プロローグ:第2話「学校」
「ほらほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ」
涼音はそう言うと自らも鞄やらゴルフバックの様なものを抱えると100面ダイスを1つ20面ダイスを1つ10面ダイスを1つ、それらを無造作に投げる。
すると出た目はこのようなものだった。
100面=1
20面=1
10面=1
するとダイスは空気に溶けていくかのように消えていく。それと同時にゴルフバックやカバンになにか荷物が入ったようにずっしりと重量感を見せた。
「またこれなのね」
それだけ言うと涼音は家の庭へと降りていく。
「まーたあの術式かよ。ツマンネェーナ」
「膨大生命?」
声の元を辿るとそこには鳥籠に囲われた声の主、小鳥がパサパサと羽を振りながらそう言っていた。
「今のが何か分かるの?」
「そりゃ当然。俺に込められ尽くした命はあいつも含まれるからな」
「その言葉の意図も聞きたいけど。今は鈴音の術式を聞かせて」
「簡単さ。運命論から未来を導き出すことによってその運命を自分の都合のいい方向に変える自動型術式構築論。大雑把に言うと未来予知して今後自分の必要な術式を自動的に工作キットから自分の持っている要素をつかって魔術を生み出すのが彼女の魔術だよ」
「それって」
簡単に言うがそれは魔術の基礎を知った結坂からすればとんでもないと思った。要素とは簡単に言うと魔術を構成する部品のようなものだ。つまり要素を集めるだけ集めれば自動的に彼女は強くなるし未来を見ている訳だから敵がどんな相手だろうと自動的にそれに対しての特攻魔術を生み出し叩き潰す。
「つまり彼女に勝つには元々の素養と彼女の特攻魔術の範囲外にある魔術しかないが、少なくとも現実的に存在する要素を持った魔術ならまず勝てない。英雄だろうが神様だろうが物質だろうが現象だろうが認知された存在である時点で、いやあらゆる歴史的に存在するものであればまず勝てない。やるならクトゥルフ神話にいる外なる宇宙から来た白痴の王とかそんな未知で覆い尽くされた出身ないとな」
「世界でいちばん強いんじゃないのか…………」
「いや全く、弱点が多々あるからな。話はこれで終わり!ほらほらさっさと学校行きな」
そこで小鳥が話を終わらせると学校へ向かうように催促した。
「さて学校への登校中だが魔術の基礎を覚えたおまえにいくつか絶対に必要なものを教えとこうと思う」
「こういう時間をまで勉強につぎ込むわけか」
「当然だよ。既にいつ世界が滅んでもおかしくない程度には時間が無いんだ。魔術種たちの儀式も上手くいってない。七億ほどいた魔術種も既に1000万程まで減ったが銅貨系が0•1割銀貨系1割金貨が7割しか残ってない」
「それほとんど銀貨系ってこと?」
「まあな。知っての通り魔術種の数は全体数は収縮期間が始まった時には約七億、銅貨、6億9000万、銀貨系が1000万程度、残った端数が金貨系。
つっても銅貨系は弱いわけでも金貨が強い訳でもないけどな」
魔術種には位がある。
今言った3つ、銅貨、銀貨、金貨、この三種類は世界を救う理論を提唱することにより変動する。要は世界を救う手段としての論文を提出することで魔術種の位が上がるわけだ。
決して実力で変動する訳では無いが、実力に関係しないわけでは無い。そうであるなら金貨はすぐになくなっているはずだ。何せ金貨の数は1桁にしか満たしていない。銀貨も数としてはものすごく少ない。
「私は金貨や銀貨を見た覚えはないけどそんなに強いの?」
「大事なのは強さじゃねぇと言いたいがそうだな、金貨はまず魔術種としての純粋な強さじゃ通じない魔術を持っていたりする。有名なところでいえばアーサー、あいつは自らの人生に意味を生み出した魔術種、あいつの人生にピクト人と呼ばれた存在が島におしよせた時全ての外敵をたった1本の剣により切り伏せることでその件をあらゆる外敵に対しての絶対の力を生み出した。
簡単に言えば世界だろうが何であろうが外敵として分かればそれだけで防御していようが世界を叩き割ったり、攻撃という枠組みにハマった物、例えば銃とかで撃っても攻撃というという枠組みを斬ることで全ての狙った場所とは別の方に飛ぶとか、まあ頭のおかしい術式だ。」
なんだそれ?、そんなふうに思うしか無かった。それはつまり剣を振り回しているだけで完全無敵の力ではないか。
「まあそんな簡単じゃねぇと思うがな、今言った事はあくまで本人が発表した訳じゃなく多くの魔術種が考察した結果でしかない。金貨系は基本頭のネジが紛失どころか、歪みまくって捻じ切れたような奴らしかいねぇし」
