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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第6章「サクリス帝国」

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6-27「宮殿の戦い」

6-27「宮殿の戦い」


 イプルゴスの命令を受けたその手勢は、まず矢を放つと、剣と盾を構えた兵士たちを前面に押し出して突撃を開始した。


 エフォール将軍の部下たちは飛んでくる矢を壁の様に並べた盾で防ぎ、それから、こちらからも矢で反撃しつつ、向かってくるイプルゴスの手勢へと雄叫びをあげながら向かって行った。


 一番前に出ていたティアは、危なかった。

 数本の矢が直撃するコースで飛来したからだ。


ティアは自分自身の短剣で1本は切り落としたが、ルナとバーンが慌てて防御の魔法をかけなかったら2、3本は命中していただろう。


 ティアは少しもひるまなかった。

 エフォール将軍の部下たちが前に出て自分と並ぶと、彼らと一緒になって自分もイプルゴスの手勢へと向かって行く。

 その姿を見てラーミナがティアを援護するべく突進し、ルナ、リーン、バーンの3人の魔術師たちは、味方を支援するために魔法の呪文を唱え始める。

 突然始まった戦いに少し呆然としていたサムも、慌てて少女たちの後を追った。


 両陣営の兵士たちが激突し、鋼と鋼がぶつかり合う激しい音が響き渡り、火花が散った。


 戦いは、一見してエフォール将軍の側が優勢な様だった。

 同じ人数ではあっても、エフォール将軍自らが手塩にかけて育て上げてきた精兵たちだ。

 その剣術は巧みであり、エフォール将軍の部下たちが作った隊列が、イプルゴスの兵士が作った隊列を後退させていく。


 その様子を見て、イプルゴスはすぐにきびすを返すと、護衛に数名の兵士だけを連れて、謁見えっけんの間の奥へと逃げはじめた。


「弓兵、イプルゴスを狙え! 」


 それに気づいたエフォール将軍が近くにいた弓兵に向かってそう指示を出し、数名の弓兵が急いでイプルゴスを狙撃したが、放たれた矢はイプルゴスの護衛の兵士が構えた盾によって防がれてしまった。


(こ、このままじゃ、奴に逃げられちまう! )


 オークであるサムは人間たちよりずっと背が高く、イプルゴスのマントが物陰に消えていく様子もよく見えた。

 相手が人間だということで手加減し、なるべく取り押さえる方向で戦っていたサムだったが、肝心のイプルゴスに逃げられてしまうわけにはいかない。


 サムは一度大きく息を吸い込み、それから、周囲を威圧する様な咆哮ほうこうをあげると、ひるんだイプルゴスの手勢たちを跳ね飛ばしながら突進した。


 オークの突進にイプルゴスの弓兵たちから射撃が集中したが、サムの強靭な毛皮はそれを受けつけず、飛んできた矢は弾かれてバラバラと落ちていく。

 間合いを詰めたサムは、弓兵たちが次の矢をつがえる間を与えず、その丸太の様な腕を振り回して弓と弩を叩き落としてしまった。


 武器を奪われ、目の前に立ちはだかったオークの姿に恐れおののき、イプルゴスの弓兵たちが金縛りに遭った様に動けなくなっている間に、戦いの決着はついていた。

 サムがイプルゴスの兵士たちが作った隊列にこじ開けた穴からエフォール将軍の部下たちが敵の隊列の突破を果たし、そこから一気に敵の態勢を突き崩してしまったからだ。


 イプルゴスの手勢は次々と討ち取られ、その様子を見て、イプルゴスがいつの間にか消えてしまっていることにも気がついたイプルゴスの兵士たちは、続々と武器を捨てて投降を申し出た。


 数名の兵士たちはイプルゴスの古くからの部下であったらしく徹底抗戦を試みようとしたが、その他の兵士たちのほとんどは傭兵や食いつめたごろつきなどで簡単に降参してしまい、抵抗しても無駄なことを悟ったその兵士たちも武器を捨てざるを得なかった。


「イプルゴスは!? 」

「奥に逃げていくのが見えた! 」


 イプルゴスの手勢を撃破して追いついてきたティアに聞かれたサムは、イプルゴスが姿を消した謁見えっけんの間の奥、皇帝の居室へと続く通路を指さした。


「なら、すぐに追いかけましょう! エフォール将軍、私たちが先行します! 」

「分かった。私も、この者たちの武装解除が終わればすぐに向かう! 」


 エフォール将軍がうなずくのを確認したティアは、他の仲間たちに目配せをすると、すぐにイプルゴスの後を追って走り始めた。

 その後に、ラーミナ、ルナ、リーン、バーン、そしてサムが続く。


 イプルゴスが消えていった通路は、広い中庭に面した回廊になっていた。

 大理石で作られた円柱が等間隔で整然と回廊に並び、中庭には様々な花々が咲き乱れ、精巧な彫刻の施された大理石の噴水から絶え間なく水があふれ出ている。


 今がこんな状況では無かったら、それは、それは、美しい場所で、何も考えずにゆったりとくつろぎたくなる様な所だったが、一行はとにかく、脇目も振らずに走り抜けた。


 やがて、一行は1つの扉の前へとたどり着く。

 それは派手な装飾の施された扉で、サクリス帝国の国章が中央に刻まれている。


 ここはサクリス帝国なのだからその国章はいたるところで見られるありふれたものではあったが、扉の豪華さ、そして純金で作られた明らかに特別な細工は、その扉こそが皇帝の居室であることを物語っていた。


 周囲にイプルゴスの手勢の姿は無い。

 どうやら、謁見えっけんの間でエフォール将軍を迎え撃つために兵力をかき集めてしまったから、手薄になっている様だった。


 一行は皇帝の居室へと通じる扉にとりつくと、慎重に中の様子に耳を澄ませた。

 だが、扉は重厚な作りで、防音がしっかりしているのか、何の音も聞こえてこない。


 中の様子を知る手段は何かあったのかもしれないが、今はとにかく、時間に余裕がない。

 イプルゴスを捕らえ、皇帝を保護できなければ、エフォール将軍の力量をもってしても帝国中で起こる混乱には手間取ることになってしまう。


 ティアは「準備はいい? 」と視線だけで一行に問いかけ、聞かれた一行はそれにうなずくと、それぞれの武器を構えた。


 ティアは一行に分かる様に手のひらを見せ、指を1本ずつ折って「5、4、3、2,1」と数えると、思い切って扉を蹴り破った。


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