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魔界最強大魔王、地上界日本ではおにぎり君に歯が立たない

作者: 明石竜

「この世界にはもはや吾輩よりも強い奴はいないようだな」

 討伐に来た屈強な勇者達をあっさり蹴散らして来たとある魔界の大魔王として恐れられている

男は退屈そうに呟いた。

「あくまで伝説ではありますが、地上界の日本という場所にとんでもなく強い奴がいるそうですよ」

 手下の一人が伝える。

「そいつは良いことを聞いた」

「あと、日本はおにぎりという米粒に黒いものを巻いたおにぎりという食べ物が美味いそうです」

「それはますます興味深い。日本とはどんな形をしてるのだ?」

「こんな形の島らしいです」

「ほほう。ちょっと行ってくるか」

 手下が形を描いてみせると大魔王は即、地上界へ向かいその形とよく似た島に降り立った。

「なんか妙な建物だな」

 そして眼前にあったコンビニに入店した。


「ひょっとして、これがおにぎりという食べ物か? 確かに美味そうな見た目だな」

 そう呟きながら商品棚をじーっと眺めていると、

「外国の方ですか? よかったら奢りますよ」

 着物姿で髷を結った男に声を掛けられた。

「そいつはありがたい」

 会計後、二人は店外へ。

「俺、おにぎりみたいな顔してるからおにぎり君っていう愛称で呼ばれてます」

「確かに感じが良く似ておる。このおにぎり噂通り美味い! ところでおにぎり君。

良い体つきだな。吾輩と戦っていただけるか?」

「ダメっす。一般人に手を出しちゃいけないんで」

 おにぎり君がおにぎりのような柔和な笑みでお断りすると、

「吾輩は一般人ではなく最強の大魔王だ!」

 大魔王は怒り顔でおにぎり君の顔面目掛けてパンチを繰り出す。

「危ないっすよ」

 あっさり受け止められ、身動きを封じられてしまった。

「まいった。降参だ。なんという力だ。貴様何者だ?」

「力士です」

「そうか。お前が新たな魔界の大魔王になれ!」

「お断りします。角界の将来を背負ってますから」

 おにぎり君は、おにぎりのような柔和な表情で丁重にお断りした。


 大魔王は魔界に帰った後、

「噂通り、日本には力士というとんでもなく強い奴がいた。今まで戦って来たどんな

勇者よりも小柄なのに、全く歯が立たなかった。あとおにぎりも美味かった」

 大魔王は強張った表情で手下達にそう伝えたのだった。


            ☆


「場所前にデー〇ン閣下みたいな仮面のおっさんに絡まれたんっすけど良い思い出になりました」

 2021年初場所前、おにぎり君はインタビューで楽しそうに答えた。


 そして春場所後、直近三場所の好成績が評価され見事、大関に昇進したのだった。


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