「そう」
だがひとつ疑問が浮かんだ。少し聞くべきか悩むが、やっぱり答えてもらおうと口を開けようとすると。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
突如何かが繋の目の前に降ってきた。咄嗟のことで驚き、固まったがすぐに認識し直すと、目の前に落ちてきたのは人だと分かる。
自然と落ちてきたの方向から見れば一瞬、ほんの一瞬だが何か見えた。
しかしそれはコンマ1秒も残さず消え去った。
それにしてもこいつまさか屋上から飛び降りたのか?何かは知らないがそれでも屋上から飛び降りたら足の骨が折れかねないのに。高さなら4階建てだ。
「……大丈夫ですか」
「ああ、平気だよ。悪いな驚かせて」
いやほんとだよ!とツッコミたいが、まあとりあえず置いておこう。
「あれ?お前、俺らと一緒の学生か」
「転校生だよ。まだ何組かは知らないけど3年生」
「そっか、なら同じクラスかもな。でも急いだ方がいいぞ。あと10分で朝礼だし」
「そう、それはそれとしてあなた鞄は?」
「…………………」
鞄、つまり学業の為に必要な教科書が入っている鞄のことを言った。しかし少なくとも彼の両手には何もない。
「やっちまったァァァァァ!!!!」
そう言うとこれはすぐさま走り出した。
「頑張って〜」
心無い言葉を送るといつの間にか隠れていた小鳥が鞄から飛び出してきた。
「あーあいつかー」
「知り合い?」
そう聞くが少しだけ目を閉じ首を振るだけだ。
「単純に有名人ってだけだよ」
「そう」
そう言うと続きの魔術講座を話していくのだった。
「ねーねー絆〜、まだ連条君来てないみたいだよー」
「マジで!?あのバカ、何度遅刻すれば済むのよ!」
そう声を発したのは短髪おカッパの女の子『神崎花』。返事をしたのは髪が方まで届く白髪のセーラー服の少女『結月絆』。
「ごめん先行ってて、ちょっと連絡してるから悪いけど先生に説明してくれる?」
「OKっバッチグー!了解しました親友、裏からこっそり来なよ。来る時恥ずかしいだろうし」
「そうだね。さすがに全校集会でバレるのは恥ずいわー、全くあのアホは何をしてんだか」
花はそう言うとスタコラサッサと、駆け足で行き。
「ゴラァ!廊下を走るんじゃねぇ!」
「ギャア!肉ゴリラ先生!」
「誰が肉ゴリラだァァァァ!!!!」
「きゃ〜にっげろ〜」
などとキレられながらブーンと両手を横に伸ばしながら走り去るのであった。
それを目の端で見ながら何をしてるのと思いながら電話を入れるが。
「繋がらない…………まさか、また壊れたの!?」
そういうが、それには軽い事情があった。そこまで大事ではないが連条は良くヤンチャをするためスマホをよく壊すのだ
スマホを買い始めて5年、1ヶ月と無事だったスマホは存在しない。いや半月もてばまだマシも言える。いままで壊したスマホの数は100台を超える可能性もある。
「あのバカ、一体何をしていればここまで壊せるのよ」
「あの」
「だいたいあいついつも何してんのよ。1ヶ月最低1台は壊してるのよ最高で6台って一体何をすればそうなるのよ!!」
「少しいいっ」
「そもそもあいつの家の家計ってどうなってるわけ!?これだけ壊しておいてなんでお家の方は何も言おうとしないってあいつの家そんな金持ちなの!?」
「あの」
「ええい!さっきから何よ!」
「職員室の場所教えて欲しいのですが」
「は?」
連条への不満やストレスを吐いていると唐突に何か目の前に人型の物体が現れた。
第一印象としてはとても綺麗な女の子に見えた。髪がとても長く清楚で見える女の子。その目に瞳孔はなくまるで絶望でもしているように勘違いしてしまいそうなものだった。
「え、ああ、職員室なら入口から入ると左手に真っ直ぐ進めばあるわ」
さすがに目が絶望しているとは直接は言えないのでとりあえず要求されたことを教えると絆はそうだと思いながらこんなことを口に出す。
「良かったら職員室まで連れて行くよ」
「そう、ありがとう」
「いえいえどういたしまして」
そうして向かうことになった。どうやら声色からすると別に落ち込んでいる訳ではなく初めからこの目なのだろう。正直なところこの絶望眼球をなんの理由もなく初めからと。
「ところで職員室の場所を知らないってもしかして転校生」
「そう。今日から3年の教室に入るみたい。組は知らないけど」
「へ〜そうなんだ、私は1組の結月絆、あなたのお名前は?」
