第6話 リュミエルの歴史
必要な素材は森にある一番高い木の上や、
たくさんキノコが生えている中で
色違いで別の種類のキノコを探すなど
面倒くさいものばかりだったけど
何とか必要な素材を集め終わる。
全部の素材を回収した私は
オシノさんの小屋に戻ってくる。
「ほほう、早いじゃないか。思ったより
動ける子なんだね。」
「これでペンダントに力を与えることが
出来るんですか?」
私はオシノさんの前に集めた素材を
全て目の前に並べる。
「ご苦労さん。それはあっちに置いとくれ」
あれ…この素材はどうするの?
「あのう、この素材は使わないんですか?」
「ああ、その素材は関係ないからよけな。」
ええ?じゃあ何のために私集めてきたの!?
「ではそのペンダントを私によこすんだ。
少し時間はかかるが少し待ってもらうよ。
本を読むのがすきなんだろう?なら
そこらへんにある本でも読んでな。」
机の上には大量の本が積み重なっていた。
どれも見たことの無い本ばかりだった。
その中で1冊の本に目がとまる。
題名は「精霊王と獣人姫」
私はその本をとり、読み始める。
遥か昔、人は魔族により生きる場を失い
滅ぼされようとしていた。
その事態を重く見た妖精の王は
自分の息子を含む4人の戦士を
精霊王と名づけ地上の人間たち
の手助けを命じた。
その時まだ弱小国であったリュミエル国
の王に4人の精霊王の存在と
他種族の血が混じらない者を妻として
子を成せ。さすればその子供はエルフ
と呼ばれる種族として生まれ人よりも
強き者として魔を滅ぼすであろう。
そう伝えたことによりリュミエル国は
王女と3人の貴族の娘を精霊王の妻として
精霊王へと婚姻をすすめる。
4人の王はそれぞれ妻を娶ることになり
エルフの子供が10人生まれる。
特にリュミエル王女と風の精霊王との間に
生まれたエルフはすさまじい魔力の持ち主
となり、魔族を滅ぼす力「光の魔力」を
もつエルフとして、他のエルフと
人間の兵士を率いて魔族の帝国を滅ぼす。
魔族の帝国を滅ぼした後は
火と土の精霊王は妖精王の元へ戻り、
水の精霊王はどこかの湖の祠の中で
眠りに付き、風の精霊王は人間たちの
行く末を見守るため人間界に残った。
風の精霊王が猫族で獣人の娘を見つけた
のはまったくの偶然で、敵対していた
種族を何故か精霊王は自分の隠れ家に
かくまうことにした。
最初は敵対、言うことを聞かない猫族の娘
であったが、次第に心を開いていく。
精霊王も獣人を愛してはいけないと知りつつ
心を惹かれていく。
猫族の娘はいつの間にか精霊王を愛してしまい
精霊王もそれを受け入れてくれた。
しかし彼女には伝えなければならない
事実が隠されていた。
彼女は精霊王に伝える。
「私は帝国の皇帝の娘です。貴方と共に
生きていくことは出来ませぬ。」
妖精王の使命は帝国の滅亡。
皇帝の娘を生かすどころではなく
自分の妻に迎えるなど出来るわけがない。
精霊王は苦悩する。帝国の皇女を
自分はどうすればいいのかと。
風の精霊王の妻であり、
リュミエル国の女王は
精霊王が自分から心が離れていくのを
許せずにいた。彼女は普通の人間であり
時間と共に老いが自分の美貌を失うあせり
いつまでも変わらない息子や夫に嫉妬し
最近精霊王が猫族の娘を飼っているのでは
という情報を仕入れ嫉妬に狂っていた。
女王は息子の王子に獣人の娘を消し去るよう
勅命を下し、王子は母の願いであるならばと
精霊王の隠れ家へと向かう。
精霊王は女王に呼ばれ家を空けていた。
エルフの王子は家に押し入り猫族の娘を
発見する。全てを悟った猫族の娘は
エルフの王子が放つ光の魔法を受け入れる。
こうして彼女は消え去ることになる。
戻ってきた精霊王にエルフの王子は
事の結末を伝える。
それを聞いた精霊王は王子に国の全てを
任せると伝え、自分はこの世界の
風の一部となるといって光の粒子となり
消えてしまった。
その話を王子から聞いた女王は狂乱し
妖精王へ魔族と自分の一族が同じことに
ならないように呪いをかけてほしいと
嘆願する。妖精王も息子である風の
精霊王の行動に怒りを収められず、
魔族の魔力と精霊の魔力が接触すると
魔力の流れが乱される呪いを全ての
エルフに与えることになった。
これ以降、人間以外の妻を持つことが
出来なくなったエルフは特定の貴族から
自分の夫や妻を選ぶようになる。
全てを読み終わった後、
私は泣いていることに気が付いた。
「うっく…。」
「やれやれ、色々ある中でその本を
選ぶかね。なんというかお前さんらしい。」
「私らしい…ですか?」
「ああ、なんとなく自分に重なるって
おもったんじゃないかい?」
まあ、私はただの亜人だけど、
種族立場の違いの悲恋物はちょっと
今の自分にはタイムリーすぎた。
「まあ、ここまでひどくは無い
とは思いますけど。」
オシノさんは少し光っているエメラルドの
ペンダントをこちらに投げてよこす。
「ほら、終わったよ。それをつけてれば
魅了の力は封じれるし、能力の抑制も
つけてるだけで出来るよ。まあ、耳や尻尾を
押さえることは出来ないけどね。」
いつの間に終わったんだろう?
