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無名世界の理  作者: 仁藤世音
第一章 出会い
11/14

正体1

 崎谷は俺と目を合わせず、俯きがちになった。ふっと目を上げ何か言いかけては言葉に詰まり、言いかけては首を振る。これが、こんな様を見せるやつが俺を悩ませたあの崎谷美希だなんて。忌々しいまでの自信は今や欠片もなく、俺はただ黙って、この哀れでさえある女性の言葉を待った。いい加減足がしびれてきた時、彼女は両ひざをつき、しかしまだ目を合わせずにか細い声を絞り出した。


「佐久間くんを殺しに来る人は、私が返り討ちにするから、安心して!」

「も、もう来ないよ……。公演に行ったあの日、オゼに刺客を二人送ったって言われたんだ。夢の中でだけど」

「……え? 本当に?」


 無言で頷くと崎谷は崩れ落ちた。ごめんなさい、ごめんなさいと懺悔に勤しみだした。


「夢だから、現実じゃないよ」


 何を言ってるんだ! 自分ではもう確信してるのに、一切疑わずに信じた崎谷を前に否定の言葉が出ていた。しかし崎谷は小さく首を横に振って、やっと目が合った。何ともネガティブな、不幸の色がズンと俺の心を掴んだ。重大な失敗を既にしてしまったような、悲痛な心もとなさが両手を固く握りしめさせた。


「私は人間じゃない。砂を操ることが出来る砂の魔神なの」


 なんて突拍子の無い! しかし左腕を白い砂に変質させ、銃や鳥、テレビなど色んなものに変えてみせたの。崎谷は俺に考える時間を与えずに話を続ける。


「オゼ・クラウスは電気の魔神。ずっと……探してたんだ。十年前に電気の魔神が新しいやつに替わって、それから世界中の治安がおかしくなり始めた。全部あいつの仕業。それをとめたくて、でもまさか堂々と表舞台に出てるとは思わなくて。佐久間くんがクラウスの話をしてくれて初めて、そこに焦点を当てられた。そのお礼って言うか、佐久間くんを洗脳させないようにって。でも、それも上手くいかなくて……」

「分かったよ。ありがとう」


 崎谷の継ぎ接ぎの言葉を強引に遮った。分かったとは言い難い。分かってはいけないと、意固地にさえなったかもしれない。ただ崎谷に悪気がないこと、崎谷が悪いわけじゃないことは、信じてもいいような気になってしまった。だから今はとりあえず、信じるのだ。

 もっと詳しく聞いておきたいと思ったが、考えなければいけないことがあったのを思い出して焦燥感で背筋が震えた。


「あの刑事はもしかして死んだのか?」

「う、うん……。砂で窒息させて、殺し、ました。あとこれ、護身用にいるかと思って……」

「おい……嘘だろ」


 崎谷はお腹に穴を開けて三丁の拳銃を取り出した。取り出し方にもぞっとしたが、取り出された物が何よりとってもまずい。俺は殺人の嫌疑と銃を持って逃走した容疑者になってしまう。


「この拳銃、戻せない?」

「今なら間に合うかも! 行ってきます」


 そう言うや否や、砂嵐を起こして消えてしまった。さて、拳銃を返せたとすれば俺の容疑は晴れるだろうか? そんなことはない。ハンマー男が俺を殺そうとして、そのハンマー男を浦中が射殺し、その浦中を俺が殺したいう奇妙な事実認識は警察や報道をどう突き動かすだろう。おばあちゃんたちに心労をかけるのはもう避けられない。浦中のやつが死んだというのはショックな話だけど、それよりは俺の身の安全が大切だ。そう思ってすごく嫌な感じがした。人が目の前で死んだのに、自分の心はドライすぎる。もしかして俺はこういうやつなのか? 首を振った。余計なことは考えない方が良い。

 木々の隙間から空を見上げた。夏の暑さがキツくなる時間になってきている。

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