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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第6章「サクリス帝国」

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6-25「決起」

6-25「決起」


 イプルゴスに対して、決起する。

 そう決断したエフォール将軍の行動は、素早く、静かに行われた。


 将軍はまず、イプルゴスのクーデターに参加しなかった人々で、比較的中立的な立場であったことと、イプルゴス側の手数が不足していたことから拘束まではされていなかった有力者たちに対して、イプルゴスのクーデターへの批判と、魔物やフォリーと結びついているという事実を知らせる手紙を書き送った。

 第1軍団の兵力を投入すれば帝都ウルブスを制圧することは難しくはなかったが、その動きに帝都の人々がついてきてくれなければ、意味がないからだ。


 ただ、エフォール将軍は、サムこそが本物の勇者であるという事実は省いて伝えた。

 サムという名前のオークが帝国にいるということ自体、まだ多くの人々には知られてはいないことだったし、第一、「オークが勇者である」などと、簡単に信じられる人はまず、いないだろう。

 将軍自身、それはテナークスから直接伝えられたことだから信じるつもりになれたことなのだ。


 エフォールの手紙の中では、イプルゴスが主張した「ティアがニセ勇者である」という内容を否定し、「ティアこそが本物の勇者であると」いう風に書かれている。

 これはイプルゴスの主張の正当性を失わせるためには必要な「ウソ」だった。


 事実だからと言って、それをありのままに書いたのでは、かえって信用されないということもある。

 サムこそが勇者であるという事実は、まさにそうだ。

 この場合はとにかく、イプルゴスに対してエフォール将軍が兵権を用い、決起するという行動への人々の理解と同意を得ることが大切で、そのためにはイプルゴスとの主張の対立関係が明確であった方が伝わりやすい。


 それに、イプルゴスもまた、本物の勇者がオークに姿を変えられているという事実は話していない。

 諸王国への介入に賛成するテナークスをはじめとする有力議員たちを排除するためにはその事実だけがあれば十分だということもあったし、例えそれが事実であるのだとしても荒唐無稽こうとうむけいに思われる様な話をしてしまっては、自分が信用されないとイプルゴスにも分かっていたからだろう。


 嘘も方便、というやつだ。


 エフォール将軍は急いで何通も手紙を書き、それを、選りすぐりの兵士たちに持たせて、深夜の帝都に走らせた。

 選ばれたのは斥候などの任務の経験が豊富なベテランの兵士たちで、皆、隠密行動に長けている。

イプルゴスに気づかれない様に決起を進めるための人選だった。


 それから、エフォール将軍は、自身の配下であるサクリス帝国軍第1軍団の全将兵に対し、出兵に備える様に命じた。


 元々イプルゴスのクーデターを受けて、表面的には平時の態勢を維持していたものの心情的には覚悟ができていた第1軍団の兵士たちの反応は、素早かった。

 イプルゴスのクーデターを不当なものとして、エフォール将軍が動くのを待ち望んでいた者たちばかりだったのだ。


 戦闘態勢はまだ夜が明けないうちに整えられたが、エフォール将軍はすぐには兵士たちを出動させなかった。

 まずは、宮殿に監禁されてしまった老齢の皇帝を救出することが最優先であったからだ。


 サクリス帝国における皇帝の権力はさほど大きくはなかったが、それでも、国家元首としての権威の影響力は強かった。

 その皇帝を救い出してエフォール将軍の行動の正当性に御墨おすみつきをもらうことができなければ、この決起の大義名分が成立しない。


 イプルゴスの掌中しょうちゅうにある皇帝を救出するために、エフォール将軍は部下たちの中から特に精鋭を選び、100名の特別部隊を編成した。

 将軍はこの精鋭を率いて宮殿を奇襲し、皇帝を救い出すつもりだった。

 そして、皇帝を救い出した後に合図を送れば、副官が第1軍団の全軍を用いて帝都の制圧を実施する手はずになっている。


 エフォール将軍自身が直接指揮をとるこの部隊に、一行も参加することとなった。

 一行の参加が許されたのは、一行がこの事件の中心的な立ち位置にあるからだ。

 また、魔法が使える味方は少しでも多い方がいいという判断もある。


 全ての準備が整い、手紙を持たせた部下たちがエフォール将軍の行動に賛同する内容の返書を持って帰ってき始めると、将軍は100名の部下と一行とを率いて行動を開始した。

 まだ夜が明けきらないうちに宮殿へと接近を果たし、夜明けとともに急襲するのだ。


 夜明けが近くなってきて、イプルゴスの配下の兵士たちは疲労がたまっているのか、気が緩んできていた。

 未だに厳しい警備が続けられてはいたものの、あくびをし、居眠りをする兵士たちの姿が増えてきている。


 イプルゴスの配下の目を盗んで、エフォール将軍の部隊は宮殿へと接近した。

帝都に駐屯する第1軍団を指揮し、帝都を守護する立場にあったエフォールはその構造を熟知しており、巧みに敵の警戒を突破して見せた。


 それに、宮殿までに至る道の要所を警備している部隊の中には、エフォール将軍に指揮される第1軍団の部隊も多くあった。

 表面的には不干渉の姿勢を取っていたエフォール将軍の第1軍団に対し、イプルゴスは第1軍団の強大さと自身の手勢の少なさとを天秤てんびんにかけ、エフォール将軍が政治に不介入の姿勢を取っていたこともあったから、イプルゴスもエフォール将軍と第1軍団に手を出さなかったのだ。


 事前に伝令を受けて準備を整えていた彼らはそれぞれの持ち場でエフォール将軍たちを隠密裏に通過させ、何食わぬ顔で警備を続けた。


 宮殿の警備は、さすがに街中とは比較にならないほど厳重だった。

 臨時皇帝を名乗ったイプルゴスはすでにそこを自らの本営として定め、主力の手勢を率いて守りについている。


 どうやらクーデターを既成事実として認めさせるために方々に使者を出しているのか、人の出入りも激しく、辺りにはかがり火が煌々(こうこう)と輝き、明るかった。

 それでも、イプルゴス個人で用意できる手勢には限りがあるから、宮殿を占拠しているイプルゴスの手勢は500名ほどしかいない。


 500名しかいないと言っても、エフォール将軍が率いてきた兵士たちのおよそ5倍の兵力がいる。

だが、イプルゴスの手勢は昨日のクーデターの実行から夜通し守りについていたせいか疲労の色も濃く、そして、夜明けを前にして、ようやく暗闇に目を凝らさなければならない夜が終わる、と、気が緩み始めている。


 元より後戻りなどできなかったが、エフォール将軍は戦機だと判断した。


 数名の見張りを静かに始末して配置についたエフォール将軍の部隊は、夜明けを待ち、そして、日が昇るのと同時に、喚声かんせいをあげて一斉にイプルゴスの手勢へと襲いかかった。


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