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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第6章「サクリス帝国」

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6-18「実験室」

6-18「実験室」


 一行はフォリーの実験室へとたどり着くと、息を潜め、慎重に中の様子をうかがった。


 こちらの方が大人数ではあったものの、フォリーは強力な魔術師であって、一行の動きに気づかれてしまえば反撃してくるだろう。

 一行にとってその反撃は対抗することの難しい危険なものとなるし、そもそも、フォリーの実験のために捕まっているリーンがどうなるか分からない。


 フォリーの実験室は、なんとなく、病院の様な雰囲気だった。

 床も壁も天井も漆喰しっくいで平らに塗り固められ、魔法を使った照明がたくさん配置されて室内を明るく照らし出している。

 扉をうっすらと開けて中をのぞきこんだ時に、様々な薬品の入り混じった臭いがした。


 魔法学院の地下が封印され、そこで行われていた実験が全て中止とされるような危険な実験が行われていたフォリーの実験室は、一度全ての機材を廃棄されたらしく、ガランとしていた。


 そして、その中央にある実験台に、リーンが拘束されていた。

 地下のどこかから運び込んできたらしい実験台は古びたもので、その上に寝かされたリーンは手足を拘束され、身動きが取れなくされている。


 フォリーは、リーンを見下ろすようにして立っていた。

 その側には作業用の台車があり、その上には、様々な薬品や魔法のアイテムが並べられ、フォリーは薬品を体内に注射するための注射器を手に持ちながら、ニヤニヤとした気色悪い笑みを浮かべながらリーンを見下ろしている。


 フォリーはリーンに何かをしゃべっている様だったが、一行には何も聞こえなかった。


「ティア、どうする? 」

「そうね……。時間もないし、奇襲しましょう」


 扉の隙間から実験室の様子を確認したラーミナに問われて、ティアは一瞬だけ悩んだ後、そう結論を出した。

 反対の声はなかった。

 全員、1秒でも早くリーンを助け出したかったからだ。


 突入の順序は、バーン、ラーミナ、ティア、ルナ、そしてサムの順番となった。


 まずバーンが室内に入って魔法でフォリーを攻撃し、その間にラーミナが突撃してフォリーの首を狙い、それをティアとルナが援護する。

 手足に鎖があるために全速力で動けないサムは後から入り、最初の一撃が失敗したらフォリーになりふりかまわずに突撃して、リーンを助ける時間を作り出すという作戦だ。


 作戦を確認し終えると、それぞれ位置について、そして、突入するタイミングをはかった。


 一行は、はやる気持ちを抑えながら、慎重にチャンスを待った。

 そして、フォリーが一瞬、リーンから視線を話し、作業台へと顔を向けた。


 その瞬間、バーンは室内へと突入し、フォリーに向けて衝撃波を発生させる魔法を放った。

 頭の周辺に強烈な衝撃波を発生させることで、フォリーの視覚と聴覚を奪い、一行の突入に対処する術を奪うのだ。


 バーンの魔法が直撃し、フォリーがよろめく。

 そのフォリーに向かって、ラーミナが姿勢を低くしながら突っ込み、ティアとルナがラーミナの突撃を支援するために、身体能力を強化する魔法と、剣の威力を増す魔法をラーミナにかけた。


 床を蹴って跳躍し、一瞬の間に、ラーミナはフォリーとの距離を詰めた。

 フォリーは、ラーミナが剣を横なぎに振るおうとした時、まだ、視覚と聴覚を奪われたまま、意識を朦朧もうろうとさせて、彼女の接近にさえ気づいていない様だった。


 ラーミナの鍛えられた両手で振るわれた剣は、フォリーの皮膚を裂き、肉を断って、骨をも貫いた。


 フォリーの頭は、何が起こったのかを理解できていない様な表情を浮かべたまま、実験室の宙に舞って、床にぼとっと落ち、鮮血を垂れ流しながら、部屋の隅までごろごろと転がって行った。

 頭部と分断された身体は、数歩よろめいた後、どさりとその場に崩れ落ちる。

 その身体は、ビクン、ビクン、と痙攣けいれんしていた。


「リーン! 」


 バーンが、実験台に拘束されているリーンへと駆け寄った。

 自分の出番がなかったことにほっとしながら、サムは実験室の扉を窮屈きゅうくつそうに潜り抜け、実験室の中へと入る。


 連係プレーで、一撃でフォリーを倒したティア、ラーミナ、ルナの3人は、リーンの実験台の周囲に集まりながらお互いの手を叩いて、それぞれの動きを誉め、リーンを助け出すことができたことを喜んだ。


 リーンはと言うと、なぜか、実験台の上で暴れていた。

 その口は、一行に何かを伝えようとするかのように必死に動かされているし、リーンの表情もかなり切羽詰まった様になっているのだが、声だけが少しも出ない。


 どうやら、声を奪われてしまっている様だった。


「もう、大丈夫だよ、リーン! 声だって、すぐに何とかできるはずだから! 」


 実験台のリーンへと駆け寄り、リーンの拘束を解くために実験台を調べていたバーンは、リーンに安心させるような笑顔を見せた。

 しかし、リーンはかえって怒った様に激しく暴れ、何かを伝えようとするかのように口を動かし続けている。


「もう、リーン! 大丈夫よ、フォリーはもう倒したんだから! 」


 それは、ティアがなだめる様にそう言っても変わらなかった。


 そうして、バーンが実験台を調べ終え、リーンの拘束を解くと、リーンは勢いよく上半身を起こし、人差し指を突き出して一行の後ろの方を指さした。


 ようやく、一行も「何かあるぞ」と気がついて、その指さした方向を見る。


 そこには、つい先ほどラーミナの剣で首を飛ばされ、絶命したはずのフォリーの身体が、幽霊の様に立っていた。


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