私はそう言うと彼女は少し驚いた様子を見せながら少女は答える。
「私は結坂繋、繋がりって書いてキズナ」
「そうなんだ!いい名前じゃない。繋がる絆かぁ、私は直球だなぁ」
「そう。ところで結月さんはなんで上靴を2つも?」
結坂は指を指しながら言うと私はきっと呆れたような顔をしたのだろう。
「ああ、これはとあるバカが遅刻したせいで学級委員長の私が届けなきゃいけなくてね。ほんとあのアホは」
「そうなの、学級委員長って大変なんだ」
「まぁ朝一番に来なきゃ行けないのは少し辛いけど、生活リズムを維持できるって一面があるし。大事な時に遅れたりはしないからね、こういうバカさえ居なければ。うちのクラスは嫌がって副委員長がいないから遅れたら確実に私の方に皺寄せが来てしまうんだ。
一番の理由としては私の幼馴染が一番の問題児って言うことくらいだけど」
2人は会話をしながら職員室手前まで行くと緑髪の高身長の男性が出てくる。
彼は2人を見ると手招きするように繋に手を向ける。
「やぁ、君が転校生の結坂繋だね。よく来たよ」
「あ、植花先生。おはようございます!」
緑髪の彼は垂れた目線を絆の方に向け、挨拶を返す。
「案内ご苦労さま、もう行っていいよ。校門で彼方くんを待っててあげなさい」
「はい!先生」
そう言うと彼女は歩いて校門へと向かった。
残った2人は数秒沈黙した後………
ドッ
まるでホラー映画によくある廊下のライトの点滅で幽霊が出てくるような雰囲気の切り替わりが起きた。
空気が凍る。寒いのではない、とても冷たい。
冷える。冷える!。冷える!!。
背筋がゾクッと、まるで暗い夜道でナイフを持ち歩いた人に後ろから見られたような絶望感が襲う。
「それで君は何者かな」
声は軽やかだ。だが返事は求めていなかった、まるで罪状でも読み上げるように。
無理だ、勝てない。
率直の感想だった。魔術種。まだ一般的な知識しか入ってない私ではまず相手にすらならない。チュートリアルすらクリアしてない初心者がゲームをやり尽くしたトップレベルに対して闘うようなものだ。
しかも相手はこちらを逃がす気はサラサラない。
「一応自己紹介としておく。『花の魔術種』植花 育咲」
やっと僅かに空気が戻ったのか、それとも返事を返せる権利を与えられたのか。しかし今はどうでもいい、ここで機嫌を悪くして戦闘を行うよりはまず現状が変わらなくとも答えておいた方がいい。
「落ち着いなよ植花」
口を開こうとした時、カバンから小鳥が人の言葉で語り掛ける。それに対し少し驚きを見せたような目をしたがすぐに落ち着く。
「膨大生命、何故あなたが得体の知れない者と一緒に。既に魔術種は拡散を止め収縮へと切り替えています、だと言うのに彼女のような例外を……」
「だから落ち着きなと言っただろうあらゆる物事には例外がある、自身の予測できないことに対して警戒を出すのはいいが例外の予測ができないのでは話にならないよ」
そう言うと植花は僅かに考え息を大きく吸い、吐く。冷静さを取り戻した植花はぺこりと頭を下げる。
「済まない繋、どうやら頭に血が登ってたようだ。安心してくれ、攻撃するつもりは無くなった」
「いや攻撃するつもりだったのか」
思わずツッコミを入れる繋。
「さて膨大生命、事情は話してくれるのですか」
「魔術師どもが勝手に製造した魔術種を涼音が保護したんだよ。ただそれだけ、それを放置も出来ないから魔術種として生きさせることにした。人間として育てればは大半が反対するだろう魔術種は」
「……そうですか、分かりました。では市内の魔術種にはこちらから伝えておきます。早めに登録を」
「分かっている。今日中には登録する予定だ」
それだけ言うと彼は繋へと向き直る。
「繋、君の教室は3年1組だから、先に入っておくといいよ」
初めの空気はいつの間にか霧散しており。固まっていた体がやっと動きだした。
「あの魔術種、何者?」
僅かに震えた声が小鳥に届く。
ああ、そりゃあ怖いか。まぁ怖いっつー言葉がどんなものか理解出来てるのか分からないが。初めて鈴音や膨大生命以外の魔術種と出会ったからな。
「1000万の魔術種の中の1人、銀貨系、花の魔術種って呼ばれてるベテランだよ」
「あれが1000万いるのか…………」
「まあお前は生まれる時代を間違えたって言うしかないな、ここ十数年で銅貨系は滅んだり昇華して銀貨系になってほとんど居ないからな」
「あんなのが1000万居るのに滅びる世界か」
その言葉に返せる言葉が思い浮かばず小鳥はチュンチュンと鳴いただけだった