第3話 私、亜人なの!?
「お母さん!お母さん!!」
私は寝巻きのまま1階へ降りて
台所にいるお母さんのところに向かう。
「どうしたの?…ああやっぱり。」
私を見たお母さんは驚きもせず私を抱きしめる。
「お、お母さん?」
お母さんに抱きしめられて私は
少し落ち着きを取り戻す。
「ミーシャ。あなたに話さねばいけないことがあるの。
お店の準備が終わったらあなたの部屋に行くから
少し待っててね。」
お母さんの真剣な顔を見た私は
素直に自分の部屋に戻りお母さんを待つことにした。
部屋に戻り改めて手鏡で自分の顔をみる
「これどう見ても猫耳だよね…。」
私の髪の色と同じ金と茶が混ざった虎色。
よく見ると尻尾も同じ色みたい。
猫耳を触ってみる。もふもふでまさに猫耳だ。
人間の耳もある。じゃあ4つ耳があるの?
「訳わかんない…。」
結局お母さんの話を聞かないと
何もわからないということね。
しばらくしてお母さんが部屋にやってきた。
「ミーシャ、待たせたわね。」
「ううん。いいけど…私どうなちゃうの?」
お母さんは私の猫耳をそっと触る。
「あう…」
くすぐったいような、不思議な感覚だ。
「何から話せばいいかしら…。そうね。
まず、あなたは亜人の猫族なの。」
私が亜人…?猫族?
「私、人間じゃないんだ…」
それはつまり…
「私、お父さんとお母さんの子供じゃないんだね。」
亜人であることよりも両親が実の親じゃないことに
私はショックを受けていた。
「ミーシャ、違うの。こういうことなのよ。」
お母さんが目をつぶり集中すると…
黒い猫耳と尻尾がお母さんにもあらわれた!?
「え!?お母さんも!?」
「私が亜人の猫族最後の生き残りだったの。」
お母さんが…亜人の猫族…。
亜人とは、リュミエル王国ができる前に
魔族の帝国で作られた種族で
帝国の崩壊と共にほとんどの亜人が
滅ぼされたとリュミエル全書にも
書かれてたのを思い出した。
「16歳の誕生日、耳と尻尾が生えると
亜人となってしまうのよ。
だから、今日何もなければ亜人の血は
受け継がれなかったことがわかったのだけど…」
つまり、お母さんたちはこうなること
わかってたってことなの?
「お母さん私って、このままなの?」
こんな姿、レシア王子に見られたくない。
アンちゃんやアルにだって見せられない。
「大丈夫、最初は感情が高ぶりすぎると
生えてくるけど、落ち着けば元に戻るわ。
慣れてくればコントロールもできるのよ。」
ずっとこのままじゃないと分かっただけでも
とりあえず安心したけど…
「ミーシャ、大丈夫?」
お母さんが私の頬を拭いてくれる。
いつの間にか泣いてたみたい…。
「ねえ、なんで先に教えてくれなかったの?」
先に知っていれば覚悟できてたかもしれないのに。
「亜人の力は子供に継承されにくいから
大体は普通の人間として16歳を過ぎるの。
ミーシャも大丈夫と思ってたのに…ごめんね。」
お母さんの目からボロボロと涙があふれてくる。
私、バカだ…お母さんだって苦しんでる。
子供に亜人かもしれないって伝えることが
どれだけ苦しいか…
「おかあさん、もう泣かないで。
私受け入れるよ。大丈夫だよ。」
もちろん受け入れたなんてウソだ。
でも、お母さんの泣く姿はこれ以上見たくない。
「ごめんね、ごめんね…私が母親だったから
ミーシャを苦しめることになったわ。」
「亜人とばれないように生きていけばいいだけだよ。
ほら、猫カフェだし従業員が猫耳や尻尾つけても…」
あ~そういうことか。もし私が亜人だったとしても
困らないようにお父さんたちはこういう特殊な店を
準備してたんだね…。
「そっか。私のこと考えてくれてたんだね。
お父さんとお母さん、2人とも大好きだよ。」
お母さんをこれ以上悲しませないように
手をギュッと握りしめる。
「ありがとう、ミーシャ。優しい子に
