。


「私はこれより、両軍団を迎え撃つために出陣いたしたく思います。本日は、そのご報告と、別れのご挨拶にうかがいました」

「そ、それは、困ります将軍! 」


 エフォール将軍のその言葉に、テナークスは血相を変えた。


「ただでさえ、帝都は騒乱に陥りつつあります。そのような中で、将軍が出陣してしまっては、いよいよ民心が乱れます! どうか、ここにおとどまりください! 」


 しかし、エフォール将軍は首を左右に振って、テナークスの申し出を拒絶する。


「民心が混乱しているからこそ、です。この様な状態では、いくら帝都の堀が深く、城壁が高かろうと、籠城戦をして勝ち目はありません。……それに、私は攻城戦や籠城戦は苦手でして。慣れ親しんだ第1軍団と共に、野戦にて敵を打ち破りたく思います」


 顔をあげたエフォール将軍のはっきりとした物言いに、テナークスはごくり、と生唾を飲み込んだ。

 将軍はすでに、帝都を出て戦いを挑むことを固く決意している様子だったからだ。


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