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無名世界の理  作者: 仁藤世音
第一章 出会い
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刺客2

 家についても重苦しい気持ちで、呼吸の一つ一つが妙に実体を持っていた。床に座り込みテレビを垂れ流し、ポストに入っていた管理人からの『ドアの損害については気にしなくていい』という書面を眺めた。スマホには葛城達から何らかのメッセージが届いていたが開く気にはなれない。テレビは早速、今日の奇妙な暗殺未遂が報じられていた。そのニュースには「一人が死亡、二人が重傷」という奇妙なテロップが付いていた。俺は生きているのに。アナウンサーの言葉は環境音と化し、脳をただ通過し始めた。しかし眼だけはじっとテレビに張り付いている。迂闊に視点をずらせば、部屋の至る所にあるオゼのグッズが目に入る。今の俺を何よりも疑心暗鬼に陥れる我がアイドル……。


「あぁ!!!」と、小さく怒鳴った。飯も食わずにベッドに突っ伏し、オゼと会話した夢を思い出していた。刺客が二人、俺を殺しにくる。そんな夢を信じるという考えすらなかったのに、急に現実味を帯びた。もう一人、また俺を殺しにくるのだろうか? 今回は運がよかっただけだ。もし大学に来たら、街中で襲ってきたら、きっと死ぬ。

 浦中はオゼの名前を出した。そこに何かを見出そうとしている、あるいは既に見出している証だ。崎谷は再三行くなと言った。しかし俺は公演に行き、そして何かが確かに起きたのだ。それは確実だ。


「オゼは非凡なスーパースターじゃないのか? あの夢はなんなんだよ……。崎谷は……何か知ってるのか?」

「そうだよ。知ってる」

「崎谷……」


 鍵は閉まっているのに、崎谷がベッドの隣で悲しそうな顔を浮かべて正座している。それでも何も思わなかった。無意識に腕が崎谷の首を絞めた。幻覚か本物かも分からないコイツを殺せば、全てが夢の如く消え去るんじゃないか。そう思ったような気がする。首を絞める力を強めても、崎谷は抵抗しなかった。


「お前さえいなければ」

「…………」


 白い肌は一層白く、少しだけ口を歪めていた。満身の力を込めると、腕はグッと奥に突き抜けた。崎谷の首は生首のように落ちかけて、胴体ごと砂になってどこかへ流れてしまった。


「ハ、ハハ。やっぱり幻か……。ハハ……」


 また崩れ落ちるように枕に潜り込んだ。起きているのか寝ているのか判然としない意識の中を、延々と彷徨い続け、次に意識を取り戻したのは日の出前だった。部家の灯りは着きっぱだし、テレビの音も聞こえる。身体を横に向けると、そこにまた(まだ?)崎谷がいた。


「また殺されにきたか」

「……謝りに来たの。本当のことを話せなかったこと、危険な目に遭わせたこと」

「フン、やっぱりお前のせいってことか」


 テレビも部家の電気も消して、俺はまた眠りにつこうとした。でも眠気はもうなかった。三十分ほどもぞもぞした後で起き上がり、シャワーを浴びて服を着替え──。それでもやはり座り込む崎谷の幻影があった。同じ場所で正座して、目だけこっちを向いていてとても不気味だった。まず箱ティッシュを掴み、黒い艶やかな髪を下げる頭をポンポン叩いた。次に柔らかそうなほっぺをツンツン突き、掴んで引っ張ってみた。


「……向こうに座って」


 崎谷は言われるがまま、食卓の前に座った。段々意識が鮮明になるにつれて嫌な予感が強くなっていく。朝ごはんを二人分用意して卓に置いた。


「いただきます。お前も食べていいよ」

「本当に? 悪いよ」

「もう作っちゃったんだから今更それは無しだ」


 よく噛んで食べたとは言えない。掻っ込むように食べた。そして十分ほど遅れて卓の皿は全て平らげられた。もうこれは現実らしい。既に朝陽は昇り、少しだけ嬉しそうな崎谷を照らしていた。


「お前、俺の幻覚じゃなくて本物なの?」

「え、今……? そうだよ」

「一体どうやって──」


[ピンポーーン]


 インターホンが鳴った。昨日のことを思い出すと玄関先に恐怖さえ感じるが、今日は安全だった。訪ねてきたのはどうやら浦中だ。詮索されても厄介なので崎谷を隠し、早朝の訪問者を家に上げた。浦中は昨日と同じ格好で徹夜だったと思われた。その割にやたらと上機嫌で、ベッドに座り込んで馴れ馴れしく「昨日はお疲れ!」などと言うのだ。当然不快になったがそんなの意にも介さない様子だ。


「何の用ですかこんな時間に」

「それですよ、佐久間くん。電話でも良かったんですが、直接と思いましてね。昨日のハンマー男、死にましたよ!」

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