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無名世界の理  作者: 仁藤世音
第一章 出会い
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崎谷美希3

 崎谷の作った資料は非の打ちどころがなかった。なんで手書きなのか分からないけど、俺はこれをデジタルに起こすだけでいい。実質完成だ。


「ありがとう……。こんなにサクッと作るなんて。おまけに字もすごく綺麗」


 その言葉に崎谷は安堵したらしく、初めて柔らかい表情を見せた。まるで白百合が咲いたような恐ろしい可憐さに、ついドキッとして目を逸らしてしまった。そこでPC画面に映っている広告に目が留まってしまった。来週に迫ったスーパースター、オゼ・クラウス一座の日本公演。厄介なファンである俺はそのことで頭がいっぱいになり、崎谷に語りだすのを止められなかった


「崎谷はオゼ・クラウス知ってる?」

「これ? 知らないけど」

「もったいない! すっごいパフォーマーなんだよ。オゼひとりでサーカス団一個分以上の刺激をくれるんだ! 一座のナッツ・ナイトとキャンディ・ドールもすごいけどオゼには敵わない。ああ語彙力が足りない! 見てくれないと分からないんだよどうしても! えっとそうだ! 世界を壊そうとしてるなんて陰謀論もあったりするんだよ。ただのパフォーマーにそこまでの話が着いてくるところが、凄さを物語ってるってもんよ」

「そ、そう……」


 ……しまった。せっかく少し打ち解けたのに、今日だけで何度引かれただろう? しかし崎谷は意外にもこの陰謀論に興味を持ったらしい。陰謀って何って聞かれたら、もう言うしかないじゃないか。俺に、オゼのこと話せと言われたら話しちゃうじゃないか。


「ほら、ここ数年って色んなところで戦争みたいの起きてるじゃない? オゼ一座は世界中色んなとこで公演するんだけど、公演してから一週間くらい経つとその地域で必ずなにかしらの暴動が起きるんだよ。それが結局、そういう戦闘行為に発展するわけ。直近だとそうね……、去年暮れのフランスの暴動、今年二月のアゼルバイジャンの油田を巡った戦闘、それと先月まで続いてたブラジルの人権派と反人権派の大規模なやつ。どれもさ、戦闘が始まる一週間前にオゼ一座がその地域で公演してるんだよ。遡ればもっと例はあるよ。でもオゼ一座はさっき言った三人しかいないし、人気者で忙しいからさ、そういう工作? やってる時間は無いわけで、完全にただの陰謀なわけさ」

「なる、ほど?」


 崎谷があんまり深刻な顔でいるのでなんだか不安なってきた。この人は頭の造りが色々と違う。きっと俺より賢くて色んなものが見えているはずだ。もしかしたらこの話のどこかに疑念を抱いたのかもしれない。ギブリ伝説だって、本当の事だと確信して足跡を追っているとか……。

 我ながら飛躍が過ぎる。馬鹿らしくなって全身から力が抜けた。


「まぁここ数年、世界が平和じゃないだけだよ。その公演のチケット取ったから俺の来週はお祭りだけどさ!」

「それはよかったね。ありがとう」

「え、何が? こっちこそ資料(これ)ありがとう」


 崎谷の言動の奇妙さは、俺には一生理解できないんだろうな。

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