八月
八月
追い風に追われた入道雲は
むかし誰かが書き損ねたラブレターを
切り裂いて捨てたように
千切れて空に散らばっている
一つ一つ形の違う切れ端が
引き裂かれていく八月の
悲しみを詩っている
山々の頂にも
緩やかな弧を描く青い水平線にも
ギラギラと眩しい太陽がまだ
夏を装っている
蒼い翳りが
ちぎれた雲の一片を
手繰り寄せるのを私は見た
もう季節が変わっていると
言い放たれ
たくさんのコスモスが揺れる野原
空が知らぬ顔をして遠ざかる
しーんと静まった朝
蝉がまだ温もりの残る土の上に横たわる
夏はもう樹の下に埋められた
八月に
早朝の大気はひやりと
裸足のつま先は
日が高く昇るのを
深く首を垂れたひまわりと一緒に待つ
携帯のメッセージでもなく、ラインのスタンプでもなく、手書きのラヴレターを何枚書きそこねたことか。でももらう側は嬉しい!