「あ、ありがとうございます。
意外に早かったんですね?」
「早くはないよ。外を見てごらん。」
そう言われて外を見てみると
すでに外は真っ暗だった。
「ええ!?もう夜なんですか!?」
「かなり真剣に読んでたからね。
まあ、おかげでこっちも集中して
作業を出来たよ。まあ、今日は遅い
隣の部屋が空いてるからそこで
泊まっていきな。」
さすがに夜中に森を抜ける勇気は無い。
オシノさんの好意に甘えて
今晩は泊めてもらうことにした。
次の日の朝、私はオシノさんの為に
朝ごはんを用意しようと思い、
森で食材を集めていた。
実は、昔アルとよく森で食材調達を
したりしてたので、食材の見分けは
バッチリ出来たりする。
キノコも、食べれるもの食べれないもの
見分けが付くしハーブなども
地味にこの森は生えてたりする。
食材を準備した後、台所を使って
料理を作っていると、後ろから
オシノさんに声をかけられる。
「あんた、料理できるのかい。
朝からいい匂いがしたんで
目が覚めちまったよ。」
「あ、オシノさん!おはようございます!」
「ああ、おはよう。それじゃ、
楽しみに待たせてもらおうかね。」
朝御飯を準備し終えて、テーブルを
片付けて料理を並べる。
「ふむ、いい味付けだ。
久しぶりに人の食事をしたよ。」
オシノさんは目を細めて笑っている。
私は喜んでもらったことが嬉しくて
尻尾を振りながら食事を始めようとして…
手元が滑ってしまい、気が付いたら
手に持ったフォークがキノコの炒め物と
一緒にオシノさんの目の前に投げてしまう。
「ああ!危ない!!」
あわててオシノさんをかばって手を
オシノさんの顔の前に差し出す。
何とか、フォークと食材を止めることは
できたが顔を汚してしまった!!
私がハンカチで顔を拭くと…
「やれやれ…油断したよ。」
オシノさんの顔がドロドロに溶けていく!?
私は突然のことに固まってしまう。
「まさかこんなタイミングで触られるとか
なんというか、面白い子だよ。」
おばあさんの顔がボトリと落ちそこには
美しい女性の顔があらわれる。
「え?ええ!?」
「獣人の魔力に反発して私の魔法が
はじかれちゃったようだね。」
オシノさんは黒いローブを取ると
そこには白い長髪に白い目をした
女性、私より少しお姉さんな感じの
美人さんが立っていた。
美しい顔よりも目立っているのは
人に比べて長い耳。そう人族と精霊王の
間に生まれるというエルフそのものだった。
「オシノさん…エルフなんですか?」
リュミエル全書に書いてあったが
エルフの特徴は外見の美しさと
長い耳であると書かれていた。
ちなみにハーフエルフというのは
人族とエルフの子供でエルフに比べて
耳が短い。人より少し長い程度らしい。
オシノさんの耳はどう見ても長く、
ハーフエルフよりも全然長そうだった。
「まあ、ばれたら仕方ないね。
その通りさ。私はエルフの生き残り
オルシェリア・ノイ・リュミエルさ。」
たしか、リュミエル全書にもあったけど
エルフって世界に10人しかいないって
結局戦争で何人か死んで残った4人が
エルフの王子と共にリュミエル王国を
作り上げたはずだったよね?
「エルフといえば王族ですよね?
どうしてこんな所に姿を
隠しているんですか?」
私の疑問に少し困ったような笑顔で
それでも教えてくれる。
「私は水の精霊王と人間の間に生まれた
エルフなのさ。ただし、その人間が
普通の人間じゃなかったのが問題でね。」
オシノさんは白髪を触って、
自分の白い目を指差して
「その人間はまったく魔力が無い人だった
だから、私が受け継いだのは無属性という
全属性を無とする魔力だった。
私を生むことで母は死に、精霊王は悲しみ
全てが終わった後自分を封印したみたいだね。」
あのお話の時代に本当に生きていた人が
今目の前にいることが正直理解を超えていた。
「まあ、色々あってからね。私は俗世から
逃げるようにこの森に隠れ住んだわけさ。」
「そうなんですか。もしかして、亜人の私が
触ったから呪いが発動したんですか?」
「ああ。妖精王の呪いは受けているから
触れられたことで魔力のコントロールが
出来なくなって姿が元に戻ったわけさ。
まあ、お前さんに跳ね返らないように
なんとかこっちで抑えておいたけどね。
まあ、しばらく魔法は使えなくなった
みたいだけどね。呪いがこれほどとは
想像以上だったよ。」
よく見ると、あちこちに切り傷のような
ものが付いている。これが反動のダメージ?
「いいかい。レシア王子と間違っても
亜人状態で触れ合うんじゃないよ。
王子はお前さんが亜人と知らないから
呪いの反動は100%の力で返ってくる。
今のお前さんの体では耐え切れない恐れが
あるから本当に気をつけるんだよ。」
「は、はい。分かりました。」
オシノさんはそういった後
奥の部屋のベッドにもぐりこむ。
「悪いけど、少し休ませてもらうよ。」
私は、食器などを片つけた後
オシノさんに頭を下げて小屋を出た。
とりあえず、魅了と亜人の身体能力制御を
出来るエメラルドのペンダントを取り付ける。
これでレシア王子を魅了してしまうことが
なくなるからちょっと安心だけど。
お店の前で言われたウィルさんの
王子に害なすものは消すって話。
私が亜人と知ったら殺される?
まだまだ、私の不安は取り除かれることは
無いかもと思いながら家に戻ったのでした。