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オーク35歳(♂)、職業山賊、女勇者に負けて奴隷になりました ~奴隷オークの冒険譚~(完結)  作者: 熊吉(モノカキグマ)
第6章「サクリス帝国」

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6-12「フォリー」

6-12「フォリー」


 イプルゴスのクーデターに抵抗できる者は誰もいなかった。

 その行動があまりにも素早かったことに加えて、クーデターが始まるまで誰もその事態を予想していなかったことと、そして何より、イプルゴスに同調する勢力が相当数存在したことが大きかった。


クーデターの中心地となった帝国議会では、イプルゴスに反対する議員らが追放、あるいは拘束された後、イプルゴスが老衰している現皇帝の代行として、臨時皇帝としてサクリス帝国の全権を掌握するための決議が行われた。

 これは、すでに反対派の議員が一掃された後であったために「全会一致」で可決され、即日、イプルゴスは臨時皇帝となった。


 そうして、帝国議会は解散されて、サクリス帝国におけるイプルゴスの独裁統治が開始されることとなった。


 議会で発言するべく壇上だんじょうに立っていたティアをはじめ、傍聴席で議会の進行を見守っていたラーミナ、ルナ、リーンの3人は、なす術もなくイプルゴスの手勢に捕まるしかなかった。


 相手が魔物であるなら躊躇ちゅうちょなく反撃できたのだが、人間の兵士たちが相手では、攻撃することは難しかったからだ。


 特別議員として会議に参加していたテナークスも、イプルゴスの兵士たちによって拘束され、魔法学院の敷地内にある自宅へと監禁されてしまった。

 テナークスは老齢に達した今でも優れた魔術師として知られていたが、少女たちと同じ様に、一切の抵抗を見せなかった。

 ただ、毅然きぜんとした態度で、監禁先の自室に押し込められるまで顔をうつむけずに堂々としていた。


 4人の少女たちも、魔法を封じる効果のある手枷をはめられ、連行された。

 ティアはイプルゴスが言うところでは「勇者をかたった大罪人」であり、数日以内に厳しい処罰が下されることとなっている。

 ラーミナ、ルナ、リーンも、ティアの仲間として同罪とされることが決まっていた。


 しかし、4人が連行されたのは、帝国で罪人が拘束される牢獄ではなく、魔法学院の地下だった。


 魔法学院の歴史は古く、その歴史の中で増改築を繰り返した結果、巨大な地下空間を持つようになっている。

 その理由の表立ったものは、「なるべく外部からの魔力の影響を排除して魔法実験を行うため」というものであり、実際、地下には多くの魔法実験のための設備が整えられ、魔法学院を最先端の魔法の研究機関の地位に押し上げている。


 だが、それはあくまで「表向き」だ。

 実際には、魔法学院の地下では、世間に公表できない様な危険な魔法実験が行われることがあった。


 それは、50年前に魔法学院内でのある事件によって大きな改革が行われて以来、禁忌きんきとされてはいるものの、今でもそれらの危険な魔法実験に使われた設備はそのまま残されている。


 そんな後ろ暗い歴史がある魔法学院に、どうして自分たちが連れてこられたのか。

 少女たちは不思議に思っていたが、その理由は、すぐに明らかなものとなった。


 かつて魔法実験に使われる実験動物が押し込められていたおりの中に閉じ込められた一行の目の前に、1人の魔術師が現れたからだ。


 それは、年齢不詳のひょろ長いやせ型の男性で、長くのばした白髪と、白いひげを持ち、漆黒のローブに身を包む、口元に常に他人を小馬鹿にしている様な笑みを浮かべた不気味な雰囲気の魔術師だった。


 その手に持っている魔法の杖も、他の魔術師が使うものと比べて不気味なものだった。

 先端に魔物の骸骨があしらわれた杖で、空虚な魔物の眼下の中で、どす黒い魔力が渦を巻いている様だった。


「フォリー……っ! 」


 その魔術師の姿を見て、ティア、ラーミナ、ルナの3人は警戒する様に双眸を細めただけだったが、リーンはそう呟く様に言うと、普段表情をあまり変えない彼女にしては珍しく、怒りや憎しみの感情をあらわにしながら睨みつけた。


「ふん、口の悪い「モルモット」だ。私のことは、ご主人様と呼べ。もしくは……、「創造主」と呼ぶのだな」


 自身を睨みつけるリーンに、フォリーは不遜ふそんな笑みを返す。


 ティアは、そのフォリーという名を知っていた。

 ラーミナもルナも、その名を知っている。


 50年前、ここ魔法学院の地下で「生命を作る」実験を許可なく行い、そのあまりに思い上がった行いと危険思想から魔法学院から永久追放処分を受け、魔法学院で行われていた危険な魔法実験が禁忌きんきとされるきっかけを作った魔術師。

 リーンとバーンを生み出した人物だった。


「ちょっと、アンタ、50年も前に魔法学院から追放されたはずでしょう!? どうして、こんなところにいるのよ!? 」


 ラーミナ、ルナとともに、リーンをかばう様に前に出たティアがそう言うと、フォリーは4人の少女たちを嘲笑あざわらった。


「イプルゴス殿が呼び戻してくださったのだよ。我に力を貸せ、とな。……キミたち4人は、その見返りというわけだよ」


 鉄格子越しで、しかも少女たちが魔法を使えない様にされているということも知っているのか、フォリーは上から目線だ。


「見返りって……、何をするつもりよ!? 」

「もちろん、昔、愚かな無能者どもによって禁止された、「命の研究」だよ」


 ティアの言葉に、フォリーは寒気がする様な笑みを浮かべた。

 その目は、少女たちを「人間」としてではなく、「実験動物」としてしか見ていない様だった。


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