育ってくれて本当にお母さんうれしいわ。」
気がつけば私の猫耳と尻尾は引っ込んでいた。
「ミーシャ、聞いてもいいかしら?」
しばらくして落ち着いたお母さんが声をかけてくる。
「ん?なに?」
「ミーシャはレシア様のこと好きよね?」
お母さんがいきなりそんなことを言うので
私は顔を真っ赤にしてあわててしまう。
「え、ええ!?お母さん!!」
「成る程ね。感情の起伏の原因は
レシア様への恋心ということなのね。」
「な、な、なんで!」
慌てふためく私にお母さんは私の頭を指差す、
「猫耳、生えてるわよ。」
「はにゃあ!!」
あわてて隠そうとするが、すっかり出ちゃってるし。
「ミーシャ、その恋…とても困難で険しい道よ。
正直お母さんはミーシャが泣く姿を見たくないわ。」
お母さんの言いたいことは分かる。…けど。
「私ね、レシア王子の寂しい笑顔を見て
私がその寂しさを消してあげたい。
一緒に笑っていたいって思ったの。」
まともに話したのはあの湖での時間しかないけど。
それでも私が感じている、この思いにウソはない。
「そう…あなたの目を見たら止められないわね。
でも、お母さんの忠告は聞いてもらえる?」
「うん。」
「普通は年の差30歳なんて難しいと思うけど
妖精王の血の力で半分不老みたいなものだから
ここはあまり問題じゃないわ。」
でも、お母さん複雑そうな顔してる。
娘の好きな相手がが自分の昔の知り合いだから?
「まず、王族は平民を妻としない。
普通は貴族の中から選ばれる。」
そうだよね。いくらレシア王子が平民を大事にする
王族といっても普通は貴族から選ぶよね。
「そして…亜人であるあなたは王族と
かかわってはいけない。」
「え…?どういうこと?」
お母さんはつらそうに私を見つめた後
信じられない真実を伝えてくれる。
「亜人と妖精王の力は相反するものなの。
もしお互いにその力を出したら
無事ではすまないことになるわ。」
「それって…」
「あなたが耳や尻尾のある状態でレシア様に
触れるだけで妖精王の血が拒絶反応を起こし
呪い返しのように全ての痛みがあなたを襲うわ。」
お母さんの話をきいた私は頭が真っ白になる。
「それに周りの者が亜人と知ったら
二度と王子に会わせてくれなくなるわ。
レシア王子が何を言っても認められない。
亜人の血は妖精王の血をけがすものと
貴族や騎士は教わっているわ。」
お母さんがうそを言うとは思えない。
つまり、私が亜人とばれたら
もうレシア王子に会えなくなる。
「ふふ、でもそんなことで諦める子じゃないことは
子供の頃から知ってるから…
あなたの好きなように恋しなさい。」
私の初恋はとてもハードルが高いみたい…。
「そういえば…お父さんってお母さんが
亜人と知ってて結婚したの?」
さっきの話だと貴族だったお父さんは
亜人の血がけがれてると考えてたんじゃ?
「ええ、私が亜人だと知って貴族の地位を
捨てて平民として生きるって言ってくれたわ。」
おお!お父さん男だ!
「まあ、あの人ちょっと変わってて貴族の常識
とか色々無視できるような人だったから。
亜人って知って逆に喜ばれたのは忘れないわ…。」
お父さん…ある意味すごい人なのかも?
『ね~ね~おなかすいた。』
『ミーナママ、お昼食べたい~』
『めし~めし~』
ん?ドアの外から何か聞こえてくる?
「お母さん、何か聞こえない?」
「ああ、猫たちのお昼ご飯出さないとね。」
「え?この猫耳って…?」
「もちろん猫が何を言ってるか聞こえるわよ。」
お母さんがなぜあんなにも猫の扱いがうまいか
私自身の体験で知ることになった。
ちなみに後でお父さんに猫耳と尻尾を見せたら
「ふおおおお!!可愛すぎる!ミーシャ!!
このメイド服を着てパパ♪って呼んでおくれ!」
と興奮したところをお母さんのフライパンで
思い切り叩かれてた。
実の父だけど…ちょっと、ううん。かなり引いた。